囮になろうとした西川先輩
三人の敵は俺の作った風集壁に進路を阻まれ、立ち止まってあたりを探っている。風集壁の効果がある高さはほぼ人の高さの二倍程度しかない。やつらも、空気の歪みに気付いているはずだ。高さもすぐにばれる。それまでの間に少しでも離れたい。
すぐ先の角にたどり着きかけた時、奴らは風集壁に取りついていた。
乗り越えるのは時間の問題だ。
ならば、体勢を崩すに限る。
俺が風集壁を解くと、敵はそのまま地上に落下した。
立ち上がるのに、少し時間を稼げる。そう思っていた俺は甘かった。
奴らは見事なばかりに足から着地し、膝を折り曲げて衝撃を和らげたかと思うと、そのまま走り始めた。
角にたどり着いていた俺は、戦いやすい場所にやつらを誘い込みたくて、右に曲がろうとした。西川先輩とつないだ手がぴんと伸びたかと思うと、西川先輩は一度俺に走り寄り、手を離して両腕で、俺を思いっきり突き飛ばした。
不意を突かれた俺は見事に地面に倒れ込み、手だけでなく、足にも擦り傷を作った。
なんだ?
地面に倒れ込んだまま呆気にとられている俺を見捨てて、西川先輩は一人反対の左側の方向に走り始めた。
三人に囲まれた瞬間、奴らは何かを言おうとした。
「にし……」
「西川だな?」俺は西川先輩の意図が分かった。そして、奴らの深い意図までは分からないが、目的は分かった。あのアカサカ国境での復讐だ。いや、再侵攻のために邪魔者を抹殺しようとしているのかも知れない。
あの作戦に俺も参戦してはいるが、正規メンバーではない。だから、俺はその存在自体が敵には知られていない可能性がある。今、ここで狙われているのは自分。そう西川先輩は考えたんだ。
その時、奴らが西川先輩の後を追って、角を左に曲がって行くのが見えた。
女の子を囮にして、自分が助かるなんて、恥ずかしくてできやしない。
いや、それ以上に、ここで奴らを仕留めなければ、希未ちゃんもいずれ狙われる可能性が高い。奴らの目を俺に向けさせる。
「お前たちの部隊を葬ったのは、この俺だぁ」
大きな声で叫んだ。やつらはこれで向きを変え、俺に向かってくるはず。
奴らは西川先輩に向け、腕を差し出しながら、俺に背を向けて駆けたままだ。
俺の声が聞こえなかったのか、全く信用しなかったのかは分からないが、やつらは俺の事は無視したままだ。
「光制歪」
今回、俺は別の場所の光景を切り取るのではなく、奴らの周囲の光景を前後逆転させた。奴らの正面の光景には、今までいたはずの西川先輩の姿はなく、離れた位置に俺の姿があるだけだ。
この魔法の効果は校長が言ったとおり、てきめんだった。
奴らはすぐに立ち止まり、首を振ってあたりの様子をうかがっている。
俺から見ても、戸惑う奴らの位置を起点に周囲の光景は折り返していて、遠く離れた位置に俺の姿が見えていた。光がねじ曲がったおかげで、俺の位置からは西川先輩の姿は見えない。
「先輩、そのまま道の真ん中を真っ直ぐ走り続けてください」
俺は西川先輩の姿は見えないものの、大声で叫ぶように言った。
「東山君は大丈夫なの?」
こんな時も、俺のことを心配してくれるなんて、うれしいじゃないか。
「大丈夫です。
なので、お願いします」
そう言った頃には、奴らは自分たちの背後に西川先輩の姿を捕え、駆け始めた。つまり、俺の方向に向かってきた。
「了解!
真っ直ぐだね」
西川先輩の声が届いた。きっと、今頃、走り出しているはずだ。
奴らはこの道を直進し続ける事になる。俺も駆け出し、目的の場所を目指す。




