俺はけだものにはなりたくはない
目を開けた俺の全身から汗が噴き出していた。
恐ろしい。
戦争がじゃない。
人間と言う生き物が。
今見たものは俺の想像をはるかに超えていた。
それは人の心の闇だ。
どうすれば、あんな残虐な事ができるのか。
どうすれば、あんな簡単に人の命をもてあそべるのか。
どうすれば、人の痛みも考えずに、あんな欲望のまま行動がとれるのか。
俺自身がさっきの記憶の持ち主かのように、息が乱れている。
「どうだった?」
神山先生が言った。俺は思わず、神山先生を睨み返した。
神山先生は今、俺が見たものがどんな凄惨なものか知っているはずだ。なのに、平然とした表情で、俺に感想を求めている。そんな気が俺には知れない。
「よく平気な顔で、そんな事聞けますね」
俺の口調はかなり強かった。
「だって、それが真実なんだから仕方ないじゃない。戦争に負けるって事がどういう事か分かったんじゃない。
あなただけが人を殺すのは良くない事だと言っていても、戦争になったら相手に、その考えは伝わらないのよ。
あなたの守りたいものだって、守る事ができない。
守りたければ、戦うのよ」
「俺はあんなケダモノにはならない」
その俺の声は少し絶叫気味だった。
「私はあなたに、今見た記憶の中にいた兵士のようになれって言っていないわよ。
けだものから、あなたの大切なものを守るために戦えっていっているだけよ。
誤解しないでほしいわ」
その言葉は俺の熱くなりすぎていた頭を少し冷やした。
俺だって、憎しみや敵意を向けてくる相手に、何でも話し合いで物事を解決できるなんて思っちゃあいない。それは個人対個人だけでなく、国家間同志だって同じだ。戦争は起こるべくして起きる。
今見た事が戦争の真実だとしたら、敵を殺すことはできないなんて言っていたんでは、自分が殺されるだけだ。いや、自分だけですめばいいかも知れない。俺の大切な街は破壊され、大切な人が殺される。
竜が破壊した街の光景、そして夢で見た希未ちゃんが殺される光景が走馬灯のように、頭の中に甦り、俺は力をこめて、拳を握りしめた。
でも、俺には疑問があった。あの記憶の中の兵士だって、けだものとして生活していた訳じゃないはずだ。戦争が起こる前は、普通の人だったはずだ。それがどうして、けだもののようになれるのか。




