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人の記憶を封じた「記封人」

 俺が小首を傾げたまま黙っていると神山先生が話を続けた。


 「言わなくても分かっていると思うけど、君って本当にとんでもない才能があるんだよね」


 俺のMQ値の事を言っているのは分かった。だが、あの数値に意味はあるのか?あるんだったら、どうして、俺は落ちこぼれなんだ?

 あの数値には意味が無いか、何かの間違いで出た数値。それ以外ありえない。


 「ははは。でも、俺って、実は才能無いですよね」


 笑ってごまかす。それ以外できやしない。心の奥底ではいつかはなんて妄想を抱いてはいるが、俺に才能が無い事くらい分かっている。

 神山先生は黙って、真剣な表情で俺を見つめた。


 「それは違うわ」


 俺はごくりと生唾を飲み込んで、じっと神山先生を見つめた。

 俺ははっきり言って、自分のMQ値に押しつぶされていた。人をはるかに凌ぐ数値を持ちながら、まるっきり才能を開花させれていない。そのプレッシャーから逃れるためには、今の能力の無い自分を認め、MQ値自体を信頼性に乏しい物に貶めて、自分をピエロ化して笑いをとるしかなかった。

 でも、その心の奥底ではMQ値と言うものを信じ、あの憎たらしい山田はもちろん、その辺の他の人たちなんかを超越した力をいつかは手にしたい。そう思っていた。何か、その答えが聞ける。そんな気がした。


 「あなたはね。怖さから逃げているのよ」


 俺はその言葉にどきっとした。


 「怖さから?」

 「そう。人を殺める怖さ、人を傷つける怖さ。

 ある意味、究極的理想の人間だわ。

 でも、現実社会においては卑怯者。

 何かが起きても、自分がやらなくても、誰かがやってくれる。

 だから、本当の力は封印されたままなのよ」


 誰かがやってくれる。そう思っているのは確かだ。俺の周りには神山先生を始めとした立派な魔法を使える人たちがいる。俺が何かをする必要なんてない。


 「でもね。それでは大切なものは守れないのよ。

 あなたの本当の力が今必要なの」


 そう言って、神山先生は一枚の人の形をした紙を差し出した。

 頭の部分に赤い色で、「記封」と記されている。


 記封人。その紙には誰かの記憶の一部が魔力によって、封じ込められていて、必要な時に封印を解いて、記憶を封印を解いた者に見せる事ができる。だが、永遠に繰り返す事はできず、記憶を読みだす度に封印も紙に練り込まれている記憶も弱まり、「記封」と言う赤い文字は薄くなって行き、やがて文字は消え去り、ただの紙に戻る。

 俺の目の前にある記封人の頭部に描かれている文字はかなり薄くなっていて、何度も封印が解かれたものであるらしい事が分かる。それだけでなく、紙自身もくたびれ気味な上に、色も少し黄ばみ、シミがある。かなり古い時代のものかも知れない。

 俺は記封人を手に取って、神山先生に目を向けた。


 「これは?」

 「100年前の大戦を経験した人の記憶の一部よ。封印を解いて、記憶を読みだしてご覧なさい」


 100年前の戦争。それが竜が現れるまで、この国が経験した最後の戦争である。

 戦争。経験したことの無い俺の頭の中に浮かぶのは殺し合いである。人と人が殺しあう。そこでも、ここでも、あそこでも。

 見たくなんかない。そんな醜い世界は。でも、戦争と言うものを知る機会でもある。入り混じる二つの気持ち。


 「早くしなさい」


 神山先生が言った。これは命令調である。俺の心の中で、微妙なバランスだった見たさと見たくない気持ちは、正当な理由、そう思えるものを得た事で、一気に見たさに傾いた。


 「記解呪」


 俺は呪文をとなえた。記封人を持つ手から、生暖かい何かが腕に伝わって来る。それはまるで、虫が這い登って来るかのような感触を伴った生暖かさ。気持ちの悪さに耐えていると、それは首筋に到達し、首の中を這い登って来た。その瞬間、俺の意識は暗闇に沈んで行った。

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