緊急事態発生
俺は東山将人。王立北魔法学院高等部2年。
この世界は東側と呼ばれる俺たちの国カマクラがある大陸と西側と呼ばれるほとんどが海で、シマンズと言う島国からになっている。西側と東側では文化と言うか、民族に大きな違いがある。
東側は魔法と言うものが使える者がある確率で存在しているが、西側のシマンズには魔法を使える者は皆無であるらしい。シマンズでは魔法に代わって、機械文明と言うものが発達しているらしいが、二つの世界を隔てる海がその接触を妨げ、詳しい事は分かっていない。
まぁ、そこから機械文明なるもので、俺たちのところに攻めてきたとしても、この俺がばばばはぁーんとやっつけてやるのだが。
何しろ、俺はみんなから「天才君」と呼ばれる、MQ291と言う魔法の超天才なのだから。MQと言うのは魔法能指数と言って、魔法を使う才能を示すもので、普通の魔法使いは100あたりの数値である。それから遠くかけ離れた俺の才能はとんでもないレベルと言う事になる。
「はい。次、東山君」
神山結花先生の声が俺をリアルに引き戻した。この先生、20代前半と思わるのに、魔法の腕はかなりのものである。突き刺すような視線で目標を見定め、背中まで伸びた明るいブラウンの髪を揺らしながら、魔法を発動する姿はぞくぞくっとしてしまう。
俺は立ち上がり、ゆっくりと歩いて行く。俺の勇姿をみなが見つめている。そんな俺に向かって歩いてくるのは、今魔法の練習を終えたクラスメートの山田竜司。180cmの長身で、頭脳明晰、運動神経も抜群と言う俺のライバルだ。
細く吊り上った目で、俺をちらりと見たかと思うと、ふふんと鼻で笑って、俺の横を通り過ぎて行った。
「いいかな」
神山先生が俺の横に立って言った。俺の視線の先には薄い鉄でできた的が立っている。的には円が描かれていて、最も大きな円の直径は30cmほど、最も小さな円の直径は2cmほどで、5cm間隔で同心円が描かれていた。
中心から外側に2つ目の縁の部分に穴が開いている。山田の放った炎撃が穿った穴だ。なかなかいい場所に命中しているじゃないか。
「魔力で気をしっかりと固め、その周りに炎をまとわせながら、高速で射出するのよ。
それが炎撃弾」
俺は神山先生の言葉を思い出しながら、右手を軽く握りしめた。その中で魔力で気を固める。手のひらの中に何かころころする感触が芽生え始めた。
「ぎゅーうっと」
頭の中に圧縮するイメージを浮かべ、体を横に向けると、右腕を胸のあたりに近づけた。
「炎撃弾!」
俺は見定めた目標のど真ん中の円に目がけて、素早く右手を振りだした。俺の手のひらから、何かが飛び出して行く。
行けぇ。
俺の頭の中に、的のど真ん中を撃ちぬく炎の弾がイメージされた。
「ふぅ」
俺がやったぜと言う達成感で息を吐きだし、的に背を向ける。皆の視線が俺の放った炎撃弾をゆっくりと追っている。
本当なら、目で追えるなんてものではない。目にもとまらぬ速さで、敵を射抜く。俺は自分の放った炎撃弾の実力を認めたくなくて、視線をそらしているが、想像くらいできる。
俺の放った炎撃弾はへろへろと飛んでいるのだ。強い風に煽られれば、進路を思いっきり捻じ曲げられそうな弱々しい速度で漂いながら、的を目指している。しかし、その炎は弱々しく霧散し、的へ届く前に消えてしまうに違いない。
「もう一回やってみようか。もっと気を圧縮しなきゃいけないわね」
俺は神山先生の言葉で、もう一度視線を的に向けた。そこにはもう俺が放った炎撃弾は跡形も無かった。的には山田が開けた穴以外に、何人かの生徒たちが放った炎撃弾が命中した焼け焦げた跡がいくつかあっただけである。残念な事にと言うか、予想通りと言うか、俺がさっき放った炎撃弾が作った新たな痕跡は無い。
俺は気を取り直して、再び右手を握りしめた。その腕を勢いよく的に向けて、振りだした。
「炎撃弾!」
今度は自分の右手から射出された小さな炎を目で確かめた。ゆらゆらと小さな火の玉がゆらぎながら、ゆっくりと的に向かって行く。その大きさは的に向かうに従い、どんどんと小さくなって行き、的と俺との中間あたりで、消え去ってしまった。
「ま、いいか」
神山先生がそう言いながら、俺の肩をぽんと叩いた。俺は苦笑いを浮かべながら、さっきまで自分が座っていた場所に向かい始めた。
「次、南原さん」
神山先生の言葉に応え、少し先の場所に座っていた少女が立った。肩あたりまで伸びた黒い髪が、少し丸めの顔にバランスよくコントラストを作っている。南原希未。実は俺と希未ちゃんは同じ小学校出身である。
あと数歩で俺とすれ違う。
「まーくん。見ててね」
もうすぐで俺とすれ違うと言うタイミングで、彼女は俺に小さな声で、そう言った。俺は小さく頷いてみせた。彼女がにこりとしたのを俺は視線の横で感じた。
元の場所に座ると、視線を彼女に向けた。俺の仕草と同じように、右手を握りしめ、的に横向きになって、胸のあたりから一気に右腕を振りだした。
「炎撃弾」
彼女の手から何かが放たれたようにも見えたが、一瞬すぎてよく分からなかった。俺は視線をその先の的に向けた。的のど真ん中の円。そこに生じたくぼみの中で、赤い炎がしぼむように消えて行った。ど真ん中に命中した事に、見ていた生徒たちから感嘆の声があがっている
「すごい、すごい。ど真ん中に命中だね。
あとは貫通するだけの硬度が欲しいわね」
神山先生も手を叩きながら、彼女にそう言うと、もう一回やってみるよう促した。彼女に顔つきが真剣になった。大きく力をため込むかのように、息を吸い込むと、右手を握りしめた。
「炎撃弾」
彼女が手を振りだすと、俺は視線をその先にある的に向けた。さっきまで、貫通していなかった的のど真ん中から、校庭の向こうの風景が見えている。
同じ場所に二回命中させた。見ていた生徒たちから、拍手が沸き起こった。
俺も目を見開きながら、彼女に称賛の拍手を送った。
「はい。次、大宮さん」
神山先生が次の生徒を指名した時、視界が少し暗くなった。さっきまで、明るい日差しを放っていた青い空と俺たちの間に、何か薄くグレーの膜が張られたかのようだ。
「光幻像?」
神山先生が空を見上げながら、つぶやいた。
光幻像。自分の姿を遠く離れた位置にいる人物に見せる高等魔法。それを誰が?
やがて、視界の片隅に光の塊が生じ始めた。みなの視線がそこに集中した。
白髪。長く白いひげを蓄えた、これぞ魔法使いと言う風体の老人が光の中にぼんやりと浮かび始めた。校長先生だ。
「緊急事態が発生しました。当校の職員、生徒はただちに講堂に集合しなさい」
校長先生の言葉が俺の頭の中に響いた。校長先生の言葉が終わると、校長先生の姿はすーっと消え、空から再びまぶしいばかりの日差しが降り注いだ。
「みなさん、授業を中止して、講堂に向かいます」
神山先生の言葉に、生徒たちはお尻についた土を払いながら、一斉に立ち上がった。
「何があったんだ?」
「緊急事態ってくらいだから、よっぽどの事なんじゃね?」
ざわざわとした雰囲気と緊張感が入り混じった空間。神山先生の後について、俺たちは講堂を目指しはじめた。
「よっ、天才君。
もし戦争で、敵が攻めてきたとしても、俺がお守りするから、安心してくれや」
山田が俺の横に並んで、そう言った。こいつは俺の事がとにかく気に入らないらしい。とは言え、俺よりも優秀だけに、言い返すことができず、にこりと作り笑いを返すしかできなかった。




