5day 魔女の霊薬、輝く結晶
蒼子、今日はそろそろ温野菜のサラダ、温野菜のソテー、温野菜のスープから脱出して肉が喰いたいぞ。シャレオツカフェのテラスにて。朱人より。
「朱人、現実逃避をしても君の服装は替わらないし、衆人環視からは逃げられないと思うんだ」
そう、俺はまさしくパンダだった。
「お前は動物園の見せ物パンダになったことはあるか?俺はある。今このときがまさしくそれだ」
具体的には白の動きやすいシャツと、黒に限りなく近い紺色というカラーリング的にはまさしくパンダだ。
「それは君がゴスロリが嫌だっていうからわざわざ『専門店』で買ってきたのに」
丈の短い服が、俺の推定十代の身体にはとてもマッチしていて、魅力を十二分に引き出している。
「確かに俺は『背丈からして、学生っぽい格好が妥当だろう』という意見は出した」
胸元に書かれた『5-2』という数字も管理番号だと思えばずいぶんとパンダに則したものだろう。
「凄くよく似合ってるよ、その体操服」
「くっそがああああ!」
こいつが『子供服専門店』といった時点で気づくべきだった!専門店は専門店でもブルセラショップじゃねえか!
「なあ、お前から見て好奇の視線にさらされている俺の姿はどう見える?」
俺にはグラスに映る俺の姿は目が死んでいるように見えるがな!
「とてもかわいい」
「おまわりさーん!」
助けて!私はいたいけな少女!
「朱人、それ洒落になってないから!本当に呼ばれてるから!」
こっちも伊達や酔狂で叫んでねえよ!
@
「少女誘拐犯がこの店にいると通報を受けたのですが!」
そう言ってあわてて店内に飛び込んできたのは如何にも「今日が初めてです」といった雰囲気のブルーカラーだった。
「この人が私に変な服を着せたんです!」
そう言って俺は周りの男に羽交い締めにされているヴラドを指さした。マジ迫真の演技。
「貴様!日本男児のくせに女児相手に斯様な行いとは!許せん!」
「僕のこのナリを見て日本男児だと思うなら薩摩藩はイギリス辺りにぶっ飛んでるよ」
忘れがちだが、コイツは金髪碧眼のイケメンなのだ。滅びろよ、俺の日常のために。
「日本男児たるものランドセルは必需品だと愚考する!」
……嗚呼、こいつも日本男児かよ。
「君のような熱い漢こそが、今の日本に必要な人材だ!」
いいか、ヴラド。そんなヤツが必要な業界は少なくとも世間の平和を守るやつじゃなく、画面の向こう側の性欲を満たすためにデバッグを重ねるオッサン達だとおもうぞ。
「わかってくれるか同志よ!」
「今日から僕のことはヴラドと呼んでくれたまえ」
「おお、同志ヴラドよ!俺は甘木 忍。シノブと呼んでくれ!」
お前ら、熱い握手を交わすのはいいが、周りの一般客はドン引きだぞ。
「はぁ…。もういいとりあえず『そこに座れ』」
椅子を指さし、まほーぱうわーで無理やり押さえつける。
「いいか、『そこから動くな』。今まともな警察官を呼ぶから」
そう言ってカウンターで電話を持ったまま固まってるマスターの手から受話器を奪い去ると、3桁の数字をぶち込んだ。
@
「朱人ちゃん、あまり大人を困らせちゃだめだよ」
カフェテラスで勝利を確信していた俺は、なぜかキチンとした服を着せられ交番で婦警さんに説教されていた。
「俺だって大人だ!」
「うーん、お姉さんも仕事があるからあまり困らせないで欲しいんだけど」
「おかしい、何で俺が怒られているんだ」
「朱人ちゃん、悪いことをしたらごめんなさいだぞ。ほらお姉さんも一緒に謝ってあげるからヴラドさんに謝ろう?」
「そこ!まずおかしいのはそこだよ!」
何故か、悪いことをしていたのは俺の方で、ヴラドに迷惑をかけたことになっているんだ?
「いい?冗談であっても悪いことは悪いことなのよ。確かにヴラドさんは朱人ちゃんにケーキを食べさせてくれなかったかもしれない。けれど、朱人ちゃんはパフェを食べていてヴラドさんは朱人ちゃんが虫歯にならないように心配してくれたんだよ?」
ああ、わかった。アイツこの女性に妙な暗示かけやがった。
「ヴラーッド!てめえ!魅了でゴリ押ししてんじゃねえぞ!」
「こら!女の子が大声張り上げないの!」
メッ!された!おかしい!こんなのが日本の真実でいいのか!
「シノブ、朱人が涙目で顔真っ赤にしながらこちらを睨んでいるよ」
「ああ、とても癒されるな」
お前らまとめて死ね!あと、蒼子!助けにきてくれ!
「ヴラドさんには別に話がありますので、朱人ちゃんはあっちの部屋であっちのおまわりさんと遊んでてね」
「まって、お姉さん!あの変態と一緒の部屋にいたら子どもができちゃう!」
「……大丈夫よ、朱人ちゃん位の年ならまだ子どもはできないから」
「めっちゃ眼が泳いでるし、襲われること前提で話すのはやめてよ!」
ここは本当に法治国家なんですか?!やだー!
おい、ドアがまだ空いてるぞ!ヴラド、隙間からニヤニヤ見てんじゃねえ!助けろ!助けろ下さい!服が脱げる!!ごつい手で脱がされてる!!!
@
「もう家の外にはでない」
屋敷に帰ってきた俺は椅子の上に体育座りで丸くなっていた。
「なあ、ヴラド俺が迎えに行った時点でこいつこのザマだったけど、お前何したらこんなになるんだよ」
帰ってきてからずっと心配そうに蒼子が俺に話しかけてくれているが、心を閉ざした俺はいかなるママ力を持ってしても心を開くことはないのだ。
「僕は何もしてないよ。ただ、今回のは朱人の自爆みたいなところはあったけど」
「……ヴラド、想像してみろ。お前の体が小さくなって見知らぬ男に荒い吐息をかけられながら組み敷かれる絵面を」
「いや、それは見てみたかったというか参加したかったというか」
この男とは、もう二度と、口を利いてやらない。
「おい、よくわかんねえけどヴラドは謝ったほうがいいんじゃないか?」
「謝ってるんだけど、聞いてくれないんだよ」
「好きな食べ物とか贈り物とかはどうだ」
「あの姿だから忘れがちだけど、あれの中身って20代男性だから」
頑なな俺を解きほぐすことなど、貴様らには到底無理なのだ。
「あとは……。そうだ!蒼子ちゃんが自主的にエロいことをしてくれるっていうのはどうかな!」
「それだ!」
それなら俺もやぶさかではないぞ!自分からおねだりするエロメイドめ!この淫乱エロメイドめ!
「……そんなことになったら今度は俺が心を閉ざすだけだぞ」
そりゃそーだよね。俺だってそうだったもん。その場にまた座り直す。いつもの黒ゴスに着替えた俺は日常的にスカートを履くことに違和感を覚えなくなっていることに気づいて……ない!気づいてないぞ俺は!
「朱人、どうしたら機嫌を直してくれる?ゲームでも買ってこようか?」
「ゲームとか、自分で出せばいいし」
「凄い、ものづくりのプライドみたいな事を語っていた人間と同じせりふとは思えないね」
ヴラドは諦めたのか本を読み始めた。あーもー、超鬱ー。うぐぅ。
「ヴラド、どうするんだ?このままだとお嬢様が翼の生えたご都合主義の申し子みたいになるぞ」
「誰が鯛焼き食い逃げ少女だ。……輝くトラペゾヘドロンから飛び出すぞ」
「ああ、デウスエクスマキナって何でお前そんなドヤ顔なんだよ」
おれはもー、やりきったー。ただそこにあるおっぱいを揉むだけの存在になるのだー。
「お嬢様、無言で胸を揉むのは止めような?」
「もっとメイドっぽく言ってくれないとやだ」
「……これ以上俺の自尊心を削り取るようなら俺は実家に帰るぞ」
それはもっと嫌なので無言でもみ続けることにしよう。
「いや、もみ続けていいってわけでもないからな」
だが断る。この俺が一番好きなことはいやがるメイドの胸を揉みし抱き続けることなのだ。もっもっもっもっ。
メイドの声に桃色が混じり始めるとヴラドが本から顔を上げて混ざろうとするので、本日のメイドいじりは終了した。
「蒼子、おなかすいたー」
まあ、軽く2時間はいじり続けていたのですけれども。
「お、おま……っ!この状態の人間がっ!ひあっ!……料理できるわけあるあぁあ!」
「ヴラド、どうよ?どうよ、この俺のテクニック!」
吸血鬼界のイーグルと呼んでくれてもいいぞ。
「僕が参加できなかったから30点かな」
なんだなんだ、試験官の採点ずいぶん辛くねえか?賄賂が必要な時点で健全な点数じゃねえな!
「よし、エネルギー充填完了!ヴラド、なんか面白いことはないか!」
息も絶え絶えの蒼子を床に放り投げる。膝から崩れ落ちる蒼子が俺のスカートの裾を掴んで此方を睨む、そんな姿もキュートです。
「そうだね、異世界討伐とかいっちゃう?」
「なんだなんだ、異世界トリップか?エンターテインメントの香りがするな!」
「うんうん、元気になったようだしサックリいこうか、今回はどんな仕事があるかな」
俺は弱々しくつかむ蒼子の右手を優しく剥がし、両膝をついて目線を合わせる。
「蒼子、留守は任せた」
「かしこまり……ました……」
ヴラドに返事をする蒼子を抱き寄せるようにして耳元でそっと囁く。
「拘束放置プレイと体中の感度を100倍に引き上げた状態、どっちがいい?」
「もうエロ同人みたいな展開は勘弁して下さい」
なんだ、意外と根性がないな。
@
「というわけで、ざっくり来ました異世界」
「おまえ、ざっくりすぎるだろ。あとお前の異世界跳躍にはお姫様抱っこの少女が必須だったりするか?」
つい最近、俺があの館に連れて行かれた時と全く同じように、俺は抱きかかえられながら異世界に降り立った。いや、俺は抱きかかえられてるから降りてるのはヴラドなんだけど。
「まあ、一応僕に直接触れてないと異世界には来れないからね」
「ほう、じゃあさっきから俺のスカートに腕突っ込んで方々いじくり回してくれてるのはちゃんと理由があったんだな?」
おい、なに目をそらしてんだ?きっちり理由があったら俺は怒らないぞ?あ?
「……まずはこの世界の一番大きな国の王様に会いに行こうか」
「いつかまとめて返してもらうからな」
「覚えてたらね」
あと、そろそろ降ろせ。
@
「で、此処がこの世界の城下町」
ヴラドに手を引かれながら大きな門をくぐるとお約束のような中世ヨーロッパをジャパニーズ受け狙ったテイストにした光景が目の前に広がっていた。
「へー、意外と活気があるな」
活気があるといっても、休日の田舎の大型ショッピングモールくらいの混み具合なんだけど。それでもこの世界の文化レベルで言ったらこんなもんなのかな。
「お、そこのカワイイお嬢ちゃん!これ、新型のスマートフォン!最新のホログラフィック画面を搭載してるよ!」
「文化レベル高いな!そのスペックノートは街並みに反映させないのか?!」
「朱人、映画村って知ってる?」
「あー、そういう知りたくない事実を仮にも子どもに押し付けるのはどうよ。「サンタクロースの赤い服は返り血だ」って子守唄歌うもんじゃねえか」
もしくは耳のでかい等身大のネズミの中には20から45歳までの時給1500円の欲望が詰まっている……。むっ殺気!
「朱人、忍者はいないんだよ。ここにも、現代日本にも」
「だから、なんでお前はそうやって過剰な現実を押し付けてくるわけ?」
「そうやって人は大人になるんだよ。まあ、あそこにいる根暗そうな男は永遠に大人になれないとおもうよ。あそこと、あそこにいる男も」
おまえ、自分の顔がいいからって青少年の心をえぐるようなことをいうんじゃないよ。
「ヴラド、言っていいことと悪いことはある。彼らが素人童貞の可能性もあるだろ、いいかげんにしろ」
そして道行く青年たちは膝から崩れ落ちた。
@
「で、此処がこの国の玉座の間って言われる所」
「観光案内のノリでさくっと紹介してくれるのはいいんだけど、俺達以外は今にも「Cの今すぐ殺す」を選ぶ勢いだぞ」
そりゃそうだ。いきなり俺を抱きかかえたかと思ったら「スゴイジャーンプ」などとほざいてそのままガラス窓に突っ込んでいったのだから。
そんな重苦しい空気を打ち破ったのは、コレまた重苦しい咳払いだった。
「あー、招かざる客人よ。貴様が今ぶち破ったステンドグラスは娘の誕生祝いと建国1000年を記念して作られた特注品だったのだよ」
玉座に座る偉そうな格好をした……20代ぐらいの青年?あれ、ここは50歳くらいのオッサンが出てくるのが相場ってもんじゃないのか?
「物はいつか壊れる。娘さんには良い教訓になったね」
ヴラドはあくまでも自分のせいではないという体を貫くようだ。こいつは畜生ですよ。
「ちなみに娘の誕生日は明日だ」
おい、いたたまれない空気だぞ。あとオレを見るな、壊したのはお前だ。
「……まあ、そういうこともあるよ。あと、娘さんの誕生日おめでとう」
「そう思うなら次からはもう少し穏便に登場してくれ」
「前回それで浮気現場に遭遇しちゃったからな、っとコレは秘密だったっけ?」
ヴラドはそう言ってちらっと玉座の横に座る女性を見やる。
「ヴラドさん、その話は後でく・わ・し・く、お伺いしますが、今は娘の誕生祝いの贈り物をどう補填していただくか、ということです」
「うん、そうだね。浮気は男の甲斐性って言うしね。壊れたものは直すよ、彼女が」
「やっぱりその流れか……。でもみろよ、相手方はすげえ胡散臭そうだぞ」
「前回はステンドグラスを直すためのアロン○ルファを支給しただけだったからね」
ああ、疑われているのは俺の修復能力ではなくヴラドの人格の方か。
「細かいことはわからんが、とりあえず『直れ』」
壊れたステンドグラスが巻き戻し再生のように元の形を取り戻していく。周りからは「おお」と感嘆の声が上がる。
「ああ、良かった朱人の能力は界渡りに影響されないんだ」
「おい、俺が直せなかったらどうするつもりだったんだ?」
「うーん、城ごとなくしてたかな!」
おい、小上がりの上にいるお偉方が真っ青だぞ。良かったな、俺が直せて。
「無駄に脅しかける様な事をしてすまない、コレの手綱は俺がしっかりと握っているから今後の生活については保証しよう」
俺の能力を見たからか、彼らの俺に対する好感度は決して低くなさそうだ。というかヴラドの好感度が低すぎて相対的に高いだけな気もするが。
「それでは、まずはこれからの話をしよう」
主に俺の暇つぶしになりそうなモンスターとかモンスターとかモンスターとかの話を。
@
「改めて自己紹介をしよう。ヴラド、は知っていると思うから省くが俺はコレと同族の「朱人」だ。家名はないから好きに呼んでくれ」
「ロードシルク王国国王ロードシルク12世だ。これは王妃のクリスティーナ」
仰々しいイケメン国王の挨拶と後ろで恭しくお辞儀をするパツキン巨乳王妃様。
「ちなみに、娘さんの名前はアンジェリカだったりしないか?」
「よくわかったな。ちなみにそこの男が名付け親だ」
俺の拳は悪を貫く!鉄拳制裁ぱーんち!
「ナンデ?!朱人、ナンデ!?絶対喜ぶ流れでしょコレ!」
「アナタって本当に最低の屑だわ!」
「もしや、お前たちの国ではアンジェリカは良い名前ではないのか?」
何やらすごく不安そうな顔で見るイケメン国王。ああ、俺の怒り方を見ればそういう反応にもなるか。
「いや、安心してくれていい。元々は『天使』という意味の単語だったが、後に霊薬として薬効のある植物に付けられた名前だ。……天使は通じるか?」
「大丈夫だこの世界にも天使は存在する。それにしても積年の不安がまた一つ晴れた」
そりゃ、こんな不信感の塊みたいな奴が名付け親だったらなあ。俺だったらまずこんなヤツに任せないけどな。
「シュリ、と言ったか。なぜこんな不信感の塊みたいな害悪に名付け親を任せたかという顔をしているな?」
「まあ、そうだな。そこまでわかりやすい顔をしていたか?」
「いや、積年の思いがついこぼれ出てしまっただけだ。それで、なぜこんなクズの塊みたいな奴が名付け親かというとだな」
「そこからは僕が説明するよ!」
いつの間にか俺の鉄拳制裁パンチから復活したヴラドが口を挟んだ。
「それは、僕の仕事だからだ!」
あと、これから君の仕事にもなる。そう言ってどや顔で胸を張るのはいいが、ヤクザだってはじめは金を積んで地上げするもんだぞ?
@
「まさかと思うが、貴様また我々の財宝を盗み出すつもりではないだろうな!」
王様はやおら立ち上がるとヴラドに詰め寄った。おれも蒼子に聞いただけなので良くは分からないが、コイツの強引な仕事にはさすがに怒り心頭なのだろう。
「いやいや、今回は完全なボランティアだよ。なにせ彼女の初仕事なわけだし」
「そのセリフは我々から奪った秘宝を返してから言うんだな!」
「返したいのはやまやまだけど、もう結構使っちゃったよ?たぶんいまウチのメイドが洗濯してると思うけど、僕と朱人の体液まみれにしちゃったし」
「まて、まてまてまて。そこの少女に着せたのは、まあ許そう。美しい少女が着るのならば惜しいものの多少溜飲が下がる。しかし、今のお前の言い方ではまるで閨の際に使ったように聞こえるが?」
「あー。あの服やたらと着心地がいいと思ったらそういうレジェンダリー装備だったのか。普段使いしてたから気づかなかった」
「朱人ってばずっとあの服着てるから。僕がエロイことをしてる時に着せたんじゃなくて、あの服を着てる時に僕がエロいことをしただけの話だよ」
「結局貴様の仕業ではないかー!」
あ、王様の顔面崩壊した。激おこぷんぷん丸。
「まあまあ、そこまで言うなら完全に元の状態にして返すよ。朱人が」
「おまえ、何でもかんでも人に頼るような糞野郎かよ。しかし、良心が痛む俺はホイホイ返してしまうのだった」
半分、いや5分の1くらいは流されてエロイことをしてしまった俺の責任だしな。
無造作に右手を虚空に伸ばす。伸ばした先には元からあったかのように空間に亀裂が入り、俺の右手がズブリと飲み込まれる。
「『出てこい』」
ズルリ、と引きずり出されたのは俺がこのナリになってからの初期装備となっていた黒のフリフリドレス。
「コレでいいか」
ずいっと王様に突き出すと、横でだんまりを決め込んでいた王妃様が受け取る。
「随分と綺麗に洗濯されていますね、とても情事に使ったとは思えないわ」
「10回ぐらいボロボロにされたけど、気に入っていたからその都度俺が直した。ちなみに状態としては誰も袖を通していない状態まで戻してあるから、その服は娘さんに着せてやってくれ」
「ええ、わかりました。ですがその前に」
にっこりと微笑むそのご尊顔が見れただけでも返したかいがあったというものだ。
その笑顔を保ったまま王妃様はヴラドに向き直ると、一瞬王様を見て言った。
「ヴラドさんお仕事についてなのですが『浮気現場』の件の詳細な報告書の提出を願います。報酬は彼女に似合う洋服を私が見繕いますわ」
「クリス!?まさかこんなヤツの妄言を信じているのか!?」
「信じるか信じないかは話を聞いてから決めます。さあ、話して下さい」
どんなときでも、浮気はした奴が悪いよ。うん。