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3day 薔薇の絨毯爆撃

 リーンと、ベルが鳴る音が聞こえる。

「いいのか、出なくて」

「この家に来る僕の友人はベルを鳴らすという文化を10世紀前に捨ててきたような人間ばかりなんだ」

「おまえも性的モラルというものを捨ててきた口だよな」

「そんな、あんなに喜んでいたのに、もう不満かい朱人」

 残念なことに残念なこのバカは、無限の性欲を持ってして俺が分子レベルまで分解した息子をいきり立たせ、人に襲いかかってきたのだ。

『セカンドレイプ!これっていわゆるセカンドレイプでは!?』

『大丈夫大丈夫、ボケ補正入ってればレイプも和姦だから』

『くそ、まほーパワーさえあればお前なんて一人ホロコーストだ(塵すら残さない)っていうのに!』

『それに言っただろ、君は毎日がロストバージンだよ』

『ソレ言ってることサイテーだからな!後さり気なく人を毎日ブチ犯す宣言してんじゃねえよ糞が!』

『ふふふ、いつまでその強がりが保てるかな』

 なんて色気もへったくれもないロストバージン(2)を経験しながら、樹脂を介さないインファイトを朝まで繰り返した。

『そういえば、君の名前を決めてなかったね。……ふむ朱色に染まる人で「朱人(シュリ)」というのはどうだい』

 ピロートークの出だしがこのザマである。色気なんてものはなく、ただひたすらそこにあった行為だけを認める。

『今、人のどこを見て名付けた?なあ、いって見ろよ』

『どちらかと言えばシーツを見ていったんだがね』

『俺の原材料にポリエステルが含まれてたら朱布(シュフ)とでもしたのか?たいしたネーミングセンスだな』

『君がそっちがいいならそっちで呼ぶけど』

『シュリでいいデス』

 なんてやりとりがあったり、いつの間にか人間だった頃の名前を捨てていた。後で聞いて判明したことだが、このとき俺は痛みに気を取られ軽い暗示をかけられていたらしい。

 ソレを知った俺がヴラドの股間を3日間塩漬けにして再生できなくするのは、又別の話だ。

「俺もいろいろなAVを見てきたが、ここまできたら吐くな」

 原材料の9割が俺でできた朱いシーツを持ち上げ、強固に主張するヴラドの雄のにおいに頭を抱えていた。

「おい、俺はこれから毎日このにおいに包まれながら寝るのか」

「まあそこは心配しないでいいよ、今ソレを何とかする奴が来るから」

「はい、来ました。今日もおはようございますご主人様」

 突如として現れた人物は能面のような表情を張り付けながら、恭しく頭を下げている。

 スゴイ!髪の毛が真っ赤だ!メロンパンとかあげてみたい!カリカリ!モフモフ!あとメガネ!そのメガネポイント高いよ!

「しかし、なんて事だ!こいつに頭を下げるやつがいるなんて!ヴラド、どう言うことだ!あと何でリクスーが似合いそうな眼鏡クールビューティが場末のメイド喫茶の制服みたいなメイド服着てるんだ!?」

 ナニもかもミスマッチである。これで恥ずかしがっているのなら又別の嗜好も湧くものだが、彼女の表情にはそもそも感情のたぐいが見えない。

「メイドさん、脅されているなら俺に言ってくれ!大概の拷問方法は試したから、こいつの呪縛から解き放つことはチョロいぞ!」

「僭越ながら答えさせていただきます。お嬢様、金でございます。わたくしとてこのような変態と同じ空気を吸うのもいやですが、日当10万、見せパンを見せるだけでボーナス1万、性的なサービスの必要なしともなれば誰でも跪くと言うものです」

「すげえ、長ゼリフを一息だ!この高性能にセクハラ三昧か!いい身分じゃねえか、死ねえ!」

 振りかぶった拳を未だに堅さを保つ股間に握力×筋力=パワーに遠心力をプラスして解き放つ。

 グブッという鈍い音がヴラドの口から漏れると顔から血の気が引いていき、静かに沈み込んだ。


@


 意識を取り戻したヴラドはこちらを見るなり両手を股間に据え、おびえたように後ずさる。

「今回ばかりは命の危機を感じた。死んだ祖母が冥王さまに頼んで万里の長城みたいなところを走る夢まで見た」

「そうか、残念だったな」

 本当に残念だ。一生植物になっていてくれれば夢のメイドと怠惰な生活だったというのに。

「いえ、お嬢様。話を聞く限り次はなさそうなので……。ワンモア、です」

「そうだな。ちなみに今日の夕飯のメニューは?」

「ハンバーグです」

「そうか」


@


「おかしいな、メイドに示唆を受けた愛玩動物に殺される夢を見た」

 意識を取り戻したヴラドをおれとメイドは震えながら肩を抱き合い見ていた。

「ヴラド、おまえは焼いたハンバーグが人の姿になるのを見たことがあるか?」

「そもそもそんな状況に出会う事がないよ」

「そうか、メイド今日の夕飯のメニューは?」

「ハンバーグの付け合わせの人参とポテトです」

「そうか」

 それはいいことだ。あともう二度とハンバーグは食いたくない。

「シュリも大分打ち解けたみたいだね」

「おう、メイドとは浴場で人体をバラバラにするバイトを一緒に受ける仲だ」

 主犯格俺、実行犯俺だが。

「なにそれ、秘密共有しちゃう仲までいっちゃったの?!シュリ、僕とも秘密を共有させてくれよー!」

「そこまで言うなら…。実を言うと、俺、ハンバーグが嫌いなんだ」

「へえ、珍しいねベジタリアン?」

「屠殺のドキュメンタリー見て肉食えなくなるやついるだろ、アレだよあれ」

「人の股間を幾度と無く猫缶にしてきた君だから信頼度はかなり低いけど、そういうものか。というわけで優秀なメイドくん、次から野菜中心で頼むよ」

「ええ、私としても口から飛び出すハンバーグを見るのはトラウマもんです」

「なにそれ」

 世の中知らないほうがいいことが多いぞ人体プラネタリアン。


@


「では改めて自己紹介をさせていただきます。髪の毛を赤く染めていますが蒼子ともうします」

「あー、そっちかー!読み切れんかった!ビジュアルからは言ったら青髪ショートカットのイメージしかなかったからまさかそっちのイメチェンは読み切れんかったわー!」

 映像化されたときのギャップは計り知れんわー!

「なんだろうね、名前に色が入ってるから波長が合うのかな。僕もなにか色付けようかな」

「暗黒微笑とかでいいんじゃないか?」

「ウラジミール|(暗黒微笑)《かっこあんこくびしょうかっことじ》様ですか。ソレはなかなか強そうですね」

「やっぱり仲がいいなあ」

 ヴラドはこほん、とわざとらしく空咳をうつと俺を抱き抱えて膝に乗せる。おいケツに堅いもんが当たってんぞロリコン。

「彼女からも紹介があったけど、蒼子ちゃんって言うんだ。職業は魔法使い兼メイド」

「副業でこんな変態に媚びを売らないといけないほど稼ぎがないのか、魔法使いっていう存在は」

「いえ、魔法使いは職業というよりも、生き方みたいなものですので、30歳まで女性と肉体交渉がない存在と同レベルです」

「なんだなんだ、魔法使いすげえ後ろ向きに全速力だぞ!?俺の知ってる魔法だと金を増やすなんてチョロそうだが」

 なにせ意志を持って口にするだけというお手軽っぷりで、リソースも俺から無限に湧いているわけだし。

「吸血鬼の潜在魔力をもってすればチョロいものかも知れませんが、僭越ながら言わせていただけるなら、黙ってろクソやろうの一言ですませようかと思います」

「す、すげえ!このメイドクールなだけじゃなくて毒舌もいける口だぞ!お前、これ、いいもの拾ってんじゃねえか!」

 思わずヴラドの頭を抱き抱えるようになでる。なんだこいつすっげー髪の毛さらっさらじゃね?むかつくなおい!

「あ、なんだか君に初めてほめられた気がする!あとこんなヘブン状態で良いのだろうか!」

 人の平坦な胸に鼻を擦りつけて匂いをかぐな。今の俺の体臭はお前の体液の臭いだぞ。ちょっと甘くするとつけあがるのは数時間前に学んでいるのでここは強めにあたって行くのが吉。

「お前の意見は聞いてねえ!黙ってろ!」

「あれぇ?急転直下すぎやしないかな?」

 お前の髪がさらっさらなのがいけないのだよ。

「ところで聞きたいんだけど、魔法使いの魔法ってどんなのなんだ?」

 ヴラドの膝の上で膝立ちをしたままそのままメイドに振り返る。しっかしサラサラしてるなこいつの髪は。手櫛が一回も引っかからん。

「え?」

 俺が子供のような純粋な気持ちで聞いているというのに、蒼子はまるで家の中でゴキブリの卵を見たかのような目で後ずさる。

手は震え、顔は青ざめ、吐き気をこらえるように身を屈める。

「なんだ、俺そんなまずいこと言ったか!?つーかそんだけ表情変わるんだ!そっちの方が驚いた!!」

「いえ、お嬢様の期待に応えられない私が不甲斐ないのです。しかし、そこまで仰られるならっ」

「い、いやそんな無理して見たいわけじゃ」

「逝きます!」

 人の話聞かねえな、おい。

 蒼子は両手を頭の上でつなぎ、水泳選手の潜水時のように耳の裏に腕がくるくらいピンと腕を伸ばす。

「カレイドムーン!」

 蒼子が叫ぶと

「すげー!ヴラド、お前のメイドは怖いもんなしかよ!お前の知り合いこんなのばっかか!」

「うん、大体こんなのばっかりだね」

 こんな奴らの急先鋒が言うんだから間違いない。次に来る奴はきっと鷹とか虎とかバッタの混ざった変身ヒーローだ。

 すると、蒼子の全身がにわかに光り出し、極光を放つと暗転。そこにはピンクのメイド服に身を包み怪しげなステッキとタロットカードのようなものを手に持ったパチモンがいた。すげえ顔赤くてクソウケるー。

「なあ、あの魔法少女変身に至るまでの溜めめっちゃあったよな。あんなので町内の平和守れんのかよ」

「蒼子ちゃんはまだ魔法少女見習いだから、テレビに出てくる魔法少女のようにはいかないよ」

 なんだなんだ、魔法少女は一子相伝の世襲制じゃないのか?じゃあメイドは免許皆伝か!?

「なあ、そこな魔法少女……、何でお前そんなにへこんでるんだよ」

「ピンクのメイド服とか、恥ずかしい……」

「お前恥ずかしがるのそこじゃねえぞ。すくなくともパンチラボーナスで金をもらってるヤツが言うせりふじゃねえ」

「仕事と私情は別なんですよ!アンタにわかるのか、女の格好させられたあげくに母親が魔法少女で伝統芸能とか言われた俺の気持ちが!」

 あー、そのジャパニメーションはジャパニーズとしては受け継いで欲しいところなんだが……。

「そのしゃべり方が素かー、っていうか俺って……」

「畜生やってられるか!あー、そうですよ!俺は男ですよ!!」

 メイドはヘッドドレスを地面に叩きつけるとヤケになって服を脱ぎだす。

「なにこれ!朱人!ストリップサービス?料金いくら?!」

「いいぞ―!もっと脱げ―!」

「お前ら野郎が脱いでるの見て何が楽しいんだよ!」

 急に脱ぎだした本人が何を言うか。しかし、俺とヴラドは顔を見合わせ頷く。

「お前その顔で男とか」

「人間、顔だよ」

「あーもー!これだから人外の価値観ってわからねえよ!!」

 頭を抱えてうずくまる半裸のメイド(男)はその場でのたうちまわり、何を思ったのかそのままベッドに駆け寄り掛け布団に潜り込んだ。

「俺は寝る!ヴラド!20万振り込んどけよ!」

「他人の行為で汁まみれの布団で寝るその勇気があれば、メイド服なんか些細な事だろうにねえ……」

「それよりも、あの匂いの中寝れんのかよ。すげえな」

「なんでこんなにベタベタしてんだよ!馬鹿かお前ら!」

 布団から間接汁まみれになったメイドが飛び出してくる。そして飛び散る汁。

「うっわ、キタネー。なんであんなにベタベタしてんだ」

「元はといえばお前らの汁だよ!」

「言っておくが、その原因は此処のロリコンのせいだぞ」

「追加で20万だからな」

 まあ、金は好きなだけ搾り取れ。俺の金じゃねえし。


@


「んで、ヴラド改めて紹介してくれ」

 蒼子の対面に椅子を置き、あぐらをかく。

「うん、魔法少女兼メイドの男の娘あとツンデレの蒼子ソウシくんです」

「どーでもいいんですけどー、なんで俺は椅子に縛り付けられてるんすかねー。お嬢様ー?」

 そりゃお前が逃げ出そうとしなければこんな事にはならなかったのだよ。

「いやなに、ニーズに答えようというその心意気は買うが、いかんせん詰め込みすぎだと思うのだよ」

「なに、朱人ってばその尊大キャラあと何週間続けてくれる?ぼく足でされるの結構興味あるよ?」

「黙ってろ、猫缶にするぞ」

「黙ってまーす」

 素直でよろしい。3日の調教のかいがあった。

「で、話を戻していいか?お嬢様は俺をどうしたいんだ?」

 未だに怪訝な表情の蒼子の顔に手を据える。

「要するに、ロリコンの標的になるのが一人だけだから大変訳だ」

「言っておくが、俺もその変態に襲われた回数は両手じゃ数え切れないぞ。全部瀬戸際で回避してきたが」

 そのテクニックは是非知りたいところだ。魔法少女CQCか?メイドCQCか?

「その回避方法はあとで詳しく聞く。そうではなくお前に余計なものが付いているからいけないのだ。具体的に言えばその股間」

「おーい、ヴラド。てめえの所のペットが恐ろしいことをさらっと言ってるけど大丈夫なのかコレ!」

 ガタガタと椅子を揺らしながら後ろで控えるヴラドに言葉を投げても無駄だとおもうがなあ。

「うん、大丈夫。僕は既に片手じゃ数え切れないくらい猫缶にされてきたよ」

「そのスプラッタの環境を大丈夫って呼べる奴は俺が知る中じゃあお前だけだよ」

 ほらみろ、無駄だった。それはともかく。

「まあ、体験してみれば分かる。『取れろ』」

「あ?なにいってんだ?」

 うむ、痛みとかも無さそうだな。そしておもむろに蒼子のスカートを捲りパンツの中に手を突っ込む。見つけた。

「ざっとこんなものだ」

「あ?ああ?!」

 俺の手の中にあるのはモトモト蒼子についていた存在。男のシンボル。

「安心しろ、アフターケアは万全だぞ『女になれ』」

「すごいね、僕が今まで見た少年漫画をはるかに上回るパワーインフレ(ゴリ押し)で事態が進んでるよ」

 ヴラド、あまり褒められるとさすがの俺とて照れるぞ。

「おーい、おいおいおい!なんか心なしか股間の違和感が違和感じゃなくなり始めてるんですけど!あと胸が苦しくなってきてるんですけど!」

 本人は気づいていないかもしれないが声も高くなってる。元の素材がアレだったので目に見えて分かる変化は胸ぐらいのものだが。

「安心しろ、蒼子。その道はおれが3日前に通った道だ」

「こう見えて朱人は完全に男性だったんだよ」

「そういう問題じゃねえ!被害者増やしてどうすんだよ!戻せ!お前の右手に持ってるソレ!」

「む。ちょっと借りておこうと思ったんだが」

 男だった頃とサイズの違いはあれども、懐かしい存在だ。手放すのは少し惜しい。

「あとな!おまえソレまだ俺と神経つながってるからな!さっきから色んな所触ってるけどよ!」

「え、何そういうもんなのか」

 説明しろとおれは先程から傍観に徹しているヴラドを見上げる。

「いやあ、朱人の魔法ははっきり言って超能力みたいなものだから説明はできないよ」

「ということらしい」

「もうこの規格外ども嫌だー!」

 失礼なやつだな。俺だって好きでこんなことはしてない。

「そこまで言うなら戻してやらんこともない」

「ホントか!」

 最早泣きが入っている。確かに元々あったものがないのは辛い。

「その代わり、その格好で俺に忠誠を誓え」

「誓う!誓うから戻してくれ!」

「では、足をなめろ」

 蒼子の拘束を解き、右足を軽く持ち上げると蒼子は必死の形相で俺の足を舐めはじめた。これだ、俺がやりたかったのはコレだよ!女の子を傅かせる生活!変態に貞操を奪われる日々じゃなかったんだよ!

「僕が言うのもなんだけど、朱人ってだいぶ歪んでるよね」

「あー、なにこれヴラドの暴言をスルーできるくらいゾクゾクする。サイコー!」

「まふぁなふぇないふぉらめか?」

 足を口に入れたまま蒼子が上目遣いでこちらを見ている。ああ、なんて素敵な。

「ふむ、まだまだ足りんな。次は手だ」

「朱人、鬼畜ー」

 うるせえ、お前にだけは言われたくないわ。

 そして俺の全身をくまなく蒼子に舐めさせ、気がつくと時計の針は21時を指していた。


「ムー!ンー!」

 全身を拘束された男が転がる部屋の中上気した表情の少女が二人、というのはなかなかにヤンデレチックではないだろうか。実際は蒼子の行為に興奮したヴラドを俺が魔法で拘束しただけなのだが。

「顎がつかれた」

「それだけ喋れればお前の顎は大したものだよ」

 実際、10時間近く口を使うという行為自体が相当だと思うが。

「もうそろそろ、俺を戻してくれてもいいだろ?」

「そういえばそういう設定だったな」

「設定じゃねえ、俺にとっては死活問題だ」

 そこまで言うなら戻してやろう。

「『戻れ』」

「おおお!戻ってきた!俺の息子が……、あ?」

「うむ、完璧だな」

 そう、完璧に『戻した』のだ。息子を有るべき場所に。

「おい、おいおいおい!なんだよこのエロ小説御用達みたいな状態は!」

「昨今、男の娘ばかりもてはやされていることに対していささか不満だったのだよ」

「そういう問題じゃねえ!」

「そこで私は考えた魔法少女兼メイド兼ツイてるツンデレという複合ジャンルを!」

「そんなのありふれ過ぎてて誰も使わないだけなんだよ!!!」

 こうしてヴラド邸のイロモノ度がまたひとつ上がったのだ。

「ユーキャントエスケープ!」

「俺を元に戻せー!」

 ソレがまかり通ってるなら俺はとっくにこんなトコロにいねえよ!

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