或る夜
ふわり、手を振っていた
酷く穏やかな夜の風に吹かれ ふと晴れ渡る空を見上げた時
屋根の上 立ち尽くす男が居た
月光を背中で浴び 此方と目を逸らそうとはしない彼に あぁ此の世の者では無い、と何となく感じ取った
職業病だろうか 敵意も殺気も孕まぬ視線に少し同様を覚える
妖の中でも相当強力な部類なのであろう 彼
自分を唯の人間では無いとは分かってるだろうが 臆せずただ見つめ合う
闇で表情は汲み取れないが 鈍く光る瞳は何かを言いたげで
構えも忘れ呆けていた俺は は、と息を吸い何処か夢心地な意識を集中させる
気付けば もう居ない彼は一体何だったのだろう
何かを伝えたかったのだろうか そんなのは分からないまま
そういえば 妖相手に先程怪我を負った 呪いをかけられた
じわじわと体を蝕まれて行くのだろうか それとも気付かぬ内に殺されてしまうのだろうか
彼の姿を思い出す もし死神だとしてもそれも良いなと思うがすぐ、そんな考えは消え去る
何故か、ただ また逢える そう確信したとある夜
大分朦朧とした意識の中で見た光景
慶護は本当の鬼として君臨してました 別に危害を加えない人には手は出さない