表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

第一話

 傘を持たないまま、私は歩いていた。

雨はまだ細いままだ。


 鼻先にポツンと雨粒が当たった。霧雨だった雨が少しずつ粒を持ち始めた。

路地裏には、三毛と白黒の猫が隠れた。いつの間にか雨は大きくなっていたようだった。私だって濡れたくない。


 「あれ、薫?だいじぶ?」

同じクラスだった優太だ。

「なにが?」

私は足元を見つめて訊いた。雨で濡れているのだから、真正面から顔を上げても良かった。

「いや?なんでもないけどさぁ」

優太の足元を見た。相変わらずサッカーシューズを履いている。シューズの爪先の辺りが擦り切れていた。

「傘、いる?」

優太が私の前に立った。駐車場の小さな傾斜が優太を大きく見せた。


 「優太ー?」

玄関が開いて、優太の彼女が出てきた。

「あれ、かおるん?」


 私は一歩だけ下がって、肩まである髪をかき上げた。

「大丈夫、じゃーね」

家とは反対の方に身体を向けて、歩き出した。

「ほら、優太も濡れてる」

瑠奈の声が聞こえてきた。

 私は卒業したばかりの中学校に向かってみた。


 雨は大きな粒に変わっていた。足元に滴が跳ねた。

坂道を上った。降りた先に中学校はある。


 前から自転車が降りてきた。やけに爽快な音で走り抜けていった。テニス部で一緒だった竹中先輩だった。

目を見た。けれど先輩は気付かずに、行ってしまった。


 坂の頂まで登れた。

高速の高架下で濡れたシャツを握った。掃除に使った雑巾みたいに絞れた。

 寒かった。私はどうしてか、しゃがみ込んでしまった。

前に見えるテニスコートは水たまりだらけだった。


 立ち上がった。中学校を越えたところにコンビニがあったはずだから。

 私は意味もなくコンビニへと坂を下った。



 「いらっしゃいませー」

店員の声がした。歩くたびに鳴る靴の音が妙に心地よかった。

 私はトイレに入った。少し暖かい店内の空気で急にトイレに行きたくなった。

溜息が出た。なぜ出るのかは分からなくて、なぜだか少しだけ笑ってしまった。

 

 服が重かった。肌着まで濡れて、紺色のスウェットが黒くなっていた。

トイレがしたくて入ったトイレなのに。何も出なかった。


 私はぶどうグミと、ミルクティーを手に取ってレジに並んだ。

「二点で――」

私は財布を持っていないことに気が付いた。スマホを出そうとズボンのポケットに手を入れた。

「アプリで、」

両ポケットを漁ったけれど、なにも入ってなかった。店員は値段の表示を見て、それから私を見た。

「あ、あの」

――ごめんなさい、と伝えたかった。

お姉さんはコンビニの制服からお財布を出して、二百七十八円をレジに置いた。

「次から気を付けて」

レシートを渡してくる手が温かかった。


 私は紅茶を持って歩き出した。なんとなく、家に帰りたくなった。

山の方の雲が不意に光った。それから大きな音が鳴った。

 自転車が坂を急いで駆け下りてきた。信号はまだ赤だった。車はいない。

「おねえちゃん、早く帰んな、寒くねぇ?」

後ろには傘を差したおばあちゃんがいた。

「大丈夫です、今帰ってるところで」

おばあちゃんが乾いた笑い声を出した。

「うん、帰んな」

 信号が青になった。おばあちゃんは、待っていた信号を渡らずに横道に入っていった。


 「ただいま」

玄関は開いていた。

「おかえり」

パパの声だった。食器の音と、皆が咀嚼する音がした。靴下を脱いだ。一気に足が冷たく感じられた。

「薫、風呂入っちゃえ?」

パパが言った。濡れた足で、フローリングに足が張り付いた。ペタペタとまるでペンギンのような音がした。


 重い服を脱いだ。くしゃみが出た。寒い。

肋骨が浮いていた。全然毛が生えていない。いつも白い肌が、今日はなんだか青く見えた。

 ドアを開けた。鏡に身体が映った。可笑しかった。

肩まである長い髪がぺちゃんこになって、赤い目をして、喉仏だけが妙に浮いていた。

丸い肩を撫でた。冷たい。


 シャワーを浴びた。温かくて、心地が良かった。雨とは違った。

 湯舟がいつもより狭く感じられた。熱すぎるお湯に入ると、指先が痺れだした。


 食卓に座り、いつもの料理を口にした。出汁の効いていない味噌汁が随分としょっぱく感じられた。

 「まあ、あんまり気にするなって、薫」

パパがそう言った。前に座っているお兄ちゃんは無言でご飯を頬張っていた。

「うん」

私は頷いた。


 ベッドによじ登り、布団を被った。濡れた枕がなぜだか気持ち悪くない。

私はまた、クマさんのカバーが付いた枕に顔を埋めた。






 

 この文章は私が中学一年生の2022年5月26日に書いたものをリライトしたものです。

当時書いた物語は今と比べても明らかに粗削りであり、逆に感情描写が良い物でありました。

 あの頃の感情をどうしても掲載しておきたいと考えたため、書き直すという決断に至りました。


 読んでくださった方、本当に嬉しく思います。今すぐにでも会って感謝を伝えたいところではありますが時間も場所も離れておりますが故、ここに感謝の意を記すことといたします。

 もしも私の文章を好ましく思ってくださるのであれば、今後とも私の世界をお楽しみいただけると幸せです。


ではまた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ