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比翼のエリス  作者: 帯川 葬


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12/12

Dead or Alive

 対峙した二匹のエリス。大蛇型のアスクァエナと、リュウグウノツカイのようなもう一匹。


 もう一匹の方の魔法がまだわからない。まずは出方を伺おう。そう思っていた矢先。


宇宙処罰(シャティマン)────Lv.8(レベルエイト)

「────!?ぐっ……!!」


 正体不明の力によって僕の体はグラウンドに叩きつけられた。

 キンとした冷たさを頬に感じる。


「何が……っ!」


 脱力?横転?いや違う……!何か強い力で押し付けられてる!起き上がれねぇ!


「うぅ……動けないぃ……」


 かろうじて動かせた頭をひねると、同じく雪の中に押し付けられているナナが横にいた。不快そうな顔。


「先手必勝〜♩」


 ステップを踏んでザードが近づいてくる。


 余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)に、鼻歌まで歌ってやがる……。


「く……そが……っ!!」


 このままじゃ負ける。


 そう判断した僕は、両手をついて、地面から無理やり体を剥がそうと力を入れた。

 

 だが、


Lv.9(レベルナイン)────」

「ぐはっ!!」


 さらなる力が上からのしかかり、体が再度グラウンドに強く打ち付けられた。


 なんなんだこのデタラメな力は……!!


 僕は歯噛みして、空を旋回するエリスを見上げる。


 おそらくあのエリスの魔法だ。まるで上から空気全体に重しをつけたような……。


「重力かっ……!!」


 見えない力。それの正体はおそらく重力。

 

「バレてら!なんで!?」


 ザードが大袈裟に驚いた。

 しかしその目の奥は笑っているように見える。


「見え透いた芝居すんなよピエロ……!」

「なんだよつれないやつだな!演者がノらないと客も楽しくないだろ〜?」


 ザードはガキみたいに頬を膨らませる。


「じゃあ次の演目は楽しんでくれると思うぜ」


 急激にザードの口角が吊り上がる。そして、


「解体ショーの始まり始まりだ!!」


 そう叫んで、腰からサバイバルナイフを取り出した。


 まずい……!!


 戦慄が走り、一刻も早く抜けだそうと焦った時。


「ザードくん!!」


 後ろで見ていた胸花が叫んだ。


「んあ?」


 ザードがナイフを振り上げたまま、胸花の方を向く。


「命令は生け取り。今回ナイフ(それ)の出番はないはずだよ」


 どこか焦りが滲んだ胸花の声色。険しい表情でザードを睨んでいる。


 背後のアスクァエナは、シュルシュルと舌を巻いて、姿勢を低く保っている。いつでも噛み付けるぞと言わんばかりだ。


 なぜそこまで焦っていのか分からなかったが、僕にとっては渡りに船だった。


 しかし、ザードはそんな脅しに怯むような奴ではなかった。


「安心しなよ胸花チャン。終幕個体(エンディングナンバー)は殺さないから。終幕個体(エンディングナンバー)はねっ!!」


 瞬間、ザードのナイフが僕に向かって振り下ろされた。


「こいつは生死を問わない(デッドオアアライブ)じゃん!!」

「ゆうっ……!!」


 ナナの声がグラウンドにこだまする。


 体が動かねぇ!!これは本気で、死────


 バンッ!!


 乾いた音が鳴った。


 ザードの腕が弾き上げられる。


「はっ!?」


 困惑に揺れるザードの瞳は、ある少女を映していた。


「にゃはっ!モモ登場〜っ!!」

 

 そこには、脚を振り上げてニカっと笑う獅子葉がいた。

 

 獅子葉はステップを踏み、もう一方の脚でザードのみぞおちを捉える。


「ぎゃふっ!!」


 獅子葉の蹴りがクリーンヒット。ザードの体がトラックの端まで吹っ飛んだ。


 ふっ、と降りかかる重力が霧散する。


 自由になった体を起こして、ナナの手を引く。


「危ないとこだったにゃあ雛織〜」


 獅子葉の顔には、ニマニマとうざったい笑みを余すことなく貼り付いている。


「獅子葉テメェ、なんでここが分かった」

「助けてやったのになんにゃ〜その口の聞き方。助かりましたってほら!さんはいっ!」

「ウゼェ」


 僕は不愉快さを全面に顔を出す。その時、


「手加減ねアスクァエナ」

「シュルルル────ッ!!」


 僕らを丸呑みしそうな勢いで、アスクァエナの開かれた口が迫ってきていた。


「ニャッ!?やば────」


 回避が間に合わない。そう悟った時、


 ドンッ!!


 今度は鈍い音が夜空を裂いて響いた。


「キャギャアアアアアアアアアア!!!」


 甲高い悲鳴が耳をつんざく。

 見ると、アスクァエナの右の眼球から血が湧き出していた。


「アスクァエナ!大丈夫……?」


 痛みに耐えるアスクァエナに、胸花が慌てて駆け寄る。


「今度はなんだ……」


 助けられた。と考えるのが自然だが。


「儘螺よくやったにゃ!!」


 いつから着けていたのか、マイク付きのイヤホンに獅子葉はそう叫んだ。


「儘螺?」

「そうにゃ、ほらっ」


 獅子葉がポケットからイヤホンをもう一つ取り出して投げ渡してくる。

 僕はそれをキャッチして耳に押し当てる。


「雛織だ」

『ひ、雛織くん!無事でしたか!!』


 いつからその呼び方……まあいいか。


「ああ。今のお前か?」

『ええ、僕のバディ。ラプラスの魔法は近接戦闘には向かないので、狙撃銃でのサポートです!』

『俺がいれば百発百中だぜ儘螺!!ヒャッホーーーウッ!!』


 儘螺に続いて、ハイテンションなラプラスの声がイヤホン越しに聞こえた。


『雛織くん!!こちらは三人で数的有利です!!このまま畳み掛けましょう!!』


 決然とした声で儘螺が言ってくる。


 僕は少し考えた後、


「誤射んなよ」


 そう言い残しマイクのミュートボタンを押した。


 胸花と、ザードの方に向き直る。


「イタタ……不意打ちは卑怯じゃんよ……」

「だいじょぶ?アスクァエナもいいのもらったみたい」


 未海樹を抱えたままの胸花が、立ち上がったザードを覗き込む。


 ザードはみぞおちをさすって不機嫌そうに僕らを睨む。

 そして少し考えるそぶりを見せた胸花は、


「狙撃手がいるのはちょっと想定外かな……。弾も加工してあるみたいだし、食らったらまずい。一旦引こっか」


 そう口にした。

 胸花の姿がだんだんと、霧のように曖昧になっていく。僕はすかさず左腕を振り上げる。


「させるかっ!!」


 降りゆく雪を切り裂きながら、飛翔する斬撃。

 だが、その一撃は空を切った。


 バガンッ、と観客席の壁が弾ける。


「くそっ!逃した!!」

殿(しんがり)は俺ちゃん〜!!」


 頭上から声。

 いつの間にか跳躍していたザードが、重力に乗って踵を落としてきていた。


「くっ!!」


 僕は両腕を交差させて、それを受け止める。


「まだまだぁ!!」

「ヂィッ……!!」


 かかる重さがさらに強くなる。このままじゃ……。


 ドンッ!!ドンッ!!


 二発の銃声。ザードの足が離れた。


「づっ……!ウゼェ……」


 着地したザードの足首と肩から血が流れている。


 直後、


狂振(ヴァグ)────ッ!!」


 獅子葉が地面を叩いた。扇形に拡大する大地の波。

 

「なんだぁ!?う、動けな……!」


 振動する地面によるスタン……!フォルアレンの魔法か!!


「オラァ!!」

「ガフッ!!」


 動けなくなっているザードに、獅子葉の鉄拳が飛ぶ。


 ザードは地面を転がった。


 振り返った獅子葉は、僕に向かって叫ぶ。


「雛織!お前はお友達を追うのにゃ!!」


 獅子葉の考えをすぐに理解して僕は、ナナを抱える。 


「未海樹は!?」

「向こう……匂いする……よ」


ナナが足をパタパタと揺らして示した先は、ちょうど大きな薬品工場がある場所だった。


「腕は返す!!脚だ!!」

「ん」


合図とともに僕の腕から魔法が消え去り、代わりに両脚に魔法が纏う。


これで移動速度は担保できる!あとは……

 

「助かった。あいつにもそう伝えとけ」


 獅子葉にそれだけ言って、僕は薬品工場に向かって跳んだ。


 跳躍の瞬間に、目を丸くした獅子葉の顔が見えた気がするがまあいい。これで心置きなく戦える。

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