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吸血鬼は夜に舞ふ  作者: 凍霜
一章『覚醒編』
9/14

七話 吸血

 明け方頃、ほとんどの先生達が寮にやってきた。カイルの部屋に行くと、ドアを派手な音を立てて開けた。まだ生徒達は寝ている時間帯なので、近くの先生が開けた先生を宥めた。カイルはこの事を分かっていたように、起きていて、椅子に座っていた。それはまるで敗者のようだった。


「カイルよ、養護教諭より話は聞いたぞ。望みどおり、お前を殺してやろう」


 後ろにいた保健室の先生は、冷静に呟いた。


「……あれだけの傷じゃ、死なないと思って」

「ということだ。ホレ、早く殺してしまうぞ。我が学園の恥にならないように、戦死という事にしておくから」


 大柄の教師がカイルを連れて出て行った。廊下にはみ出た先生は、通り道を作るために脇に避けた。


「……一番あってはならない事態ですねー」

「そうですわね、先生」


 カイルが連れて来られたのは、校庭の掲揚台ポールだった。そこに括り縛られたカイルは、とても穏やかな笑顔で目を閉じた。


「そこでしばらく待っているのだぞ。中央処刑場の予約をしておく。マイク先生、見張っていてくださいね?」

「はいはい。厄介ですねぇ。了解しました」


 教師が学校へと向かって歩き、校舎に入ったところで、担任の先生はしゃがんで目線を同じにした。


「カイル君、何があったんだい?」


 話していいのか躊躇ったが、カイルは別に話してもあまり害は無いだろうと思いボソボソと話し始めた。


「……人間って、人に迷惑をかけたくないし、心配もかけたくないですよね? 俺、セリアが怪我した時、保健室までおぶったんです。そうしたら、後で血液が付いていて……。心配かけたくなくて、拭いて舐めたんです」

「ふんふん。でも、関係ないんじゃないの?」

「……俺、混血児らしいんですよ。吸血鬼にならないために封印をかけてあったらしいんですけど……。人の血を舐めたら、そこで封印が解けたらしくて、俺……。今でも少しずつ吸血鬼に染まっていっているんです。その時、吸血鬼が現れて、仲間にならないか、って。俺、それが嫌で、死のうと思って……。でも死ねなかったんです……。だから、殺してください。俺、この学校の評判を悪くしたくない」

「そうなのですか……」


 担任の先生は黙り込んだ。何か考えているように思えて、カイルはその考えていることを勝手に悟り、慌てて弁解した。


「あ、あの。セリアを責めないで下さいねっ?」

「分かっていますよ。ただ……。貴方を殺すのが哀しくてね。だって、ワシの教え子なのに――」


 カイルは俯いたまま黙った。静かに涙が流れた。




「貴方の血液は美味しいのぉ?」


 夜の暗い路地裏で、一人の少女が一人の男性を押し倒していた。


「ごめんなさいね? 血に飢えているの。これから、ちょっと遠出するし、いいでしょう?」


 少女は男性を自らの身体で覆った。


「お、おい。まさか、キミ、吸血鬼なのかっ?」

「うん。逆ナンして悪かったわね。食事したかったのよ」


 鋭い牙を立てて、少女は首筋を噛んだ。

しばらくの間、路地裏に血を吸う音が気味悪く続いていた。


「さてと、食事も終わったし、行きましょうかねぇ。――吸血鬼が住んでいるという館に」


 もう日は昇りかけている。その証拠に、少しだけ路地裏に光が差し込んだ。

 少女は傘を開き、楽しそうなステップでその場を後にした。男性は血を吸い尽くされて、干からびて死んでいた。




 カイルは、その後すぐに中央処刑場へと向かわされた。もうすぐ寮から登校してくる者が現れる時だった。

 セリアは、早く寮を出たが、その時連れて行かれるカイルを、周りで囲っている数人の先生達の間から見た。手を出そうと思ったが、この状態では何も出来ない。最悪の事態が頭をよぎって、否定するように大きく首を振った。


(何でカイルが? ……どうかしたの?)


 夢中になって、後ろから気が付かれない様に追いかける。一緒に登校していたレインも急いで後を追った。

 生憎、罪人の処刑予定が無かったため、すぐ後の時間で取れた。この処刑場の処刑方法は、火刑だ。裸足で歩いていたカイルは、疲労感見え見えだ。だからといって休ませない。学園の存続に関わるかもしれない問題だから、早く処分しなければならない。

 カイルには、学園と世界の為に消えてもらうしかない。吸血鬼を増やす訳にはいかないのだ。

 セリアは、カイルの連れて行かれたのが中央処刑場だと知ったとき、泣きじゃくった。レインは必死に宥めて、引き連れて歩いていく。牢獄行きではなく、すぐに行われることとなった。木の棒に括り縛られたカイルは、下を見つめたまま何も言わない。上からガソリンがかけられた。数々の男ばかりの兵士が周りを囲っていた。


「只今より――」


 セリアは目を瞑った。自分には何も出来ないのが何よりも悔しかった。何でこんな状態になっているのかも分からない。カイルは一人で闇を抱えていたのかもしれない。


(あの時、相談にのってあげれば良かった……。何でッ? くやしい……ッ)

「では、さっそく――」


 レインも目を瞑った。

 兵士の持った松明が、ガソリンでびしょ濡れのカイルに近づく。

 カイルは発狂した。少しずつ紅に染まる髪、瞳……。これで三回目だ。力で縄が引きちぎられた。

 セリアはもう無我夢中で助けようとした。

 ――カイルは悪いことなんて……!

 獣のような鋭い瞳が、隠れていた茂みから出たセリアを捕らえた。呆然とする会場。カイルは突っ走り、セリアを捕らえた。首の付け根をしっかりと持ち、近くの壁に押し付ける。


「くるし……」


 セリアは細い腕で、首を絞めている手を離そうとしたが、力が強くて離せない。

 周りの兵士が、先生が、二人を囲うように槍を構える。半円ができた。


「セリア」


 カイルは自分と戦っていた。このままだと、理性が持たない。


「――っ。俺はもうすぐ、お前を殺す。だから、俺の願いを聞いてくれ」

「い、イヤッ。死にたくない!」


 逃げ出そうとするセリアを、カイルは引き寄せ、抱きしめた。セリアは驚くことしか出来ない。





 二人の唇が、一瞬触れた。





 周りの兵士は予想外の出来事に驚いて、一歩引き下がる。


「好きだ、セリア」

「何よっ。もう……。人の気持ちにも気づきなさいよ。――私もよ、馬鹿」


 風が二人の間を流れた。

 セリアは、カイルの腕が赤黒く、そして歯が鋭い牙になっている事を、今この場で初めて知った。


「俺は吸血鬼になりかけているんだ。……いや、もう吸血鬼だな」


 歯を立てて、カイルは首筋を噛んだ。頭が垂れ、吸いにくくならない様に、片手を腰から頭に移動させる。



「好きでした(・・・)……」



 そう言い残して、涙を流しながらセリアは目を閉じた。




 初めてカイルが人の血を吸った日だった。

 












 カイルは、頭を支えていた手で口周りを拭った。セリアの頭が後ろに垂れる。


「ごちそうさま。とてもうまかった」


 兵士達は槍で刺そうとした。だがそうはいかず、カイルは軽く飛んで避けた。槍は代わりにセリアを串刺しにするが、セリアは死んでいるので悲鳴一つさえあげなかった。


「何だよ、ここにいたのかよ」


 草むらから面倒くさそうに助太刀してきたのは、ヴェスだった。レインの横を通って来たので、レインは顔を強張らせて退く。


「心配だから来たんだよ」

「お前も吸血鬼か!」

「吸血鬼でいて悪いか兵士? 吸ってもいいけど、生憎男の血には興味ないな」


 カイルはヴェスの隣に降り立つ。


「覚悟は決めたのか?」


 また黒色に戻ると同時に、カイルは苦しそうに答えた。


「俺は生きたい……。だから、あんた等の仲間になってもいい」


 戻ると同時に、殺されたセリアの姿が目に入った。自分が殺したという感覚が微かにある。


「素直じゃないね、お前」


 ヴェスは手持ちの剣を構えていたが、何を思ったのか武器の無いカイルに手渡した。


「お前、持って無いだろ。オレには隠し武器があるから、大丈夫だ。使え」


 カイルは悲しそうな目をしていたが、次の瞬間にはキリリとした眼差しで兵士達を見つめた。


(俺はもう、人間としてはいられないんだ。――俺は、吸血鬼だよ)


 セリアから槍を引っこ抜いた兵士達が、他の兵士に踏んだり蹴ったりされながら群れをなしてくる。


「かかって来いよ、人間」

「俺が、相手してやる」

「覚悟決めたか。行くぞ! 早くしないと。日光が当たって、灰になる……」


 ヴェスは懐から携帯槍を取り出した。

過去形セリア。吸血鬼と人間では、無理があるんですよね。弱肉強食の関係だし。



第一部は、この話で終わった『覚醒編』


第二部は、次からとなる『憑依編』


となります。

逆ナンした吸血鬼さんには、もっと押し倒してもらいたいです(ぇ

そしてセリアさん死亡。いかにもセリア憑依フラグが立ちそうですね※立てません

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