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吸血鬼は夜に舞ふ  作者: 凍霜
一章『覚醒編』
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五話 体ノ中

テストが終わったのは良いんだ。

だがな、すぐに期末があるってどういうことよ?

 セリアは昨晩の事を思い出していた。縛られて吊るされたカイルの姿。ぐったりとしていたカイルの姿――。それらがまるで、先ほど起こったかのように鮮明に脳内に映る。

 思えば、金曜日ころから様子が変だったのだ。

 何故、ぐったりしていたのか。

 何故、部屋を訪れたとき、あのような――カイルのような目ではない目付きをしていたのか。あの時のカイルは死ぬ間際のように穏やかだった。まるで女性を誘うような眼で見ていたカイルは、カイル本人ではない、とセリアは感じた。何かに取り付かれたような眼――。

 何故、包帯をしていたのか。カイルは鍛錬程度で怪我をする訳は無いし、普通は約束事を守るので、勝手に鍛錬するとは思えなかった。

 教室の窓辺で虚ろに考えているセリアに、周りのクラスメート(男子)が励ますように声をかけた。




 館に戻った吸血鬼達は、さっそくリビングに集まった。今回はカードも何も用意されていない。


「とんだ失敗だったな。折角カッコいい男性を定めて狩ろうと思ったのに。もう人間が少ない」


 アリアは文句を呟いた。


「まぁ、いいんじゃないの? ほら、ヴェスが連れてきたあの子。人間と吸血鬼の混血児よ。いい発見だったわ」


 アリスは、文句を呟くアリアを宥める様に言った。


「まぁ、それもそうだな! 混血は珍しいし、能力も高いしな。そういう意味では満足だ」


アリスは開き直ったアリアに苦笑した。確かに今いる人間どもは数がもうすぐ無くなる。このままでは、生命が維持できない。だから、人間を狩らなければならないのだ。


「まとめ役兼ツッコミ兼ムードメーカーのヴェスがいないと、何となく変だな。ウチはそう思うぞ。いつ帰ってくるのかな? もう日が昇っているから、夜までは帰られないのか……」


 アリアが空を見ながら呟いたが、ソファの背もたれにすがっていた男――ルージュは見逃さなかった。


「アリア。ヴェスなら大丈夫だよ。きっと今頃、あの少年に僕等吸血鬼のことでも話しているんじゃねぇの?」

「それもそうだな……」


 太陽が下界を照らしながら昇っていった。




 太陽が真上から照りつけた頃、カイルは頭を抑えながら起きた。微かに頭痛がした。

 お腹はそこまで空腹ではなく、普通という感じだった。カイルの記憶には、食べ物を食べた記憶はない。

 ヴェスはそこで起きて、大きな伸びをした。

 突然頭が割れるような痛みが襲ってきて、カイルは反射的に頭を押さえた。それは全身へと広がっていった。体の中で何かがぶつかるような感覚がした。


「――ッ! うわああぁっ!」


 悲鳴にヴェスは何も対応しなかった。妨げてはいけない。これは、吸血鬼になりかけている証拠なのだ。

 同時に抉られる感覚がして、ベッドから転げ落ちた。口から鮮血が飛び出た。思わず口を押さえると、カイルの目が大きく見開いた。胃潰瘍等の病気は持っていないはずだ。


「ヴェスッ……。お前が、し、たの、かっ……」


 息が荒くなっていた。頭痛は更に酷くなっていく。


「お前の中の吸血鬼が戦っているんだよ。俺には手出しが出来ない」


 吐血した血液が、頬を伝わり落ちる。


「これも運命なのさ。良かったな、苦しみは早めに終わった方が良い」


 自分自身を落ち着かせるために、胸を押さえた。鼓動が早い。


「何故だっ……! ハァハァ……。俺の中、の、吸血鬼と人、間が戦っているだ、とっ? ふ、ふざけんな。俺は、人間だっ」

「お前は予測だと、母は吸血鬼、父は人間の間に生まれた子だと思う。生んでから、すぐに母は吸血鬼とならないように封印をかけたのだと思う。あくまでも予測だが」


 カイルの呼吸が平常に戻っていく。それと同時に、頭痛と全身の痛みも幕を引いた。


「じゃあ何故、俺はこんな事になっている! 封印というのは、していなかったのかっ?」


 カイルはふら付く足取りでヴェスに向かって歩いていき、胸倉をつかんだ。凶器に満ちている顔を見たヴェスは満足そうに微笑んだ。


「しているさ。ただな、お前、血を飲んだり舐めたりしなかったか?」




 ――セリアがこちらを向いて向かってくるときに、仕方なくペロリと舐めた。




 あの日。

 保健室で。

 カイルはセリアに心配をかけないために舐めた、あの記憶が鮮明に映し出される。


「それが唯一の封印を解く鍵だった、って事だな。舐めたり飲んだりしなければ、今のお前は授業を受けていただろうに」


 カイルは今、学校では授業を行っている事に気がついた。無断欠席してしまった事に、カイルは心を痛める。


「……」

「お前は既に吸血鬼だよ。腹減っているなら、人間の血を飲めばいいじゃないか。小瓶二つじゃ足りないだろう?」

「俺は、人の血なんか飲んで――」

「お前、嬉しそうに飲んでいたぞ。これは不味いとか美味いとか批評していたしさ。農民の血は不味い、っていったら、『お前の言っていることはきっと正しい』ってね」


カイルは力が抜けて、手を離した。ヴェスは少しよろめいた。


「俺はそんな記憶……無いぞ」

「お前の中の吸血鬼さ」


 吸血鬼がやった記憶はカイルの中には無い。カイルは嘘だと言うように首を振り続けた。


「ち、違う……っ。俺は、吸血鬼なんかじゃないっ。それに、お前達の仲間でも無い!」

「じゃあ、その姿で学校に行ってみろ。周りの人間になんて言われると思う?」

「それは……!」


 赤い皮膚をしたカイルが学校に行ったら、周りの人間によって先生に言いふらされ、捕らえられて、最悪の事態――死刑宣告――をされることだろう。そうなったら学校に吸血鬼が入っていた、という事態になってしまう。学校の評判は当然下がる。


「ほれ、答えられない。お前が自覚している証拠だろう」

「じゃあ、俺はどうしたらいいんだ? このままここでじっとしていろとでも?」


 カイルは頭を押さえて、うずくまった。今にも泣き出そうなカイルに、ヴェスは出来るだけ優しく声を出した。




「それなら、オレ達の所へ来ればいい」




 カイルの目が見開いた。ヴェスにはうずくまっているカイルの顔こそ見えなかったが、大体の表情は察していた。

 誘うように穏やかな眼差しで、カイルを見つめる。

 スッと手を出すと、カイルは手で払った。


「誰がお前達の仲間になるか! それなら死んだほうがマシだ!」


 ヴェスはしばらくカイルを興味津々に見下ろしていたが、口角を引き上げると、こう言った。


「まぁいいさ。しばし時間をやるから、しっかりと考えておくのだな」


 いつの間には空は暗雲で多い尽くされていて、日の光は当たっていなかった。ヴェスは窓辺から出て、羽で飛んでいってしまった。

……これ、原作名入れたほうがいいか?何か、展開的に。

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