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吸血鬼は夜に舞ふ  作者: 凍霜
一章『覚醒編』
6/14

四話 ナリカケ

わ、課題終わってねぇorz

月曜テストなんだがw

 月夜の晩、学校の領地全体に警報が鳴らされた。四人ほどの吸血鬼が来たらしかった。カイルは空腹に耐えながら、寮から出た。既に他の人は、校庭の方へと出ていて、戦闘体制を布いている。

 カイルは、歩きながら校庭へと向かっていたが、空腹に耐え切れずに倒れた。そのまま目を閉じた。草むらが揺れて、一人の男がカイルを見つけて近寄ってきた。男は赤黒く、吸血鬼だということが分かる。カイルは気づいているのに、動かなかった。


「人間はっけーん」


 男は、カイルの胸倉を掴んだ。そして無理やり立ち上がらせ、男の顔の位置にカイルの顔を固定した。引き寄せられたカイルは、今の状況を確かめる為に半眼開いた。


「腹減っているのか? 元気ねーの。つまらないな。不味そうだ。……まぁ、女用に取って置くか。ルックスはあるし」


 男は手を離した。地面に叩きつけられたカイルは、立ち上がる気力さえなく、されるがままの状態だった。


「大人しくしてろよ」


 男はしゃがんで、カイルの腕を頭の上で縛った。カイルは反抗せずに、大人しくていた。ついでに布製の猿轡を噛まされたが、無気力そうにグッタリとしていた。


「大人しくし過ぎだって。つまらないな、お前」


 男は立ち上がって、泥を払った。


「まぁいい。反抗したら、傷がつくしな。女用の餌だしね」


 カイルは胴体を男の片手で担がれて、校庭へと向かっていった。




 一方校庭では、四人の吸血鬼が校旗を掲揚台のポールの上にいた。


「姉貴、ヴェスはどこに?」


 ポールの近くで浮遊していたアリスは、妹――アリアの立っているポール近くを一回転した。


「ヴェス? あいつなら、今は残った人がいないか確かめているところよ。人質になるでしょう?」


 アリアは相槌を打った。そして、校庭にいる生徒と先生達を見下ろして、舌打ちを打つ。


「さてと、誰が美味しそうかな?」


 アリアは下にいる男性を見た。吸血鬼は夜に強いので、よく人々が見えた。ルックスから判断して、数人ほどターゲットを絞って、連れて行こうかと考えたとき、ヴェスが帰ってきた。


「おい、アリス達。あ、男性除く。上等品があったー」


 ヴェスは近くのポールに止まり、カイルを生徒達に見せ付けた。縛っていた縄の切れ端を掴んで垂らしていたので、いつ切れて落ちてもおかしくない状態だ。


「わっ、かっこいいわぁ。この前のあの人間より何倍も美味そうじゃないの。ちょーっと痩せているかもね。食べさせれば治る範囲」

「おぉ、姉貴、上等だぞ! ウチが頂いてもいいか?」

「駄目。あたしが頂く。アリアにはあげない」

「男である僕には、よく分からない……」


 カイルはただじっとしていた。手首が締め付けられる感があったが、頭がぼーっとして、痛さはあまり感じられなかった。

 校庭がざわめいた。


「カイル……? そういえば、カイルがいない……」


 いかにも誰よりも前に立って、皆の前衛になっていそうなあのカイルがどこにもいないことに気がついた。セリアの近くで見守っていたレインが、震えた声で言った。


「ど……どういうことなんだよ……」

「カイルっ……」


 セリアは、首から掛けられたシルバーネックレスを握り締めた。彼女の歯軋りの音に、レインは吸血鬼に怒りをぶつけようとしているのか、という気がした。


「おい、セリア、はむかう気かよ」

「――っ。ただ、祈っているだけよ」


 ヴェスは、縄が軋んだのを境に、引き上げた。

 ――その時だ。

 カイルが着ていた長袖ワイシャツが下に下りた。まさかと思って左袖を引きちぎって見ると、赤黒い腕が見えた。まさか、吸血鬼か、と思って右腕の方を引きちぎると、こちらの方は赤黒い皮膚が腕を回るように巻き付いていた。


「なりかけなのか!」


 それを見たアリス達は驚いた。


「な、なんだよっ……。何故混血がいるんだ!」

「まぁ、とりあえず元に戻しておくぞ。匂いを追って、部屋を割り出して連れて行こう」


 ヴェスはカイルの縄を解いて猿轡を取り外し、背負って匂いを辿っていった。

 アリスは舌を鳴らし、他の吸血鬼を引き連れて月夜に消えていった。




 カイル自室の壁に座ってもたれかかっていた。頭はカクリと曲がっていて、手足もピクリとしていなかった。手首には生々しい縄の跡が付いている。ゆっくりと目を開けたカイルは、太陽が昇りかけているということが分かった。まだ意識が朦朧とし、目が完全に働かない状態で、ヴェスがいることに気が付いた。

 徐々にピントが合わさっていく。椅子に座って仮眠していたヴェスは、音で目を覚ました。


「よぉ、お目覚めか」


 カイルは反射的に、憎悪に満ちた顔になった。毛が逆立つような怒りがカイルの行動となって表れようとしたが、その気も無かった。


「何故、ここにいるんだ! 俺に何かする気なのか!」


 怒りを込めて強く言ったのはいいが、音量自体は小さい物だった。


「お前には何もする気は無い。良かったな、お前。その腕のおかげでお前はここにいられるんだぞ」

「……! 何、をっ……!」

「吸血鬼になりかけてなかったら、今頃は多分血を吸われていたぞ。危なかったな」


 カイルは更に警戒した。こいつは危ない。――吸血鬼だ。敵なのだ。


「オレは、ヴェスというが。お前は何と言うんだ?」

「敵には名乗らない……っ」

「敵? 違うだろう」


 カイルは驚いてヴェスの方に顔を上げた。ヴェスはニヤリと意味有りげに笑った。




「――仲間だろう」




 この一言は、カイルに衝撃を与えた。ヴェスは笑ったままカイルの反応を待っていた。


「何を言うんだ。俺は人間だ! お前等吸血鬼と一緒にす――」

「お前も分かっているんだろ。だんだん自分の中に吸血鬼が芽生えている、と。お前、の赤黒さがひろがっているぞ。腕は全部侵食されているじゃないか」


 慌てて右腕を見た。昨日は肌色の部分が見えたのに、今日はそれが見えない。ワイシャツは引きちぎられた跡があった。


「……言ったとおりだろう? お前はもうすぐ人間ではなくなる。もしも人間でいられても、人間と吸血鬼がぶつかり合う」

「どういうことだ」

「吸血鬼は体の中の人間を追い出そうとする。人間は体の中の吸血鬼を追い出そうとする。吸血鬼のほうが強いから、人間は大抵追い出されるがな……。だが、時折ずっと追い出せない状態が続くことがあるんだ。人間の方が押し出される前に、どうにかして留まろうとするのだな」


 カイルは押し黙った。


「あ、そうだ。お前さー、飯は要らない? 腹減っているだろう?」


 ヴェスの赤い瞳がカイルを見つめる。カイルは気力なく答えた。


「それはおいしいのか」


 カイルの黒髪、黒い瞳が赤色に変わっていった。獣のように鋭くなった目は、ヴェスを睨んだ。ゆらりと立ち上がり、ヴェスと向かい合う。


「美味しいとも。オレの残りだ。あまり美味しくなかったから、くれてやる」


 懐から血入りの小瓶を取り出し、カイルに投げた。


「だれの血だ」


 手に持った小瓶を見下す。


「そこら辺の農民の女だ」

「それはうまくなさそうだ。おまえがまずいといったなら、それはきっと正しいのだろうな」


 血にまみれたコルクを開け、カイルは風呂上りの牛乳のように飲み干した。


「つまらないな。だが、腹の足しにはなった。おまえ、これ以上もっていないのか」

「持っているぞ。欲しいのか?」


 カイルはじっとヴェスを見つめた。根負けしたヴェスは、さっきよりも少し大きい小瓶を取り出して、投げ渡す。


「元々、お前には渡す気無かったのにな。臨時用なのだが、まぁいい。腐りかけていたことだしな」


 カイルは飲み干して、小さく呟いた。


「こころなしか、こっちはうまいような気がする」

「あぁ、案外熟成されて美味くなったのかもよ?」


 二人は笑った。


「ありがとうな。よい食事だった」


 カイルの髪に黒味が戻ってきた。瞳も同時に黒に染まっていく。カイルは口の近くに血液をつけたまま、疲れて膝を突いて、ばたりと倒れてしまった。


「これだから混血になりかけている時は怖いんだ。人間と吸血鬼が一緒に生存しているから、食事の話とかが出ると吸血鬼に自我を乗っ取られるからな。だから自分ではなくなってしまうんだよな……こいつも大変だな。というか、ここまで人格って変わるものだったっけ? まぁいい。帰ろうか……」


 ヴェスは窓から帰ろうとして、日の光が差し込んでいる事に気がついた。傘は生憎持ち合わせていない。扉から出ようとして、生徒達の声が聞こえてきた。


(あー、これは出られないな。しばらくここにいるか……)


 ヴェスは倒れているカイルをベッドに運び、寝かせると、自分は椅子を日の当たらない場所に移動させて、眠り始めた。

何かもう……スミマセン……


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