二話 異変
「赤黒い」の描写。これも残酷表現有りのダグ付けの一因なのかもしれません。
「えー、吸血鬼が弱点としていることはなんでしょう。はい、うたた寝しかけているカイル君」
「あ、はい」
お昼休みが終わった五時間目。カイルのクラスでは、吸血鬼についての授業をしていた。
考えながら席を立つ。
「えーと、武器での攻撃と、銀を長時間見ることです。あ、後は直射日光にも弱いです」
「座って宜しい。合っているよ。確かに、吸血鬼は銀に弱いね。武器は、向こう側が強いから何とも言えないけれど、やはり弱点だ。じゃあ、吸血鬼が得意なことは? じゃあセリアさん」
「血を吸う事と、武器を使うこと、そして小羽での低空飛行です」
「はい、セリアさんも正解だね。流石だね。皆さん、絶対に噛まれて飲まれないようにして下さいね。もしも少しでも噛まれて、吸われてしまったら、毒を入れられますからね」
ここで鐘が鳴った。
「はい、今日の授業は終わり。明日から休みだねー」
担任の先生は、教室から出て行った。終礼はないので、この場で解散となった。
一人、二人と教室から出て行く。カイルは、一人本を読んでいた。
「カイル、どうしたの? 帰ろう」
「ああ、そうだな。……って、寮まで百メートルだから、一緒に帰るほどでもないだろ」
「いいじゃない、一緒に帰ろうよ、学校一のプレーボーイ野郎」
「はいはい、お嬢様っと」
カイルは『吸血鬼について』という本を閉じて、机の中に閉まった。
本を長く読みすぎていたようで、空は既に黄昏に染まっていた。
(おかしい。絶対におかしい)
寮。自室。カイルは優等生扱いなので、普通は二人部屋だったが、一人部屋にさせてもらっている。
(何故、首筋をかもうと……)
あれは何だったのだ、とカイルは考えていた。
あれは自分の意思ではない。何かが自分を動かしている――とカイルはずっと考えていた。
「まるで吸血鬼みたいじゃないか……」
疲れたので、布団に眠り込んでそのまま寝てしまった。
まだ、日は沈んではいなかった。
次の日。カイルはゆっくりと起きた。意識が朦朧としていた。体を起こして、ベッドの横にある壁にすがった。
胸の動機がして、左手で胸を掴んだ。
左腕に、赤黒い物が巻き付いているような模様で付いていた。
慌てて服を脱ぐと、肩程度まで巻き付いたような模様が出来ている。
「……!」
驚くしかなかった。腕に巻き付いていた物は、まるで吸血鬼の肌の色のように赤黒かった。この世界の吸血鬼は、肌が赤黒い事で知られている。また、それが吸血鬼という目印でもあった。
「隠しておかないと……」
服を着ながら、カイルは隣の部屋に聞こえないように呟いた。
「俺は吸血鬼に取り付かれたのか……?」
カイルは顔を押さえて、その日はずっと、じっとしていた。
その次の日は、ドアを叩かれる音で起きた。
カイルはのっそりとベッドを出た。とてもげっそりとしていて、疲れているようだった。部屋を出る前に、左腕を見てみたが、少しだけ赤黒さが広がっていた。急いで隠す。
ドアを開けると、セリアの顔が飛び込んできた。彼の顔に驚いたセリアは、小さな悲鳴を上げた。
「どうしたの!」
セリアは急いで部屋の中に入り、カイルをベッドの上に寝かせた。
「顔がげんなりしているわよ? 昨日誰も見ていない、っていうから、心配して見に来てあげたのに。体調悪かったのね。今日は寝ていなさい。熱は無いわね」
セリアがカイルの首筋や額を触って、熱があるか確かめてから言った。
彼の顔は、まるで何かに取り付かれたようにげんなりしていたので、帰ろうとして、やめた。
「……腹減った」
「じゃあ、何か作るわ。粥でいいかしら。食べやすい物が良いわよね」
カイルは、微かに頷いた。
数十分後、カイルの枕元にお盆に載せられた粥が運ばれてきた。
「食べられる?」
何も答えなかった。
セリアは何の反応も示さない彼に、諦めと苛立ちを覚えて、仕方なくすくって食べさせた。ゆっくりと噛む。
「……あまり、おいしくない」
「あらら。おかしいわね。料理得意だから、美味しいと思うんだけれどね。ぐったりしていて、味が感じられないのかしらね。食欲もないみたい。片付けておくから、カイルは寝てなさいよ?」
セリアは、食べかけの粥と盆を持って、台所へと消えた。
皿を洗い終わったセリアは、そのまま帰ろうとしたが、カイルがそれを止めた。
「まって」
「どうしたの?」
セリアは珍しそうに、ベッドの近くに寄った。
何も言わずに、彼はセリアに近い右腕で、彼女の首筋に触れた。セリアは手の冷たさに思わず悲鳴を上げそうになった。カイルはわずかに微笑んだ。
「おまえの首は美しいな。ぜひ、おまえの――」
そこまで言って、カイルは我に返った。
(何を言おうとしているのだ、俺!)
「お前の?」
セリアは、何の躊躇いも無く聞く。
「いいや、何でもない。ありがとう。すまなかったな」
カイルはにっこりと微笑んで、右腕を首筋から離した。
「ありがと」
「ううん。元気にしていてね」
セリアは出て行った。その後、カイルは動揺していた。
(俺は……何をしようとして……)
夢だ、夢に違いない、とカイルは動揺している自分に言い聞かせて、そのまま眠ってしまった。
――おまえの首は美しいな。ぜひ、おまえの血をのんでみたいものだ。




