十話 発狂
別にエロくはない。多分。
後は最後のアリス自重すべき。え?お前が書いただろうって?
「ひ、ひひゃ……あははっ! あひゃひゃひゃひゃ! あははははッ!」
↑は本文から切り取った。作者の自爆だと思えばおk。
時は何百年も前に遡る。
「憾んでやる」
ロゼッタは呟いた。
何にも無い静かな部屋だった。白い部屋で、窓も装飾物も無い。
孤独だった。
ロゼッタは、恨まれ嫌われていた。生まれながらに、他の吸血鬼よりも醜い容姿なだけで、幼い頃から監禁されていた。双子の兄の方は、何事も無く普通に過ごしていた。
彼はその醜さで処刑される時、一人でこう言い放ったのだ。
「おれの双子の家系に双子が生まれたのなら――。その時は、先に生まれた方を呪ってやる。いいや、おれが世に復活してやる。そして、おれを殺した吸血鬼を――」
そうして彼は死んでいった。
双子の片方が、ファミリーネームをロゼッタと名乗るようになったのはその頃だった。
この話は、伝説とされ、今も語り継がれている。
カイル――ロゼッタは続ける。
「そうだな。やくそくどおりふっかつしたぞ。こいつはおれがのっとる。それにしても、あのふういんはみにこたえた。カイルの中にひそんでいたが、どうやら生まれてすぐにふういんをほどこしたらしいな。出るひまもなかった。そこのこむすめもふういんされていたぞ」
ロゼッタ家と言えば、最高級の吸血鬼の血筋になる。誰もが敬う家系だった。ただ、他の吸血鬼よりも少し髪が紅いという事で。
「ロゼッタ様……!」
その場にいた全員が跪いた。地位の低い者達は、そうするしかない。
「伝説通りに言うなら、そちらのカレ……ン様は、ロゼッタの……」
カレンと呼ぶか、カレン様と呼ぶか、ヴェスは少し戸惑った。
「そういうことになるだろうな」
「裏切り者の、ローズの子供という事になるか……」
カイル達の母は、吸血鬼に嫌気がさして人間に溶け込んだ存在だ。それは、吸血鬼からの裏切りとも言える。そして、人間の男とローズとで子供を生んで吸血鬼にならないように封印を施したという所だろうか。伝説を案じての事かも知れない。
「そういう事になるわね、ヴェス」
「でも、吸血鬼の血に人間の血は飲まれるんだ……。どっちにしろ、人間の血はもう流れていないという事になるな……カレン様は」
「こうさつはどうでもいい。……きょうはここでカイルにじがをわたすが……つぎはないとおもえ。こいつをのっとてみせる」
ロゼッタはそう言い残し、跪いているヴェスから小瓶を取り上げて飲み干す。
「あの女の血は、うまかったな」
その場に倒れた。
吸血鬼達は、先ほどまでロゼッタに一時的に乗っ取られていた、カイルに近寄る。
「……まさか……ロゼッタの者だったとは……。しかも、伝説が本当だったとは……」
「想定外だよな。まさか、ロゼッタが憑依しているとは」
アリアが確信するようにゆっくりと頷く。
「……ねぇ、どうするよ? 縛って吊るしたヴェスにしろ、クスリ使ったアリスにしろ――」
ルージュの言葉に、アリアが動揺したように声を張り上げる。
「五月蝿い! 終わった事だからいいのよ!」
アリアは関係ないとでも言うように、カレンの方に掛かりっきりだ。
「取り敢えず、空いてる部屋にでも運ぼうぜ?」
カレンをお姫様抱っこしたアリアが部屋を出る。
それに習って、ヴェスがカイルを負ぶさった。
「カイルゥ」
カレンが熟睡しているカイルの体を揺さぶった。
早朝。吸血鬼が本来ならば、少し前から眠っている時間である。
「起きて、起きて、起きてー」
起きない彼を、可愛らしい声で連呼しながら更に強く揺らす。
カレンは先程まで、カイルが今寝ている部屋の隣で寝ていたが、起きて辺りを彷徨っているとこの部屋に来た。つまらなかったので起こしているのであった。
「……」
カレンの揺さぶりが効いたのか、カイルは静かに上半身を起こした。
この時カイルは、完全と言っていいほどに吸血鬼となっていた。
紅い髪、紅い瞳、赤黒い肌に、生えた子羽。
「……カイル……? お兄ちゃん?」
だが、様子が変だ。
目に光が映っていない。カイルは血に飢えていた。急に覚醒した為か、腹が空いている。
「カイ――」
カイルを覗き込んでいたカレンは、首筋を軽く噛まれてその場に崩れた。カイルの寝ていた足に、シーツ越しでカレンの頭が乗る。カレンの表情は、ありえないと言った顔だ。
毒を入れたのではない。人間は勘違いをしている。毒ではなく、神経を麻痺させるのだ。入れられたからと言っても、死には至らない。三十分弱ほどで元通りに動けるようになる。
「――っぁ」
抱き寄せられたカレンの首に牙が食い込む。一筋の血液でさえ零すことなく飲まれていく。
「駄目、だよ……」
カレンは動かしにくい口でゆっくりとそう告げた。
カイルは血の味に顔を少ししかめた。
「吸血鬼、の生存本能でか……きゅ、吸血鬼の、血は、苦い、の、よ……?」
カレンは吸血鬼の血など吸った事は無いが、噂で少しは知っていた。
吸血鬼は、とても数が少ない。間違ってでも吸血鬼同士で共殺しが無い様に、吸血鬼の血は苦いのだった。
カイルは少し満足げに口を離した。だが、まだ抱かれたままで、カレンは飲まれた恥ずかしさと抱かれている状況とで頬を桃のようなピンクで染めた。
「カ、イルッ!」
カイルは恐ろしさで指を口の中に突っ込んだ。舌の上で指をなぞってから出して、恐る恐る指を視界の中心に持っていく。鮮血が唾液と共に付いていた。ロゼッタの意思関係なしに、初めて血を飲んだと認識した。それはカイルにとっては初めての事だ。恐怖心が心を埋め尽くして、発狂しそうだった。
「お、俺……。ちちちちちち血をををを」
「お、落ち着い、て」
宥めようと手を伸ばそうとしても、全く動かない腕。カレンにとっては初めての感覚だ。今までに飲んだ人間達が、走馬灯のように脳裏に蘇る。
彼は事実を認めたくなくて、カレンを勢い余って突き飛ばした。部屋に備えられていた本棚にぶつかり、派手な音を立てて本と一緒に床に叩きつけられる。本に埋もれたまま、カレンには何も出来なかった。
「嫌だっ……」
カイルは後退って、手で顔を覆った。
「ひ、ひひゃ……あははっ! あひゃひゃひゃひゃ! あははははッ!」
狂ったように――いや、狂ってカイルは腹を抱えて笑い始めた。何もかもがどうでもよくなった。
その笑い声を聞き、何事かとヴェス達がやってきた。少し眠そうだ。扉を開けて入ってから見た光景は、崩れた本からはみ出して見える衣服と、ベッドの上で壁にもたれかかり発狂するカイルだった。
「何があったんだよ、コレッ!」
「……アリア、少し落ち着こうね……。いや、僕は冷静になりすぎてるけどさ」
入り口で突っ立っている吸血鬼をよそに、この中で一番年上のヴェスが対応する。
「狂ったか。ったく――。おい、そこに突っ立っているお前達。動け!」
命令に吸血鬼達がいそいそと動く。もっとも、何をしたらいいか分からなかったが。
ヴェスは緊急という事で、暴れ始めたカイルを押さえ付けて首筋を噛んだ。これで麻痺するはずだ。案の定少しずつ動きが鈍り、それと同時に落ち着いてゆく。
「ごめん、何したらいいの、ヴェス」
アリア達吸血鬼は未だにオロオロしていた。
「あのな、そこのカレン様助けろっつーの」
「イ、イエス、ユアハイネス!」
「姉貴、それは少し違うぞ」
「サーイエッサー!」
「うむ。それで正しいと思うぞ」
「何だこの姉妹」
グダグダだった。
次回。
えーと・・・
沈黙の回です。矛盾があってどうしようかと頭を悩ませている所です。
…次回。
分かっていた。
ヴェスが言いたい事は、分かって、いた。
~本文(予定)より~