進展
翌朝、交代で休息を取っていたアレスはジャンピエロに突然起こされた。
「大変だアレス!!起きてくれ!!」
「なんだよジャン、どさくさに紛れてミレーナに告白でもしたのか?」
眠たそうに体を起こしながら、わずかながらの反撃をする。
「うるせえ、どさくさに紛れなくてもいつかちゃんと告白するし、
今はほっとけ!それより俺たちの探しているやつが見つかったかもしれないんだ」
「マジか、誰が見つけたんだ?」
「それが……これを見てくれ」
ジャンピエロは少し調子を落としながら、
アレスにスマートフォンの動画を再生し見せ始めた。
動画が始まるとどこかの一室に、
中年で黒ひげを生やしたひどく清潔感のない風貌の男が磔にされていた。
この男こそが今回の騒動の首謀者のドニゼッティである。
身体中の至る箇所から出血しており、
指は何本か欠け、口からも流血している。
歯も何本か折られているようだ。
ひどく怯えた様子である。その後数秒の間動画の音声が途切れた。
「ハァ……ハァ……そうだ。今のがすべてだ……
俺のやったことはすべて話した!
だから開放してくれ」
ドニゼッティは懇願している。その後また数秒動画の音声が途絶える。
「わかった。もう一度最初から話す……」
そして、ドニゼッティは自らの行ったこと、
暴動を影で操っていたこと、
自分の意見にそぐわない者を弾圧し始めたこと、
この町を牛耳ろうとしたことを話した。すべてを話し終わると動画は終了した。
「この動画はどうしたんだ?」
「この現場にあるテレビで再生されていたんだ。それがなぜか街中に出回ってる」
「なんだそりゃ。それで、このおっさんはどうなったんだ?」
「殺されていたんだ。たぶんこの動画の後だろう」
「そうか……」
ジャンピエロはスマートフォンを操作し、アレスに画像も見せた。
「あと、現場にこんなものがあったんだ」
その画像には壁に血らしきもので書かれたメッセージがあった。アレスが読み上げる。
「これは神を冒涜した者に対する正義の鉄槌である。
私はこれを拡散し、この町の者に広く伝えたい」
ジャンピエロが更に付け足す。
「これ、このおっさんが書いたらしいぜ」
「どういうことだ?」
「拷問した奴に脅されて書かされたんだろ」
「ふーん、でもこれで一応の問題は解決しちゃったってことだよなあ……」
アレスは頭を掻きむしった。
数時間後、阿賀野たちはダイニングルームに集まっていた。
「それで、どうするの?これで終わり?」
藍那が頬杖をつきながら疑問を投げかける。
「確かに、当初の問題は解決したかもしれませんが、
まだ犯人は捕まっていません。このままにはしておけない」
暴動を影で操っていた者が死に、
金庫や銀行を襲う火事場泥棒のような暴動はなくなっていたが、
リラはこの街のことを案じていた。
「おいおい、それじゃキリがないぞ。俺たちには時間がないんだ。
いつまでもこの街にいるわけにはいかない」
「確かに、心配してくれるのはありがたいけど、ここはダリルの言う通りかな。
一応俺もみんなと話せたし、これ以上はお前らにも悪い」
「もう少しだけ、調査してみましょうか」
意外な意見を出したのはヴァリオだった。
「もう少しだけやってみて、その犯人の手がかりがつかめなかったら諦めて、
次の場所に行く。どうでしょう。
私だって別れを告げたい人物はいます」
ここまで意見が割れつつある中でこのような妥協案を提示されれば、
それに乗っかるのが一番無難である。
「私もそれでいいと思う。阿賀野は?」
藍那も続いた。投げかけられた阿賀野は黙っている。
が、数秒後、
「うん。そうですね。僕もそれがいいと思います。
必ず手がかりを見つけましょう」
「阿賀野さん……」
リラはこちらを向いている阿賀野を見て消沈気味ではあったが先ほどよりは明るく答えた。
「明日には出発したい。タイムリミットは今日中だな」
ダリルがタイムリミットを提示し方針が固まり、各々が最後の捜索に出かけた。
1時間後、人気の少なく、薄暗い路地をその者は歩いていた。
(面倒だが、一応片付けておくか。そうでないとあそこまでした意味がないな)
その者は犯人を出頭させることを決意した。
数分後、その者は一人のホームレスの男を見つけた。
ホームレスらしく、服はボロボロであったが、
昨晩は飲酒をしたのか顔は紅潮し、大いびきをかいて寝ていた。
(こいつにするか)
その者は、その男に近づいた。
その日の夕方、景色のいい高台から阿賀野とリラは夕日を見つめていた。
調査したが特に手がかりを得ることができなかった。
リラは自嘲気味に阿賀野に話しかける。
「やっぱり駄目でしたね」
阿賀野は遠くを見つめてぼんやりとしている。
何も答えないがリラは続ける。
「私、自分の力不足が憎いです。どうしていつもこうなんだろう」
リラも夕日に向き直る。そしてため息をついた。
「あんど、あんどりー、さん?」
突然、阿賀野がリラに話しかけようとするも、
彼女の名字を覚えきれていなかった。
かといっていきなりファストネームで呼ぶのも躊躇われたため、
ぎこちない感じになってしまった。
「アンドレーエヴナです。リラ・アンドレーエヴナ・フィルソヴァです。」
リラは少しむっとしながら、自分の名前を伝えた。
「アンドレーエヴナさんか。ごめんなさい。外国の人の名前は難しくて」
阿賀野は照れ臭そうにはにかんだ。
「それで、アンドレーエヴナさん、一つ方法を思いつきました。
イチかバチかですけど」
リラが驚いて阿賀野を見る。
「僕の能力強化であなたの能力を強化するんです。
アンドレーエヴナさんの能力は脅威の感知でしたよね?
その感知能力をもう少し強化できればひょっとしたら見つかるかもと思って」
リラは思わず胸が高まった。
阿賀野はにこりとほほ笑むと、正面を向きリラの両肩に手を乗せた。
リラは驚いたが、自分のやるべきことを思い返し、
すぐに冷静さを取り戻し彼の目を力強く見つめた。
「僕の能力強化は能力が強まる代わりに負担も増えます。
なので無理はしないでください」
リラは無言でうなずく。
「では、始めます。アビリティ・ライズ」
阿賀野はリラの肩を強く掴んだ。
肩を強く握られたせいなのか、
能力強化の反動なのかはわからないが、
リラは小さく嬌声を漏らした。
「アンドレーエヴナさん、能力を使ってみてください」
リラは目を閉じ感知に集中した。
ぼんやりとしたイメージの中にかすかな光が見えた。
しかし、まだ足りない。
「ぼんやりと見えていますがまだ駄目です」
阿賀野は無言で肩を握る力を強める。
彼女は苦悶の表情を浮かべながらも感知に集中する。
「駄目です。もっと強くしてください」
言われるがままに力を強める。
リラは両肩を掴んでいる阿賀野の腕に触れる。
「ま、まだです……」
阿賀野の力がさらに強くなる。
「もっと強く、もっと……」
リラは息を切らしながら求める。
力を込める阿賀野の方も苦悶の表情を浮かべる。
(ここが限界だ。これ以上はまずいな。止めなくちゃ)
「アンドレーエヴナさん、これが限界です。
これ以上は体に負担がかかり過ぎる」
しかし、リラは返事をしなかった。
「アンドレーエヴナさん?アンドレーエヴナさん!?」
リラは息を切らしながら答えた。
「見つかりました。ここからすぐ近くです」
阿賀野は能力の発動を終える。
手を放そうとするが、ふとリラがその手を止めた。
「それから、私のことはリラって呼んでください」
リラは微笑みながらそう告げた。
沈みかけていた夕日がリラの顔を照らしていたせいか、その顔は赤らめて見えた。




