使徒の力
話し合いを宣言してから、森の中で隠れて過ごし、
どのように話し合いを進めるのか、
何を話し合うのかなどを具体的に検討していた。
その中で一つ懸念があった。
「なあ、俺たちはどうなるのかわかないけど、
どのような結果になるにしろ会っておきたい人っているんじゃないのか?」
アレスが疑問を呈した。
「確かにそうね……」
藍那にも思い当たる節はあるらしい。
「はい。私ももう一度だけでもいいからおばあちゃんに会いたいです」
リラが寂しそうな表情で呟いた。
「それくらいの時間はありますね」
ヴァリオが頷いた。
「な?そこで一つ考えたんだが、どうよ?」
アレスがにっこりと阿賀野と肩を組みながら言う。
「一人につき一回だけ、誰にでも会いに行く権利を設けないか?
召集権を使えば可能だろう?」
皆がガイドの方を見る。
「もちろん可能だぜぇ。
だが、召集権を使うと人間にも場所がバレちまうから、
入念に準備して手短に済ませたほうがいいと思うぞぉ!」
「待て、顔の割れている阿賀野に関しては、
知人に会いに行くには罠があると思われるが?」
ダリルは慎重に考慮し、一つの可能性を指摘した。
「僕はその権利は使えなくてもかまいません。
もう別れは済ませて来ましたから」
阿賀野は力強い目をしていた。
「それに、父親は生まれたときからいませんでしたし、
母親はすでに他界しましたから」
「阿賀野がそれでいいならかまわない」
ダリルも了承した。
「よし、じゃあ決まりだな。
よーく考えて権利を使えよ?
ま、俺はもう使う気満々だけどな!」
意見がまとまり、アレスも喜んだ。
こうして、阿賀野たちに新たなルールが加わった。
不意にリラに悪寒が走った。
(!!)
リラは周囲を見回しながら注意を促す。
「何かが私たちに迫っています!」
リラが目を閉じながら告げる。何かに全神経を集中させているのがわかる。
「どういうことだ?」
ダリルが身構えながらリラに詳細を尋ねる。
「私の能力です。脅威が近くに迫っているとわかるんです。
あぁ、もう来る!右です!」
森の中をガサガサと音を立てながら何かが迫ってくる。
ダリルはリラの右方を凝視し、阿賀野たちに告げる。
「俺より後ろに下がれ。俺の能力で解決する」
阿賀野たちは言われるがままにダリルの後ろに下がった。
脅威の正体が姿を現す。
「熊だ!」
アレスもダリルの横に並んで身構えながら能力を発動させる体制を取った。
「グリズリーか!」
脅威の正体が判明したところで、
ダリルは左手首を右手で強く抑えながらヒグマの眉間を凝視した。
数秒後、ヒグマが襲い掛かろうとしたときのことだった。
その顔面が即座に潰れた。
そのまま大きな音を立てながら後ろに倒れる。
衝撃で木の葉が辺りにひらひらと落ちてきた。
ダリルは息を切らしているが、
呼吸を整えながら阿賀野たちに自身の能力を説明した。
「俺の能力は眼で見たものを破壊する。
発動のために左手首を強く押さえながら対象を凝視すればいい。
数秒かかるがな」
ダリルは木に寄り掛かった。
顔には大粒の汗が噴き出ている。
「それに、見ての通りかなり消耗が激しい」
半ば自虐的に笑いながら付け加えた。
「あまり多用はできないってことだな」
アレスはダリルに水の入ったペットボトルを差し出す。
ダリルは無言で受け取り一口飲んだ後、少し水を被った。
「しかし、なぜこんな一直線にここを目指してきたんだ…?」
ダリルの疑問ももっともであった。
いくらクマとはいえもう少し慎重な生き物のはずである。
「それは、使徒だからだなァ」
ガイドが答える。
「前に言ってた、人ではないものになったことによる違和感ってやつ……?」
阿賀野は反射的に尋ねる。
「そうだ。今の段階で常人はほとんどわからないだろゥ。
ただ、人間より感覚の鋭い野生の動物は別だァ」
「では、これからも野生の動物の襲来に悩まされなければならないのか?」
ダリルの問いにリラは少し怯えながらもう一度感知をする。
しかし、特段脅威は感知されなかった。
藍那はこっそりと周囲を見回し逃げ道を確認していた。
「安心しろォ。使徒様として成長していけば、
やがて違和感は危機感に変わり野生の動物は一切近付かなくなるゥ」
ダリルは少し安堵したようだが、続けて1つ提案した。
「少しの辛抱と思っておくしかないな。
それと、全員の能力はきちんと把握しておいたほうがいいな」
「その通りですね。お互いのことをもっと知ったほうがいいでしょう」
ヴァリオが頷く。
「では、各々能力を説明してもらおうか。
まず手始めに俺からだ
……と言ってもすでに話したとおりだがな。
破壊力はあるがあまり多用はできない。
普段の戦闘では銃をメインに使うことになるだろう」
「戦闘……」
リラが不安そうに呟く。
「こちらが望まずとも、避けられない場面も出てくるだろう。
ところで、必要な物資を持ってきたのは俺だけか?」
阿賀野は周りを見回した。
逃げるのに必死で荷物のことを何も考えていなかったことに気付き後悔する。
阿賀野以外も同じ様子であることを薄々察していたダリルはため息をつく。
「お前たち、そんな調子で本当に大丈夫か」
阿賀野たちは互いを見合わせてバツの悪そうな笑いを浮かべた。
「まあいい、野営はできるように準備はしてある。
俺からはこんなものだが次は誰がやる?」
「でしたら、途中でしたので私からします」
リラが手を挙げて進み出る。
「私の能力は先ほど言ったとおり、脅威の感知です。
能力を使うためには、目を閉じて念じないといけません。
でも、ある程度近くなら勝手に感知されるみたいです」
「『脅威』とは何をもって『脅威』となるんだ?」
ダリルは疑問を呈する。
「と言いますと?」
ヴァリオが首をかしげる。
「例えば、今この目の前にある木だって倒れてくれば『脅威』になるのではないか?
もし、そうなると考え様によっては、
近くの脅威なんていくらでもあることになるぞ」
「確かに、それはどうなんでしょう……」
リラが困惑しながらガイドを見つめる。
「リラの能力は脅威の感知だが、
これはある種の未来予知とも言えるんだぜィ!」
ガイドが補足する。
「つまり先ほどの例なら、その木が近い将来に倒れるなら『脅威』として認識され、
リラは感知することができるんだァ!
まァ今はそんなレベルにはほど遠いけどなァ」
「すげえじゃねえか。じゃあ次は俺だな!」
グリズリーの襲来によるものか、
アレスのテンションは上がっている。
「俺の能力は、一言で言ったら絶対防御だ!」
「ふむふむ」
ヴァリオも心なしかテンションが上がっているように感じたが、
元からかもしれないと阿賀野は思った。
「で、詳細は?」
藍那が少し苛立ちながら説明を促す。
彼女にしてみれば、こんな状況でテンションが上がること自体がおかしいのだ。
気に食わないのは当たり前だ。
「言った通りだ。
俺が出す盾は絶対に壊されない。
だから盾の後ろにいれば安全だ」
「壊されないと言うより、
盾は何があっても存在を維持し続けることができると言ったところだなァ」
ガイドが補足してやる。
「それでは、俺の能力をお前にぶつけたらどうなるんだ?」
ダリルなりのジョークである。
「どうなるんだろなあ、教えてくれよガイド!」
「やってみなきゃわからないなァ!やってみるかィ?」
「いや、やめておくよ」
アレスに続いて、ダリルもフッと笑う。
「手をかざせばいつでも出せる。今は人一人くらいの大きさだな」
アレスは手を前にかざし、能力を発動する。
複雑な模様をした楕円で半透明の虹色の盾が現れる。
「ま、いざというときは俺の後ろに立ってくれよな」
アレスはニッとはにかんだ。
「じゃあ次は私ね」
藍那がため息交じりに名乗りを上げる。
「私の能力は自分の体を透明にすることよ。
ここに来るまではこの能力でなんとか逃げてたわ」
そう言うと、その場から藍那の姿が一瞬で消えた。
数秒してその場に再び藍那の姿が現れた。
「こんな感じね。条件は特にはないわ。
しいて言うならそんなに長くは使えないってことくらいね」
「藍那以外の姿も消せるのか?」
好奇心を抑えきれないアレスが鼻息交じりに尋ねる。
「試したことがなかったわね。やってみるわ」
藍那が念じてみるとアレスの姿が消えた。
どうやら藍那自身以外にも使えるようだ。
「便利な能力ですねえ!」
ヴァリオはいちいちリアクションが大きい。
だが、すでにみな慣れ始めていた。
「じゃあ次は僕ですね」
阿賀野は名乗りを上げて能力強化について説明した。
彼にとっても実に単純な能力だと思っていたが、
周囲からの評価は思いの外高かった。
「なるほど、汎用性が高いな」
「ちょっと俺に試してみてくれよ」
アレスが歩み出る。阿賀野は言われるがままに能力強化を試す。
アレスは手をかざして盾を発現させる。
すると、先ほど出したよりも一回り大きな盾が発現した。
「ちなみに、一度でも強化すると、
少しずつだが成長が促されて勝手に強化されていくぜェ」
ガイドが補足する。
「だけど、一人ではほとんど何もできません。
みなさんのサポートに徹したいと思います」
「いやあ、みなさんすごい能力をお持ちですねえ」
その場の全員の視線がヴァリオに集まる。
「あんたが最後よ」
藍那がヴァリオの説明を促す。
「そうでした!みなさんの話に夢中になりすっかり忘れていました!」
呑気な様子で一人笑っていたが、一呼吸置いたのち自分の能力について説明を始めた。
「私の能力は大した能力ではありません」
そう言ってヴァリオは手のひらを出した。
次の瞬間、そこには方位磁石が出現していた。
「私の能力はモノを発現させることです。
今はちょうど便利だと思ってこれを出しました」
「いやいやすごいよヴァリオさん!!」
アレスはまたもや感激していた。
実際にかなり便利なのは確かであったため、
誰もアレスの言葉を否定するつもりはなかった。
「野営するのがだいぶ楽になる。
早速その力を使ってもらうことになるな。
今までの話で何か補足はあるか?」
あまりヴァリオに長々と喋らせるのはなんとなく憚られたので、
ダリルがガイドに淡々とほかの話題を振った。
ガイドは色々と話したくて仕方なかったようで、矢継ぎ早に補足を始めた。
「今まで説明した力は使えば使うほど体に馴染んでいき、
威力が上がってできることが増えていくぞォ。
どんどん使っていけェ!
まァいわゆる七つの大罪ってやつがモチーフだ。
どんどん使徒として強くなってくれィ!」
「悪魔なのか天使なのかどっちなんだよ」
さすがのアレスも呆れながら言った。
ダリルは最後に一つ付け加えた。
「そうか。説明をしてもらった後ですまないが、
お前はもう不必要に俺たちの前に出てこないでくれるか?
ほかの人間に見つかると厄介なんだ」
「使徒さまにそう言われちゃ仕方ないなァ。
ま、何か聞きたいことがあったらいつでも呼んでくだせェ」
案外あっさりと了承した。
「それに」
ガイドは悪魔じみた笑みを浮かべた。
「俺だって観戦を楽しみたいからなァ」
そう付け足すとふっと姿を消した。
藍那はため息交じりに呟く。
「私、アイツ嫌い」
「見てればわかるよ」
アレスはヴァリオとは違い、ただ呑気なわけではなかった。
ダリルは周囲を確認しながら呼びかける。
「もう日が暮れるな。とりあえず今日は野営だな」
「野営なんてやり方わからないわよ」
「経験は何度もある。俺に任せておけ」
ダリルは淡々と告げた。
これでサバイバル術にはあまり困らなさそうだと阿賀野は安心した。
こうして、彼らの長い旅が始まった。




