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宣言

 住宅街から少し離れた山奥にポツンと古びた小さな山小屋がある。

 麻衣はその中の椅子に縛りつけられていた。

 周りを複数の男が殺気立った様子で取り囲んでいる。

 阿賀野が召集権を使う際に襲いかかってきた男たちもいた。


「お前もあの神に選ばれたとかいう奴の仲間なんだろ。知っている情報をすべて吐け」

 しかし、麻衣はそっぽを向いて固く口をつぐむ。

 そもそも、阿賀野がどこに行ったかなどわからない。

 知っていることは、阿賀野が使徒だということ、

 使徒には能力があること、ガイドがいること、それくらいである。


 麻衣は使徒でもあり幼馴染でもある阿賀野のこと信じている。

 それがここにいる男たちと麻衣の最大の違いである。


「何か言ったらどうなんだ!」

 パシャリと一人の男が麻衣にバケツで水をかける。

 しかし、その程度では動じない。

「ガキの癖にナメやがって!」

 別の男が苛立って拳を上げる。

 しかし、それを別の男が制する。


「あの、神に選ばれた奴らを殺さないと俺たち人間は滅びるらしい。

 君も俺たちを滅ぼそうとする敵なのか?」

 長身で落ち着いた雰囲気の男であった。


「敵味方なんてない!アイツも私たちも同じ人間でしょ!」

 麻衣が初めて口を開く。

「今の発言からすると、君は使徒とやらではない。

 そういうことでいいのかな?」


 麻衣とは対照的に、男は相変わらず落ち着いた様子で会話を続ける。

 麻衣はゆっくりと首を縦に振る。男は軽いため息をついた。


「信じられるか!」

 苛立ちを抑えきれない男が叫ぶ。

「落ち着くんだ、有田さん。

 感情的になるよりも情報を得ることが先決だろう」


 正気を失っているのは有田だけではなかった。

 世界中の誰もが混乱している。

 だからこぞ、正しい情報を得ることが必要なのだ。


「とにかく、君は使徒ではないんだね?」

 麻衣は再び無言で頷く。

「そうか、こんなことをしてすまなかったな。

 見てのとおりこちらもあまり余裕はないんだ。

 俺は由林。この近くに住んで働いている。

 君の名前は?」

「……私は川瀬麻衣。高校生です」

 由林が思いのほか丁寧だったため、つられて麻衣も敬語になる。

「それで、もしあの時、つまり神さまとやらのお話があったときに、

 使徒と一緒にいたなら、そのときの話を詳しく聞かせてほしい」

「それを聞いてどうするの?」

「わからないことだらけだからこそ、

 俺たちは少しでもこのことに関する情報が知りたいんだ。

 何より、俺自身も純粋に何が起こっているのか気になる。

 それに、ひょっとしたら君の助けになるかもしれない」


「由林さん、あんたこの娘を助ける気なのか?」

 有田が驚きを隠せずに尋ねる。

「それは、川瀬さん次第さ」

 麻衣は考えた。由林は悪い人間には見えない。

 それに、阿賀野が話し合うために旅立ち、奮闘しているのだ。

 麻衣も阿賀野の助けになれる人が一人でも多く増やせるなら、

 そのために行動するべきではないのかと結論付けた。


「最初に神さまのお告げがあった後、光がアイツを差していた」

 そうして麻衣は、言葉を選びながら、

 少しずつ次第の一部始終を話していった。

 由林はそれを静かに聞いていた。


「それからは、夢中で逃げた。

 それで、由林さんたちに見つかって捕まりそうになったから逃げました」

「それだけかい?」

 麻衣は躊躇した。

 最後に一つ、一番重要な話をしていなかった。


「私は、芳樹が逃げるときに一つ約束をしました」

 信用してもらえるか自信がなかった。

 だが、麻衣は話した。

「芳樹たちか私たち人間のどちらかが死ななくちゃいけないなんておかしい。

 だから、みんなで話し合うべきだって」


「話し合う?」

 由林が麻衣の言葉を繰り返す。

「正気か?」

「話し合うって言ってもなあ」

 有田たちもそれに続く。


「でも、芳樹は約束してくれました」

 麻衣は反論にならない反論をした。

 それ以上は、麻衣には阿賀野を信じることしかできない。


 だけど、それで十分だった。

 麻衣には彼を信じるに足る思い出がある。

 当の本人がそれを覚えているかはわからないが。


「!?」


 突然、その場にいる全員に不思議な感覚が走る。

「あの時」と同じ感覚であった。

 これは麻衣たちだけではない、全世界の人間が同じ感覚を感じていた。


 そして、「あの時」と同じように上空に人影が映し出される。



 *  *  *



「全世界のみなさん、聞いてください」

 全世界の人間に語りかけようとする者がまたもや現れた。

 だが、今度は神ではなかった。

 一人の青年、阿賀野であった。

 彼以外の顔は光で遮られていてよく判別できなかったが、

 今回の呼びかけの主の顔は全世界の人間にはしっかりと見えていた。


 阿賀野はかなり緊張していた。

 あの時、神がしたように全世界の人間に向けて発言をするのだから当然である。

 一度目を閉じ、深く息を吸った。

 そして、決意を固めて全世界の人間に言葉を発する。


「みなさん、僕が使徒です」


 全世界で混乱が生じていたが、

 このときに限ってはすべての人間が自分たちの行動を中止し、

 阿賀野の発言に耳を傾けている。


「今、世界中で混乱が起き、濡れ衣を着せられた人たちが傷つけられていると聞きました」

 このとき、まさに使徒と疑われ殺されようとしていた何人かの人間が間一髪で助かった。


「本当の使徒は僕たち6人です。1人はすでに殺されました。

 急に言われても信じられないかもしれませんが、

 この僕が起こしている今の状況が何よりの証拠です」


 阿賀野以外の使徒の影が天に映し出される。

 顔が映っているのは阿賀野だけである。

「僕たちは、人類が滅びることを望んでいません」

 ある者は祈りを捧げながら聞いている。

 中には、阿賀野の映っている天に向かって銃を発砲する者もいた。


「でも、僕たちも死にたくはありません」

 阿賀野はもう一度深呼吸をする。

 そして、力強く言った。

「だから、話し合いましょう」


「芳樹……」

 麻衣は自分のした行動と選択が決して間違っていなかったと安堵した。


「僕たちは10日後にアメリカにある国連の議会に向かいます。

 そこで、話し合いをしたいと考えています。

 どうか、僕たちと話し合いをしましょう」


 ぺこりとお辞儀をして、阿賀野たちの姿が全世界の天から消えた。


(麻衣、母さん……僕はうまくやれたかな?)


 阿賀野はしばらくそのまま天の方を眺めていた。


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