はちにんめ
「僕はここで8人目の使徒を指名する」
阿賀野が人類に告げる。
再び人々の疑心暗鬼の思いがよみがえる。
「僕が指名するのは、僕の母だ」
告げ終わると、天に映し出された者たちの姿が消える。
阿賀野はもう何一つ能力を使う余力はなく、
指一本動かせなかった。
阿賀野は最後の力をルール改変に使った。
指名権で指名する者を誰でも選べるようにしたのである。
そう、既にこの世にいない者も含めて。
麻衣の顔がふっと浮かんだ。
続いて藍那、リラ、ダリル、アレス、ヴァリオの顔も浮かんだ。
みなほほ笑んでいた。
だが、次の瞬間、
そのすべての顔が死に際と同じ顔をし、死んでいった。
阿賀野は目を見開いた。
死ぬ間際の幻覚を見ていたのだ。
もう、誰にも会えないのだ。
阿賀野は天涯孤独である。
もう何も残っていない。
唯一残っているとすれば……。
阿賀野はなんとか仰向けになりながら息を整える。
彼は最後に指名権を用いて亡くなった母を指名した。
死んだ者を殺すことはできない。
人類は完全に詰んだのだ。
どうあがいても人類はこの戦争に勝つことができない。
愛しい人も仲間もすべて失ったが、
最後に残っていた復讐心だけは果たすことができた。
そして、笑い始める。
おかしくておかしくてしょうがなかった。
「あはははははははははははは!!!!!おっもしろい、最高だ!!!!!」
笑いながら吐血する。
しかし、血まみれの顔でなお笑い続ける。
「ざまあみろ!!!!こんな星なんて滅びてしまえ!!!!!」
激しい戦闘により荒れた大地と、
おびただしい武器や人だったものの残骸が散らばっている。
10分後、地上に戻された阿賀野はすでに息絶えていた。
その亡骸は徐々に光になっていき、さらさらと天へと昇っていった。
壮絶な戦いの幕引きはあっけなかった。
しかし、人類は敗北した。
いや、勝利できなかったというべきか。
そして、その年の暮れにこの星の人類は滅亡した。
すべての人々は絶望の中で終わりを迎えたのだった。
人類のいない地球はそれほど静かでもなかった。
風が吹けば草木が揺れて音は鳴るし、
朝には鳥々が、夜には虫や蛙たちがけたたましく鳴いている。
ときには通り雨や雷が鳴ることもあったし、
地震があったり、
火山が噴火することもあった。
強いて言うなら、
人々の怨嗟の声がいっさいしなくなっていた。
これまでの争いが嘘のようにおだやかな日々が気の遠くなるほどに続いていく。
人類がいなくなり、闇を取り戻した地球の夜では、
今度は星々がうるさいくらいにきらめている。
無数にあるその中でまた1つ、新たな星が瞬いたのだった。
完




