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悲しき叫び

「こちら人類軍総司令本部。

 早急に現地に向かい状況を確認し報告せよ」

「了解。あと10分あれば到着する」


 複数のヘリコプターや輸送機の集団が国連の施設があった場所を目指して、

 猛スピードで向かっている。


「奴は本当に生きているんですかね?」

「わからない。

 だがアナウンスは出ていない。

 油断はするな」 


 乗り込んでいる隊員同士が会話をしていると、

 前方に焼け焦げて煙の充満している建物が見えてきた。

 国連の本部であったため、相当丈夫な造りにはなっていたが、

 仕掛けていた爆弾を小型のミサイルを撃ち込んで共に起爆させたため、

 建物の上部は跡形もなく吹き飛んでいた。


「現地班からの情報は?」

 輸送中でも絶えず通信をしながら情報収集に努めている。

「現在周囲を確認中だが、避難させた市民への対応に追われているらしい」

「なんだそれ。

 事前に避難はさせたんだろ?

 なんで文句を言われなきゃならんのだ」

「例の人権団体じゃねえの」

 兵士は自分の銃の確認をしながら肩をすくめた。

 そろそろ到着かと思ったときだった。


「おい、前方の部隊が一瞬で消えたぞ……!」

 運転席から驚嘆の声が上がった。

「これはもう降下したほうがいいかもしれんな」

 そう言って、窓の外を見たときであった。


(人……!?)

 しかし、銃を構える暇もなく消し飛ばされた。

 その数秒後に、後ろにいたヘリコプターも消し飛んだ。


「奴は健在です!!」

 最後方にいた部隊から本部への報告があったが、

 それを最後に通信は途絶えた。


「やはり生きていたか……」

 ケディは拳を握りしめた。

 しかし、すぐに冷静さを取り戻し指示を出した。


「いいか、よく聞け。

 最後の使徒、アガノはまだ生きている!

 だが、我々は何がなんでも勝利しなければならない。


 これが人類軍……

 いや、人類と使徒との最後の戦いだ。

 奴に引導を渡してやれ!!」

「了解」

 こうして、人類軍は最後の総力戦体制へと入った。


 阿賀野は、とっくに国連本部跡周辺の人類軍をすべて消し飛ばしていた。

 アレスの盾を足場になるように一歩ごとに一瞬だけ出現させ、

 階段を昇るように空へと音速で駆けあがり、

 上空の敵機まで接近し、間近でダリルの能力を発動する。

 これが最小限の消耗で済む敵の撃破方法であった。


 しかし、阿賀野は決して冷静というわけではなかった。

 すでに生き延びるという気持ちはなくなっていた。

 代わりに、人類軍、いや人類への復讐を果たすため、

 少しでも多く敵を殲滅するために戦っていた。


 一方で、人類軍にも懸念が1つあった。

「気がかりなのは、指名権だ。

 奴は誰を指名する気だ?」

 たとえもう1人使徒が増えたところで、

 状況が大きく変わるとは思えない。

 人類の勝利は目前だ。

 だからこそ、指名権を使う意味が必然的に理解される。

 誰もが神の気まぐれのような不運で道連れになることを恐れていた。


「あのマカリスターを、指名してやろうか」

 もう阿賀野には何の大義名分もない。

 あるのは投げやりな気持ちと幾ばくかの憎しみだ。


 だが、なぜかそうしようと思えなかった。

 得体の知れない何かがその決断に待ったをかけるのだ。

 彼自身でもまだ気付かないもっと恐ろしい発想が、

 まだ思考の底に眠っているような気がするのだ。

 戦闘機の影の見える彼方の方へと叫び声を上げながら迷彩化を解除する。

 もはや身を守るために能力を使う必要はなくなっていた。


「芳樹、お前は十分やったよ」 


 一瞬、アレスの声が聞こえた気がしたが、

 阿賀野はそれをかき消すように叫んだ。


「どうした?!

 僕は逃げも隠れもしない!!

 僕を殺したいんだろう!?」


 まだ阿賀野と戦闘機の距離はお互いの射程圏内ではない。


「阿賀野、無茶はするな」


 ダリルの声が聞こえた気がした。

 だが、阿賀野は敵を見据えて攻撃の準備するべく無言で構える。


「芳樹」 


 リラが名前を呼ぶ声が聞こえた気がした。

 それでも、阿賀野は止まらない。


「今更なんだっていうんだ……!」


 戦闘機が阿賀野に向けてミサイルを射出する。

 それをすぐに消し飛ばし、

 アレスの盾で足場を作り音速で射程距離まで近づき、

 複数の戦闘機を消し飛ばす。


「芳樹、あんたにも守りたいものはあるでしょう」


 今しがた、藍那がすぐそこにいて言い残していったように聞こえた。


「もう、僕には何もない」


 遠い目をしながら呟く。

 突如阿賀野の顔の横を銃弾がかすめる。

 先ほどの部隊の後方部隊が阿賀野の気配を頼りに通常では実施しないような、

 半ばあてずっぽうな攻撃も開始していた。

 阿賀野は次の標的を見つけると、足場を作り、

 雲の中を高速で移動しながらそれらに近付いていく。


「これ以上苦しまないで」


 雲の中から麻衣の幻影が現れ、

 語り掛けてきたような気がしたが、

 泣き叫ぶように振り払った。

 雲を抜けると、いくつもの戦闘機がこちらに向かって、

 射撃をしながら迫って来るのが見えた。


「苦しめるのはあいつらだ!!!」


 阿賀野は再び雄たけびを上げる。

 だが、それは戦闘機のエンジン音と激しい発砲音によりかき消された。



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