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合流

 阿賀野は深い森の中にいた。

 まったく人気を感じないくらいには人里離れた場所のようだ。

 これは想像した通りだった。

 ひと呼吸置き、その場に座り込んだ。

 彼自身も衝動で行動をしてしまったことも否めず、

 若干途方に暮れていた。


 しかし、それも束の間であった。

 付近に天から光が差す。

 そして、5人が現れ舞い降りてきた。他の使徒である。


 阿賀野と同じくらいの年齢の少女が二人いた。

 一人はやや短めの黒髪で制服を着ており、おそらく同じ日本人であった。

 もう一人は色白の金髪で白いワンピースを着ているおとなしそうな少女であった。


 そのほかに男が三人いた。

 一人は背丈の高くかなり体格のいい軍服らしきものを着ている、

 褐色の肌の20代後半から30代と見える男であった。

 もう一人、軍服の男と同じくらい背丈のある男がいる。

 その男は丸眼鏡をかけており、

 髪は短いが癖のある金髪で40代くらいの神父の恰好をした男であった。


 そして、阿賀野は最後の一人である、

 自分より一回り年上に見える茶髪で日焼けした肌の青年と最初に目が合う。

 すると、その青年ははにかみながら挨拶する。


「よう、あんたも選ばれちまったのか。お互い災難だな」


 阿賀野は他の使徒がどんな人間なのか想像する暇さえなかったが、

 その使徒が思いの外気さくであったことに驚き戸惑う。


「あれ、日本語……?」


 阿賀野が発した言葉はあいさつではなかった。

 一つ不可解な点に気付いた。

 明らかに異国の出身であると見てわかるその青年と言葉で意思疎通できたのだ。


「ん?俺は日本語なんて知らないぜ?

 お前こそイタリア語喋れてるじゃないか。

 って、ははは、こんな状況だもんな。

 落ち着いて挨拶してる場合じゃないよな」

 青年は相変わらず気さくな調子で話を続ける。


「この状況でなんであんたはそんなにヘラヘラしてられるのよ!!」

 黒髪の少女が苛立って会話に入ってきた。

 その少女の勝気な言動が阿賀野にとって、どこか麻衣を思わせるものがあった。

 それに気付き、少し笑ってしまう。


「何がおかしいのよ」

 少女は怪訝な顔で尋ねる。

「いや、なんでも」

 少女はからかわれているのだと思い、そっぽを向いた。


「これで全員揃ったなァ」

 ガイドが姿を現す。

 その場にいる全員が振り返り、ガイドの方を向く。


「これで、今日の召集権は使用したな。

 ま、これから毎日どんどん使っていってくれよなァ」


「やはり話は嘘ではなかったのか」

 軍服の男が初めて言葉を発する。

 この男もまたある程度の説明はガイドから受けているようだ。

 明らかに異国の者であったが、阿賀野は発言の内容を理解できていた。

 みながファーストコンタクトに気を取られている間に、

 この男はすでに周囲の様子を確認している。


「そうさ、信じてもらえて何よりだァ。

 でもよく全員が召集に応じたもんだなァ」


 阿賀野は、召集権は同意した者のみが召集されるという説明を思い出した。

 今回は全員が同意したのだ。


「とりあえずさ、自己紹介でもしない?

 俺はイタリア出身のアレッシオ・ブランジーニだ。

 アレスって呼んでくれ。こんなことになっちまったがよろしく頼むぜ」

 アレスは陽気に使徒全員と握手して回ろうとする。


「おっと、あんたには触れられないんだったな」

 やはり、ガイドとは握手できなかったようだ。


「あんた、そいつとも仲良くやるつもりだったの!?」

 黒髪の少女が信じられないと言わんばかりの様子で尋ねる。


「あいさつは大事だぜ、お嬢さん。

 次はあなたが自己紹介する番だ」


 アレスは握手をしようと手を差し出した。

 黒髪の少女は面食らったようだが、一呼吸置きしぶしぶ応じながら自己紹介をする。


「私は高嶺藍那。日本人よ。

 ほかの人から逃げる途中で召集されたの。

 ちょうどよかったから召集権に応じたわ。

 あんたたちも逃げてたんでしょ?」


「俺は兄に匿われていた」

 軍服を着た男が藍那の問いに答える。

 強面のため、藍那はギョっとする。


「俺の名は、ダリル・ムアック。

 双子の兄とフランスで傭兵をやっていた。

 兄まで巻き込むわけにはいかなかったので召集に応じた」

 ダリルは阿賀野たちが想像する見た目どおりの人物であったようだ。


「傭兵だったのか。そいつは頼りになるな」

 アレスはダリルと握手を交わした。

 神父の男は感心したように頷いていた。


「私も祖母に匿われていました」

 色白でおとなしそうな少女が次に自己紹介を始める。


「私の名はリラ・アンドレーエヴナ・フィルソヴァ。

 ロシアの田舎で祖母と二人で暮らしています。

 私は、私と同じ状況に置かれた他の人たちがどんな人たちなのか見るために来ました」


「おや、私と同じ目的のようですね」

 神父がにこやかな様子で次に自己紹介を始める。


「申し遅れました。私はヴァリオ・エストランデルです。

 フィンランドの教会で毎日祈りをささげています。

 この出会いも神の導きです。みなさんとの出会いに感謝です」


「感謝?あんたバカじゃないの?」

 藍那が口を挟む。

 彼女にとってはこんな状況でも笑顔でいられる人間が信じられず、嫌悪感を覚えていた。

 だが、ヴァリオはにっこりと笑顔で藍那に頷いた。


「ええ、どんな状況でもすべては神のお導きによるものです。

 現にわれわれはまだ生きているではないですか」


 阿賀野たちは既に一人目が殺されていることを思い出しはっとする。

「哀れな彼に祈りをささげましょう」

 ヴァリオは阿賀野たちに祈りを促す。

 だが、ヴァリオ以外のその場の全員は固まってしまい、誰一人として動けなかった。

 そんな様子にかまわず、彼は一人、祈っていた。


 数秒の祈りの後、阿賀野の自己紹介の番が回ってきた。

 阿賀野にとっては、なんともやりづらい空気であった。そっとため息をつく。


「あ、あの……」

 手を上げて自己紹介を始める。


「僕は召集権を使いました。阿賀野芳樹です」

 そして、一呼吸置いてさらに続ける。


「みなさんを召集したのは、これからについて話し合うためです」


 一同は眉を動かしたり腕を組んだりする。

 逃げることや隠れることは考えていても、

 これからのことについては考える暇がなかったのだ。

 そして、そのことに初めて触れるのである。


「それはかまわないが、その前にいくつか確認したいことがある。

 ガイドよ、答えてくれるな?」

 ダリルが切り返す。ここで状況を整理し、情報を確認するべきだと考えていたようだ。


「へへ、なんなりと」

「まず、なぜ異国の者の言語が理解できているんだ?」

「そういやそうだな。これも使徒の能力ってやつなのかい?」

 アレスも同じく疑問に思っていたようだ。


「能力ってほどのものでもねェ。ただの神さまの親切さァ。

 さすがに言葉が通じないのはかわいそうだとお考えにでもなったんだろうよォ」

 なんともあっけないガイドの回答であった。

 だが、そう言われてしまった以上、そういうこととして飲み込むしかない。

 もはや、何が非現実的なことなのか見分けがつかない状況なのだから。


「神様がくれるギフトはこれだけじゃないぜェ。

 召集権や翻訳機能は第一弾といったところだァ。

 今後も追加されていくからお楽しみにィ!」


「なぜ今話さない?」

 ダリルの鋭い視線がガイドに向けられた。

 しかし、ガイドは相変わらずニヤニヤとしているだけであった。

「そういうルールなんだ。仕方ないだろゥ」


「ふざけないで!」

 藍那のガイドへの怒りはとうとう抑えきれないものになっていた。

「もういい」

 ダリルが手で制す。藍那とは正反対に冷静さを保ちながら話を進めようと努めている。


「ちなみに、死んだ一人目の使徒の能力は何だったんだ?」

「あァ、一言で言うなら治癒だ。もはや再生の域に達していたけどなァ」

「それならなぜ死んだ?」


「いわゆる能力のオーバーヒートだァ。

 通常の人間では到底できないようなことを実現しているんだァ。

 あんたたちの能力は使い続けると消耗するゥ。

 そしてそれが限界に達すると脳が耐えきれなくなっておっ死ぬってことだァ」


「つまり、そうなるまで治癒の能力を使い続けたということか」

「へへッ」

 再び意地の悪い笑みを浮かべると、

 ダリルが察してしまったことをガイドは事細かに話し始める。


「そのとおりだァ。

 1人目の使徒様は運悪く付近にいた警察と軍に遭遇してしまった。

 そして、ひたすら銃で撃たれ続けた。

 だが、その能力は自動で発動する。

 すでに再生と呼べるまで高まっていた能力のおかげで彼は死ななかった。

 いや、死ぬことができなかったと言うべきかァ」


 リラは両手で口元を覆い、卒倒しそうになるのを堪えながら聞いている。

「頭を撃たれてもすぐに再生する。

 そしてまた撃たれる。

 その能力がゆえに即死できないのは地獄の苦しみだっただろうなァ。

 でも最後はオーバーヒートしてあまりの頭痛に悲鳴を上げながら死んでいったようだぜェ」


「なんで、どうしてそんなひどいことができるんですか……」

 リラは藍那に寄り添われながらガイドに嘆く。

 藍那もガイドを涙目ながらも睨んでいる。


「おっと、俺に当たるのはなしだぜ使徒様よォ。

 この力をお与えになったのは神様だ。

 それに、そもそも人間たちが一人目を殺さなければこんなことにはならなかったんだぜィ?」

 ガイドが困ったような顔を作りながら返事をした。


「もういい。じゃあ次だ」

 ダリルは冷静に続ける。

「その神からのギフトとやらで、

 まだほかにもここで話せるものがあるなら詳しく聞きたい」


「お前たちがそれぞれ貰った能力にもう1つ補足があるゥ。

 使途が死ねば他の使途全員にその能力が行き渡るゥ。

 ただしいきなりフルスペックとは行かねェ。少しづつだがなァ」


「他には?」

「これまでに話したもの以外だと、基礎的な身体能力の強化だァ」

「それは具体的に、どの程度だ?」

「そのまんまの意味だァ。

 走る速さや筋力、持久力など身体能力が上昇している。

 今は常人の倍あるかどうかという程度だが、

 いずれは何時間でも走っていられるほどになるだろゥ」


 ダリルは近くの木を殴った。すると大きな音がして、木が大きく揺れた。

「なるほど、軽く殴っても足で蹴ったくらいには威力があったな」

 ダリルはもともと傭兵だけあって、筋力は阿賀野たちの中で最も高い。

 強化によりすでに超人的な能力を発揮し始めていた。


「それともう一つ、重要な強化がある。

 それは、睡眠をはじめとした基礎体力の強化だァ」


 ガイドは説明を進める。

 使徒たちが己の能力を把握することが、よりこの実験(ゲーム)を盛り上げることにつながるからだ。


「例えば、睡眠であれば必要な睡眠時間がどんどん短くなり、

 やがては睡眠が必要なくなる。これで、ほぼ24時間戦えるわけだなァ!」

「戦う……」

 リラが重苦しい表情で呟いた。

 どうやらリラもあまり戦いを望んでいないようだ。


「そりゃ戦うに決まってるんじゃないのかァ?

 でないと、1人目の二の舞ですぜェ??」

 ガイドが楽しそうに煽る。藍那もガイドを睨みつけた。


「その話は後だろ?」

 アレスが阿賀野に肩を組みながら、笑顔で付け加えた。

 ダリルも淡々と質問を続ける。

「その通りだ。では次の質問だ。ギフトとやらはこれですべてか?」

「あァ、今はそうだ。だがこの次を今教えるわけにはいかねェ」

「ならいい、次だ。本当に俺たちが生き残れば世界は滅びるのか?」


 話が脱線するのを避けたかったダリルは、

 無情に思われようともどんどん情報を引き出していこうとする。


「そりゃ神さまが言ったならそうなんだろうよ。

 この神さまのお考えになった実験(ゲーム)をサポートするために俺はいるのだァ」

実験(ゲーム)?ふざけないでよ!」

 藍那が叫ぶ。これだけの目に遭ったのだから、激高するのも道理である。

 だが、ガイドはただただニタニタと笑うだけであった。


「あまりこいつの煽りに乗るな。

 どうせこいつには触れることすらできない。

 情報を引き出すための機械だと考えろ」


 ダリルが冷静に藍那を諭す。

「ダリルさんの言うとおりだ。

 確かにこいつはひでえ奴だが、気にすんな。時間の無駄だぜ?」

 アレスは藍那にウインクする。

「わかったわよ、もうこいつの言葉は気にしない」

 藍那はみなになだめられ少し落ち着きを取り戻す。

「では、最後に訊く」

 ダリルが一段と鋭い目つきでガイドに尋ねる。


「なぜ、俺たちなんだ?」

 ガイドはヒヒッと笑いながら答える。



「それは、神様のきまぐれだァ」


 *


 ピリピリした空気の中ではあったが、

 阿賀野たちはおおまかな状況はなんとか整理することができた。

 しかし、重要なのは現状ではなく、今後の方針である。

 阿賀野はそのためにほかの使徒を召集したのだ。

 また、ほかの使徒もその必要性は薄々感じている。


「じゃあ、そろそろ本題に入りたいんですけど……」

 阿賀野はおどおどしながらではあるが、やるべきことを全うしようとする。


「僕は、話し合いが必要だと思います」

 今後の方針について、議論する必要は感じていても、

 肝心のその内容までは誰もじっくりと考えてはいなかった。

 使徒はみな静観している。


「神さまは、人類が生き残るに値するか見極めるためにこれを始めるって言ってました。

 つまり、人類が生き残るに値すると判断すれば、

 何かしら助かる道があるはずですよね?」


「すばらしい!!」

 ヴァリオが甲高い声で阿賀野を称賛する。

 突然大声を出したので、藍那はびっくりしてしまう。

 しかし、全員が賛成するとは限らない。


「そのために話し合うと?お前、正気か?」

 ダリルにとっては信じられない意見のようであった。


「お前は一人目が殺されたことをもう忘れたのか?それとも自殺したいのか?」


「そのときは混乱してたからだろ。もう混乱しないために話し合うんだろ?」

 アレスは阿賀野の意見に賛成のようだ。アレスはにっこりと微笑む。


「私も、阿賀野さんの意見に賛成です」

 続いて、リラも賛成のようだ。


「はっきり言って今の状況だと誰も信じられない」

 藍那はぽつりと下を向いて呟いた。

 しかし、顔を上げて決意を固めた。

「でも、私だって死なせたくない人はいる。全世界と戦うよりはマシかもしれない」


 藍那も賛成した。

 ダリルのみが反対のようだ。

 しかし、ダリルはそれでも納得はしない。

「リスクが大き過ぎる。

 俺が逆の立場なら、話し合いの場で俺たち全員を暗殺する」


「これを見てください」

 阿賀野はスマートフォンの画面を見せる。

 そこには、世界中でパニックが発生し、暴動や使徒に間違われた人々が暴行や殺されるニュースがたくさん載っていた。


「まるで魔女狩りですね……」

 リラはとても心苦しかった。

 自分の代わりにほかの人が傷ついているのだ。

 そんな悲しいことがあってはならないとばかりに悲痛な表情を浮かべている。


「ダリルさん、さっきあなたにもお兄さんに匿ってもらっていたと言ってましたよね?

 そのお兄さんも同じ目に遭うかもしれません。

 それに、このままだとたとえあなたが生き残ってもお兄さんは死んでしまいます。

 それを避けるために話し合うんです」

 阿賀野が強く説得するが、それでもダリルは決めかねている。

「だが、どうやって話し合うんだ?

 たとえ俺たちが名乗り出ても余計混乱するだけだぞ。

 それにそもそも、誰と話し合うんだ?」


 阿賀野たちは黙りこくった。

 使徒たちの中には、そこまで的確に回答できる者はいなかった。


「それなら一ついい方法があるぜェ」

 ガイドが待ってましたと言わんばかりに名乗りを上げる。


「言ってみてくれよ」

 アレスが回答を促す。

「神さまが最初にやった啓示、あれと同じことをできるように掛け合ってやる。

 あのときみたいに全世界の人間に向けて所信表明すればひとまずは伝わるんじゃないかァ?」


「そんなことができるのか?」

 ダリルはあまりに都合の良すぎる話に半信半疑だった。


「それも、神さま次第だァ」

 ガイドがニンマリと笑った。


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