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ごにんめ

 ケディの個室のドアがノックされる。

 返事をするとすぐに部下が入ってきた。


「報告します。

 一部の隊が独断で出撃しました。

 プランNを強行するつもりのようです」

 ケディは顔をしかめた。

「どこの国籍の連中だ?」

「イングランド軍出身の部隊が呼びかけ、

 それにフランス軍出身の部隊も呼応したようです」

「すぐに行く」

 その後1分もしないうちに部屋を出たケディは指令室へと駆け足で向かった。


(ついにあれが使われてしまうというのか。覚悟を決めるときが来たのかもしれん……)



 阿賀野たちはアラスカの森を走っている。

 阿賀野の攻撃で追撃部隊を消し飛ばしてから休憩を入れつつ進み、

 3時間ほどが経過していた。

 3人は使徒としての体に完全に近い状態で順応してきていた。

 睡眠時間は1時間程度で十分になり、

 ほぼ休まずに動き続けることが可能になってきていた。

 食料に関してもほぼ摂取の必要がなくなってきていた。

 さらに、身体能力は向上し、

 走る速度、体力は人間の領域をはるかに超えていた。


「次の攻撃が始まるようです」

 リラが人類軍の戦闘機を感知した。

 一瞬、驚いたような顔をした後に寂しそうな表情を浮かべたかのように見えた。

 阿賀野は何か声をかけようと口を開こうとしたが、

 リラと目が合い笑顔が返ってきたのでそれ以上は何も聞かなかった。

 そして、すぐに近くの木の上まで登った。

 阿賀野たちが進んでいる方向に戦闘機が数機見えた。


(このまま能力が届く範囲まで来たら消し飛ばせばいい)


 阿賀野は身構えた。

 しかし、リラが別の敵も感知する。

「戦闘機の方向とは反対から敵軍が進行してきます!」

 振り返ると、縦に大きく伸びた戦車の大群がこちらに向かってきていた。

 先の戦闘で森もとろとも消し飛ばした跡は、

 地面がむき出しになり荒野のようになっていた。

 戦車の大群はその中を土煙を上げながら進んでいる。


(問題ない、すぐにこちらも消し飛ばす)

 阿賀野は再び戦闘機の方を見た。

 2~3機の戦闘機は阿賀野たちの方向に向かってきていたが、途中で向きを変えた。

 そして、小さな何かが戦闘機から放たれた。


(まさか……?)

 リラが叫んだのとほぼ同時に阿賀野は木の下に降りた。

 戦闘機の通った後の数秒後にその地点から大きなきのこ雲が上がった。

 そのままさらに数秒遅れて、阿賀野たちの耳に今まで聞いたことのないような爆音が轟いた。


 戦闘機ではなく、爆撃機であった。

 爆撃機が投下したのは紛れもない核兵器であった。

 しかし、距離が遠いため特に阿賀野たちに被害はなかった。


(こんなものを使ってくるなんて……

 だけどあの位置だと遠すぎてこちらにダメージはない。

 どうして?)


 阿賀野は再び木に登り、爆撃機を見た。

 2機は先ほどと同じように阿賀野たちとは遠い場所を飛んでいる。

 また爆弾が投下されるのを目撃した。

(この距離で届くかやってみるか……?

 いや、無駄な消耗は避けないとだめだ)

 やがて、残りの1機がこちらに向かって来るのが見えた。


「爆撃機1機がこちらに向かって来てる!迎撃するよ!!」

 阿賀野は右手で左手首を掴んだ。

 先ほどに続き、轟音が響く。

 すると、その瞬間とあることに気付いた。


(奴らは、僕たちの逃げ道を塞いでいるのか……!)

 阿賀野たちの行く手を阻むように放たれた核爆弾は、

 彼らを取り囲むように投下された。

 直接阿賀野たちに影響はないものの、

 核によって焦土と化し汚染された大地を無傷で通過できる保証はない。

 実際、毒や病などの身近なものへの耐性はついてきていたが、

 放射能への耐性はこの地獄の荒野を抜けられるほどには成熟していなかった。

 耐性を鍛える機会がないからだ。

 阿賀野は気付かないうちに構えが解けていた。


(藍那の完全迷彩で仮に無事で移動できるとしても、

 この距離を能力を維持したまま進むことはできるのか……?)


 そういった懸念を考慮しているうちに、

 爆撃機が今度は阿賀野たちにも爆発の範囲が及ぶような位置に核爆弾を投下した。

 阿賀野はもう一度右手で左手首を押さえ、能力を発動した。

 先ほどの核爆弾が消え去った。

 だが、その瞬間に爆撃機はまた核爆弾を投下した。

 続けて向きを変えその爆弾を消し飛ばす。

 さらに爆撃機は3発目を投下したが、

 その瞬間に爆弾もろとも消し飛ばされた。


 息を切らした阿賀野は額の汗を手で拭った。

 しかし、今度は周りを飛んでいた残りの2機の爆撃機がこちらに向きを変えて左右から迫ってきた。

 今度は先ほどとは違い、能力の届きにくい高度から攻撃を始めた。

 両方向の爆撃機は各々核爆弾を投下し始めた。

 阿賀野はそれぞれを次々に消し飛ばす。


(消耗させるつもりか……!なら……)

 爆撃機の攻撃を防ぎながらはるか上空の爆撃機を見据える。

(だいたいの位置はわかってるんだ。己の感覚を信じろ……)

 能力強化をしながら、爆撃機に狙いを定め発動する。

 雲に隠れたかに見えた爆撃機であったが、

 それ以降は雲から姿を現すことはなかった。

(1機仕留めた……次だ……)

 片方に意識が集中しており、

 もう片方の核爆弾が落下しようかというギリギリで阿賀野は爆弾を消し飛ばした。

 そして、そのまま同じ要領で残りの1機を消し飛ばした。

 阿賀野は激しく咳き込んだ。

 だが、今度は別の爆音が聞こえた。

 後ろを振り返ると、先ほどの戦車の大群が森を破壊し道を作りながら、

 阿賀野たちの数千メートルまで迫って来ているのが見えた。


(これを消し飛ばせばひとまずは休憩できるはず)

 阿賀野が右手で左手首を掴んだ瞬間だった。

「また別の爆撃機が現れました!!」

 下にいるリラを見ると、阿賀野たちの進行方向の空を指差していた。

 すると、彼らの数十メートル前の木が倒れた。

 後方の戦車の放った弾が命中したのであった。

(このままじゃリラたちを守れない……!)

 阿賀野は木から降りた。

(視界を確保するにはこれしかない)

 阿賀野は上を向き能力を発動した。

 阿賀野たちの視界を遮る木々が消し飛ばされ、

 木に登らなくても爆撃機の位置がわかるようになった。

 しかし、それは空にもいる人類軍に阿賀野たちの正確な位置を知らせることにもなった。


「森の中で木が突然消失した位置を確認。すぐに座標を送信する」

 爆撃機のパイロットは通信を入れた。

(このままでは逃げ切れない)

 阿賀野はもう一度後ろを振り返った。

 唯一残された道はあの戦車の大群の中を突き進むことであった。

「完全迷彩で突っ切るしかない」

 阿賀野は藍那の顔を見た。

「藍那、できる?」

 藍那は目を閉じて深呼吸をした。

「やるしかないんでしょ?」

 そのまま阿賀野の手を取った。

 それにリラも続く。

 阿賀野も一度深呼吸をした後、2人の手を強く握りしめた。


「アビリティ・ライズ」

 阿賀野たちは一気に進んできた道を駆け抜け始めた。

「敵の反応が消えた……?」

 人類軍の戦車の最前線にいた兵士が呟いた。

「例の迷彩だ!かまわず前方を撃ち続けろ!消耗させるんだ!!」

 戦闘指揮所より通信が入る。

 一瞬戸惑ったが、戦車たちはそのまま進軍を続けた。


 阿賀野たちは今までの中でも最高速で駆け抜けている。

 だが、人類軍の戦車の隊列は一定の間隔で隊を組んだ状態で、

 数十、百キロにも及ぶ長さになっていた。

 横を抜けようとしたが、すでに核爆弾が投下されており、

 その効果は数十キロにも及んでおり、

 さらに念を入れて100キロにも及ぶ範囲への投下が始まっているため、

 汚染された大地を駆け抜けることは到底不可能であった。

 突発的な独断専行であったが、

 援護を決めたケディの命令による援軍がかけつけたためであった。


(駄目だ。このままでは保たない……)


 ここまでは、軍の攻撃による消耗も大きかったが、

 それと同じ程度に阿賀野たちの使徒としての能力などの成長があった。

 しかし、今回の攻撃は消耗がはるかに大きかった。

 能力を一番よく把握している阿賀野は、

 限界が近いことを悟った。


 そして、逃走を始めて30分弱経ち、

 100キロ弱進んだところで、

 阿賀野の能力強化が解除された。

 それに伴い、藍那の能力も解除され完全迷彩が解けてしまった。

 それでも走り続けたが、やがて人類軍に包囲されていた。


(囲まれたうえに召集権も使えそうにない。

 このままでは全滅だ。それなら……)


 阿賀野は最後の手段に出ようとしたとき、リラが阿賀野の腕を掴んだ。

「私が盾で2人を守ります。

 だからその間に召集権で逃げてください」

 阿賀野はまさに自分がやろうとしていたことをリラに告げられ驚く。

 すぐに言い返そうとしたが、

 リラに口に指を当てられたため、

 思わず黙ってしまった。


「芳樹、今までありがとう。私はあなたのことが大好き」

「な、何を急に……」


 それでも阿賀野は自分がその役目を負おうとしたが、彼の口はリラの口で塞がれた。

「私はあなたたちには死んでほしくない。だから、私にあなたたちを守らせて」

 リラは盾で攻撃を防ぎながら、

 満身創痍の藍那を阿賀野の方にそっと押し出した。


「芳樹、あなたはずっと苦しんできた。

 だけど、あなたには今とは違う何かを見つけてほしいの……

 大丈夫、守る能力だけは鍛えてきたから。

 藍那のことをよろしくね」


 リラはこれまでにないくらいの笑顔を2人に向けた。

 優しい笑顔のはずなのに断ることができない何かがそこにはあった。


「嫌よ……そんなの嫌よ……」

 消え入りそうな声で弱弱しく反論している藍那を見て、

 阿賀野は顔を激しくしかめながら召集権を発動した。

 藍那は抗おうとしたが、

 召集権は以前よりも強力になっており、

 抗うことができなかった。


 阿賀野と藍那の体がまばゆい光に包まれ宙に浮いていく。

 そこへ、戦車の砲撃や兵士の銃弾が飛んでくるが、

 2人の目の前にアレスの盾が出現し防がれる。

 アレスの盾は面積が最小限になっており、

 少ない消耗で確実に2人を守っていた。

 リラは自分の感知の能力とアレスの盾の能力を合わせて、

 攻撃を自動で感知して必要最小限の盾で防ぐ能力へと昇華させていた。


 当然、リラの方にも攻撃が浴びせられるが、

 即死するような攻撃以外は無視して必要な分だけ治療能力を使った。

 リラが撃たれる様子を阿賀野はただ黙って見ているしかなかった。


 阿賀野はこの旅でのリラとの思い出を思い起こしていた。

 彼女はいつも笑顔で誰かを気にかけていた。

 阿賀野はリラの前向きな思いに共感し、

 尊重したいと思ったから手助けをしてきたのだ。


(僕はもう汚れてしまったけど、リラは最期まで優しいままだった)


 リラもまたじっと阿賀野たちが天に昇っていくのを眺めていた。

 しかし、突如付近で大きな爆発が起こった。

 阿賀野は思わずリラの名を叫んでいた。

 その直後に2人目掛けて戦闘機から銃撃を受けたが、

 アレスの盾が目の前に出現し再び攻撃を防いだ。

 その後、リラの姿は土煙で見えなくなっていった。


 やがて土煙が晴れたとき、阿賀野たちは召集権による移動を終えていた。

 そしてその日の夜、5人目の使徒の死亡が全世界に知らされた。


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