消耗
時は遡って1カ月前、ヴァリオたちの襲撃後、
遠からず到着するであろう敵の援軍から逃げるべく、3人で旅立った。
リラの能力で、召集権を安全に発動できる範囲まで敵が遠ざかったことを確認してから、
召集権で移動したのだ。
もはや、召集権の存在は軍に知れ渡っていた。
軍は衛星で地球上を監視し、
召集権を使用した際に起きる特有の、
昼間でもはっきりとわかる発光現象の出る位置を追った。
阿賀野たちが追手からひとまずは逃げ切ったと安堵したが、
すぐに後悔することになる。
彼らが召集権で移動した先は北アメリカ大陸の広大な森林の中であった。
確かに、人類軍がすぐには攻め込めないような場所のため休むことはできたが、
それはつまり、阿賀野たちも食料や情報などを調達するために街に出るには遠いということでもあった。
それでも当初は、ダリルから教わったサバイバル術をうろ覚えながらも実践していた。
しかし、食料がほとんど必要ないとはいえ、
このまましのぎ切るのは無理だと悟り、街へ出ることになった。
この時点で5日ほど経過していたが、
軍の方も場所が場所なだけに次の作戦に備えて入念に準備をしているところであった。
そこから、阿賀野たちは数日かけてようやく小さな街に辿り着いた。
満身創痍の状態だったため、藍那の能力を使う余裕はなかったが、
ようやく休息を取ることができたのであった。
しかし、それもわずかな時間であった。
阿賀野たちは最初に目に入った空き家を寝床としていたが、
次の日に目が覚めたときに違和感に気付いた。
(小屋の周りがざわついている……?)
阿賀野はそっと音を立てないように外の様子を窺った。
「突入はまだですか刑事さん?」
「軍が到着するまでは駄目です。
みなさんも危ないのでここから離れてください」
どうやら、多少の野次馬と警察がここを取り囲んでいるようであった。
阿賀野はそっと藍那とリラを起こした。
「外を囲まれてる。
すぐに準備して藍那の能力でここを脱出しよう」
2人ははっとしてすぐに覚醒した。
その後、すぐに阿賀野たちは出発した。
道中で食料を確保しつつ街の外へと出た。
ちょうど街を出て森へ入った頃、
軍のものとみられるヘリコプターが街へ向かっていくのを見たのであった。
「リラ、追手は来てる?」
阿賀野が確認するとリラは能力を発動した。
どうやら感知できる範囲には敵はいないことがわかると首を横に振った。
表情に疲れが見えていたのでさらに続けて尋ねた。
「あまり休めなかったけど大丈夫?」
「私は大丈夫です。それより藍那の方はどうですか」
藍那の能力はダリルの能力の次に消耗が激しかったため、
リラにはそちらの方が気がかりだった。
阿賀野は藍那の方にも目をやり具合を尋ねたが、
大丈夫と短く答えるだけであった。
(あのとき私がもっとしっかりしていれば、
こんなことにならずに済んだんだ)
藍那もまた、周りの人間が死ぬ度に自分の無力さを悔やんでいた。
今の彼女にできることは、
安全な移動手段を確保することだった。
たとえどんなに消耗しようとも、
安全な場所に行くまでは能力を解除しないという決意があった。
もう少し森の奥に進み、そこで休憩をとった後、阿賀野は提案をした。
「もう一度召集権を使おう」
攻撃から逃れるだけではなく、
生活もできるような場所に移動する必要がある。
そう考えた結果の提案であった。
「いいけど、どこに?」
藍那は多少は回復したようだが、
それでもまだ本調子には程遠い様子であった。
「スイスの山奥はどうかな」
「ふーん。いいんじゃない」
藍那はあまり関心がなさそうに答えた。
「スイスなら人類軍も攻めて来にくいかもしれないですね!」
リラは阿賀野の提案は歓迎のようだ。
「それに、今回は街にも出やすい場所にしようと思う。
そうすれば必要な時にだけ街に降りればいい」
「これでやっと腰を据えてこれからのことを考えられますね」
「そうだね……」
リラは落ち着いた様子で言ったが、
阿賀野は少し動揺し短くやや消沈気味に答えた。
一度リラたちと目を合わせて頷いた後に、
空を見上げて召集権を発動した。
(これからのこと、か……)
阿賀野たちは光に包まれて宙に浮き始める。
召集権により移動が4分の3ほど終わろうかとしていたときだった。
遠くの空に小さな点を見た。
「戦闘機が来る!!」
阿賀野はやや声を震わせて叫んだ。
もう3人の体が消え始めていたとき、
戦闘機はこちらに向けて何かを発射させた。
「まさか……ミサイル……?」
藍那が絶望の表情で告げる。
「間に合え……間に合えッ……!」
阿賀野は無心でこちらに飛んでくる点を見ている。
それはやがて点ではなく、丸みを帯びた白い飛翔体として見えてきた。
そして、その飛翔体の後ろには勢いよくロケットのように点火している様子が見えてきた。
それがだんだんと近付いてくる。
ついにもうこちらに着弾するかと思ったその瞬間、
阿賀野たちはスイスの山中へ移動していた。
「ハァ……ハァ……」
阿賀野は大粒の汗をかきながら息を切らしていた。
(これが、死ぬ直前の感覚……)
人類軍は召集権を発動した阿賀野たちの位置を特定し、
ちょうど彼らのいた街に向かわせて警戒させる予定だった戦闘機を、
人のいない森だったこともあり、すぐさま攻撃に回したのであった。
(召集権を使うリスクを甘く見ていた……)
間一髪で逃れたものの、
阿賀野たちには召集権はほかに手段がない場合以外は、
もう使うべきでないという考えを持たせることになった。
それはすなわち、その場から離脱するには、
藍那の能力を使うことが必要不可欠となったことを意味したのであった。




