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それから

「ヴァリオ・エストランデル、いや、トゥオメラか……

 狂気に満ちた男でしたね」


 従者はやや引き気味に神に呟いた。

 神が返事をしないのはいつものことだが、

 それでも従者たちは時折感想を各々述べていた。

 神が咳き込んだ。

 すると、その咳には吐血が伴っていた。

「神さま!」

 気付いた従者が駆け寄る。

 だが、神は手で制し覇気を感じさせる威厳のある様子で呟いた。


「使徒より先に死ぬことはない。

 私は必ずこの星を作った者の務めを全うする」


 従者たちは気圧され無言で元の配置に戻った。



 あれから1カ月後、阿賀野たちはアラスカの森の中を走っている。

 そこに複数のヘリコプターによる轟音が響いている。

 彼らの後方数十メートルでは、

 怒号を飛び交わせながらバギーに乗った兵士が追いかけてきている。


「そろそろ能力を使うよ」

「でも、その能力を使うのは……」

「芳樹も辛いはずです……」

 藍那たちが不安そうに制止しようとするが、

 阿賀野は顔も見ずに返す。


「このままじゃいずれ追いつかれる。

 それに、どのみち奴らは生かしておけない」

 阿賀野は2人の返事を待たずに後方を振り返った。

 左手を右手で押さえて前方を凝視した。

 彼らの後ろの木々が一瞬で消え去る。

 それと同時にヘリコプターの音や、

 彼らの後ろを追いかけていた兵士たちも消し飛ばされる。

 阿賀野の視界に入ったものが数キロにわたって消し飛んだ。


 阿賀野は強化した能力をコピーすることができる。

 しかし、これは完全ではなく弱体化した状態になってしまう。

 元の完全な出力を発揮するには彼自身の能力で強化するか、

 能力を何回も使用することによる自然な強化しかなかった。

 だが、実はもう1つ阿賀野が語らなかった完全な出力を発揮する方法があった。

 それは強化した対象の者が死ぬことであった。

 阿賀野はダリルの能力を完全にコピーしていた。


「もう大丈夫だ。行こう」

 阿賀野は息を荒くしながら少しだけ木によりかかり息を整えた後、

 心配そうに見つめる藍那とリラにかまわず再び走り出した。


 ダリルの死から1か月ほどが経ったが、

 阿賀野たちは人類軍から逃げることしかできていない。

「追撃部隊、消滅しました。

 使徒の誰かがムアックの能力を使用したものとみられます」

 モニターには部隊のいたところに赤いバツ印が点滅し、ブザーが鳴っていた。

 人類軍の指令本部は人々が慌ただしく駆け回っていた。

「次の部隊はどのくらいで追いつける?」

 人類軍総司令であるケディ・ヘイクスは状況分析に努めた。

「3時間後には会敵できるでしょう」

「そうか」

 ケディに報告した兵士はさらに、気まずそうに付け加えた。


「あと、対話派の連中が妨害電波を飛ばしているようです」

 一部の信心深い者たちは、対話派と自らを称して、

 国連と使徒の双方に再び対話の席を設けるよう運動した。

 これら対話派はどの国においても一定数見られたが少数派であり、

 その他の者たちに腫れ物扱いされるだけであった。

「それがどの程度作戦に影響を与える?」

「しょせんは素人なので大した影響はありません。

 時折ノイズが入る程度ですが、念のため報告まで」


 その一方で、世論の使徒に対する感情は日に日に悪化していった。

 人類で唯一使徒と間近に関わる機会のある国連の情報統制にぬかりはなく、

 恣意的な内容の報道を巧みに見せられた各国の民衆の意識形成は容易であった。


「わかった。3時間ほどは交代で休憩を取れ。

 俺も一休みしてくる」

「プランNを発動するチャンスじゃないのですか?」

 指令室にいる別の部隊長が尋ねる。


「あれは最終手段に等しい。それにこちらもただでは済むまい」

「この場所以外、次にいつプランNに適した場所で戦闘できるかわからないんですよ?」

 部隊長はやや切羽詰まったように訴えたが、

 ケディは身を翻し、指令室を出ていった。


(あれを使うことにならなければいいが)


 自室に戻りそのまましばらく窓の外を眺めた後、仮眠についた。



 一方の阿賀野たちも、人類軍の部隊を全滅させたことにより、

 しばらくは攻撃がないことを悟り、少し森の奥に進んだ後、

 荷物を置きその場に腰を下ろした。

「藍那、いつものやつをやってくれ」

 阿賀野は立ち上がり、左腕を差し出した。

 藍那は悲しそうな表情をした後立ち上がり、

 左手首を右手で押さえながら彼の左腕を凝視した。


 次の瞬間、その左肘より下が消し飛んだ。


 阿賀野は悲鳴を上げながらも能力を発動し、ゆっくりと左腕を再生させた。

「ついに消し飛ばせるようになったんだね」

「ごめん」

「どうして謝るの?能力が強くなったのはいいことじゃないか」


 心配そうにかけ寄ってきた藍那に、

 阿賀野は先ほどの苦悶の表情など出していなかったかのように淡々と告げた。

 藍那はいつの間にか阿賀野には名前で呼ばれるようになっていた。

 それに気付いたときは少し喜んだが、

 すぐにそんな幸せをかみしめられる状況ではないことを思い出し落胆したのであった。


 阿賀野たちが3人での逃亡生活を始めたとき、

 阿賀野は自分が前線に出て戦うべきだと強く自覚していた。

 その中で、治癒能力の向上が必要不可欠であると考えた。

 これまでの戦いでも、治癒能力が育っていれば被害が少なかったであろうとの後悔もあった。

 そこで、阿賀野は藍那たちにダリルの能力で死なない程度の攻撃をしてもらい、

 自分自身の治癒能力を鍛えることにしたのであった。


 最初にこれを頼まれたのはリラであったが、阿賀野はもちろん、

 人を傷つけることはもうしたくないと激しく拒否した。

 阿賀野も治癒能力の必要性を訴えたが、リラがどうしても譲らなかった。

 そこで藍那に白羽の矢が立ったのだ。


 もちろん、藍那も最初は断るつもりでいたが、

 彼女自身もまた足手まといになりたくないという思いが強くなり、

 絶対に無理をしないことを阿賀野に誓わせたうえで、

 協力することにしたのである。


 人類軍から逃げる合間にこの鍛錬をこなしていくうちに、

 阿賀野は体を再生できるようになり、

 藍那は今しがたダリルの能力が時間をかけての破壊から、

 一発で消し飛ばす能力に昇華したのであった。

 阿賀野自身は治癒能力の強化を誰にも強制しなかったが、

 リラもまた影で自分に傷をつけ、治癒能力の向上をはかっていた。


 各々が1か月前の自分の無力さを呪い、もう足手まといにはならず、

 みんなを守れるようになろうという固い決意を胸に行動を共にしているのである。

 ここまで、能力と召集権を駆使してなんとかここまで生き残っていた。


 ムアック兄弟の家を出て、ダリルの能力を引き継いでから、

 ガイドはほとんど阿賀野たちの前に姿を現さなくなった。

 というのも、ヴァリオの襲撃後に藍那が問いただしたところ、

 やはりガイドはヴァリオが裏切っていることを、最初にイタリアに行った時点で知っていた。

 ガイド曰く、ヴァリオ本人からは口止めされており、

 阿賀野たちにそのことを一切聞かれなかったから喋らなかったとのことであった。

 これを聞いた阿賀野は無言でガイドを消し飛ばそうとしたが、

 それに勘付いたガイドが間一髪で姿を消して難を逃れたのであった。 


 以前はリュックに様々な物資を入れて旅立っていたが、

 使徒としての成長が進んだ彼らにはもはや必要な物資はほとんどなく、

 荷物を用意する必要性が薄れてきていた。


 それでも阿賀野たちの1か月前の逃亡からは、

 人類軍の作戦の前に徐々に追い詰められてきていた。


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