訪問者
阿賀野の回復を待って旅立つことになった。
あれから2日経ったが、阿賀野もだいぶ回復していた。
まだ本調子ではないが、ある程度は能力が使えるようになっていた。
その間、ダリル、藍那、リラは能力の鍛錬などに努めた。
一方、ザリルは旅立ちのための装備を整えていた。
阿賀野たちは昼食を取っていたときだった。
ドアをノックする音がした。
初めは気のせいだと誰もが思ったが、それは確かにもう一度鳴った。
みなが身構える前に入ってきたのはヴァリオであった。
「うそ……エストランデルさん……?」
藍那たちは目を疑ったが、ヴァリオはにこやかな笑顔で話しかけた。
「みなさん、お久しぶりです」
「エストランデル……お前、死んだはずでは……」
ダリルも動揺を隠せない様子だったが、
呼ばれるがままに手招きしているヴァリオの元に近寄る。そ
して、彼はいつもと変わらぬ様子で言った。
「今日は、みなさんと旅立つためにやってきました」
その瞬間、ヴァリオは狂気に満ちた笑顔を浮かべた。
彼のいる入口の後方には何人かの兵士が重火器を構えて立っていた。
ヴァリオの後ろの景色を見たザリルは、
その瞬間に叫びながらダリルの元へ駆け出していた。
「さあ、一緒に神の御許へ旅立ちましょう」
ザリルの叫ぶ声とほぼ同時に、
ヴァリオの後ろから激しい銃撃がダリルを襲った。
ヴァリオの甲高い笑い声のような悲鳴が響く。
ザリルはダリルを庇う形で飛び込んだ。
銃弾はヴァリオごと貫き、家の入口からリビングへと放たれた。
激しい銃撃がムアック兄弟を襲った。
阿賀野はザリルに数瞬遅れて駆け出し、
ムアック兄弟の前でアレスの盾を発現させた。
激しい攻撃だったが、盾はびくともしなかった。
あちこちに銃撃を受けた影響で部屋中に煙が舞う。
だが、振り返った阿賀野の目に入ってきたのは、
被弾したムアック兄弟の姿だった。
被弾したザリルに阿賀野がおそるおそる声をかけようとしたが、
ザリルは平然としていた。
藍那たちに裏口から脱出するよう指示しようとしたが、
すでに裏口から侵入してきていた兵士が見えたため断念した。
それとほぼ同時に、室内にスモークが撃ち込まれる。
阿賀野は、盾を入口に固定させ、
ムアック兄弟のもとに駆け寄った。
「藍那!リラ!こっちへ来い!!」
阿賀野が叫んだ。
2人は意図を察して阿賀野たちのもとに駆け寄った。
そして次の瞬間、轟音が鳴り響き、
阿賀野たちの辺り一帯が爆風に包まれた。
家に向かって爆発物の類で攻撃されたのであった。
銃を撃たれて倒れていたヴァリオのほか、
裏口から侵入していた兵士が爆風に巻き込まれた。
壁や柱の木はバラバラになるか焼け焦げており、リビングは跡形もなくなった。
しかし、間一髪で阿賀野がアレスの能力を、
その場の全員をドーム状に包む形で発動していたため、
爆風には巻き込まれなかった。
「あいつら、味方ごと撃ってた……」
敵の激しい攻撃により、
変わり果てた家の様子を目の当たりにしながら藍那が呟いた。
ムアック兄弟は案外重症ではなかったが、
足に被弾しており、立つことが難しそうだった。
そこへ、ヴァリオの甲高い笑い声が響く。
「この不意打ちをここまで防ぐとはみなさん流石です」
立ち込めていた煙が風で流されると、
そこには先ほど銃で体中に穴を空けられたはずのヴァリオが無傷で平然と立っていた。
阿賀野は盾を維持したままでいる。
「なぜお前は生きている……?」
ダリルは息を切らしながらも上半身をなんとか起こし、
傷口の回復に努めながらヴァリオを睨んだ。
ケニーから引き継いだ再生の能力は、
先日以来ほとんど使用していないため成長していなかったが、
多少の銃撃程度であれば時間はかかるが塞ぐことができる。
ヴァリオはゆっくりと阿賀野たちに近寄りながら答えた。
「私の能力は物を具現化させる能力ではありません」
横風が周囲の塵とともにヴァリオに吹き付けるが、
ものともせずに進んでくる。
「私の能力は、信じたことが現実になる能力だったのです」
ヴァリオは両手を大きく広げ、天を仰ぎながら続けた。
(それは、知っている……
だが、なぜ死んだはずの奴がここにいるんだ……)
ダリルはまだヴァリオの意図がつかめなかった。
ただわかっているのは、彼はダリルたちを殺しに来ているということだけであった。
「おや、あまり驚きませんね。
やはり使徒の死後にある能力継承のときに私の能力を選び、
成長した阿賀野さんの能力で解析したといったところでしょうか」
阿賀野たちは絶句した。
能力継承については、確かに使徒であれば理解していることだが、
阿賀野の能力が進化していたことをヴァリオが知っていたことに合点がいかなかったのだ。
「なぜ、阿賀野の能力が進化したことを知っている」
ダリルの問いにヴァリオは笑いながら答えた。
「あなたたちには自覚がないようですが、
これだけ近くにいれば感覚を研ぎ澄ませればそれくらいわかります。
これは私だけでない。
一般人にももちろん可能です。
あなたたちの能力は強くなりすぎた」
ダリルは顔を歪めた。
ヴァリオは先ほど言おうとしていたことを思い出し続ける。
「そして、私が生きている理由。
それは、能力で蘇ったからです」
「バカな!!」
ダリルは思わず叫んでいた。
ヴァリオは嬉々として語り始めた。
「私は昔、雇われ兵をやっていました。
私はただただ生きるためにたくさんの人を殺しました。
しかし、3年前のとある戦いで私は部下の裏切りに遭い、
辛くもその場を逃れましたが、瀕死の重傷を負いました。
そんな中、私はとある小さな村の教会にて神父に保護され、
一命を取り留めました。
それ以来私は、日々自分の行いを懺悔するようになり、
そのままその教会で神父として教えを導いていくこととなりました」
ヴァリオは少し優しい表情をしていた。
一方のダリルとザリルは信じたくない事実を突き付けられようとしていた。
「そんな折に神からの啓示が下りました。
私は人類のため、ひいては神のために行動することで、
怪兵のトゥオメラと畏怖された私が、
今までの行いを贖罪できる最初にして最後の機会なのだと確信しました。
私は阿賀野さんの召集権で集まった際に、すぐにあなたたちを殺すつもりでいました。
しかし、阿賀野さんの話し合いをするというあくまでも平和的に解決し、
人間の尊厳を守ろうとした提案にひどく感銘を受けました。
そこで私は考えを改めました」
ヴァリオの表情が豹変する。
先ほどと同じ狂気に満ちた笑みを浮かべた。
「みなさんには納得したうえで死んでもらうことに決めたのです!!
そのためにイタリアでは犯人を見つけ出して殺害し、
別の者を犯人に仕立て上げました!
国連で私がしんがりを買って出たのは、
私は目的を達成するまで何度でも蘇ると確信していたからです!!!」
ヴァリオは信じたことが現実になる能力で、
自分は蘇ると確信しており死後に蘇ったのだ。
先ほども確かに死んでいたが、能力で蘇ったのであった。
「国連で蘇った後は、私はその場で能力を実演したうえで、
素性、使徒のこと、能力のことなどすべての事情を伝えました。
その結果、私は人類軍とともに行動することになったのです。
しかし、それぞれの軍がフィルソヴァさんとアレスさんの故郷を襲撃したのは予想外でした。
私はみなさんには、きちんと大切な人にお別れを言ってから死んでいただきたかったのに……」
ヴァリオは一瞬しょんぼりとしたが、すぐに調子を取り戻す。
「しかし、阿賀野さんと高嶺さんの故郷の日本の軍は動きませんでした。
さすがの平和で呑気な国と言ったところでしょうか。
そして、消去法でみなさんがイタリアから逃れた場所はここだとわかったのです。
それで私はすべてを終わらせるため、
ここへ人類軍の精鋭とともにやってきたのです」
因縁の相手にすべて手の平の上で踊らされていたと知ったダリルは、吠えるように反論した。
「俺たちが納得してから殺すと言ったな。
だが俺たちはまだ何一つ納得などしていない!!」
ヴァリオは残念そうとも取れる調子で答えた。
「ダリルさんはもうここにいる時点で無事神の御許へ旅立てるでしょう。
阿賀野さんはご両親を亡くされているため、
お別れを言う必要のある人はいません。
高嶺さんのご両親は、自分たちの命を助けてくれるならと、
すぐに高嶺さんのことを事細かに話してくれたそうです。
高嶺さんは愛されていなかった。
だから私は、もう未練のある使徒はいないと判断したのです。
それに、日々あなたたちの能力は成長しています。
これ以上成長すると私の手に負えなくなるやもしれません。
なのでここが潮時と判断しました」
「ふざけるな!」
ダリルが叫んだが、ヴァリオはかまわない様子であった。
少し首を傾げた後、さらに付け足した。
「説明ついでにもう一つ、
フィルソヴァさんが能力で感知できなかった脅威の正体はこれです」
ヴァリオは胸にぶら下げている銀のペンダントを見せた。
「このペンダントは私が能力で開発したものです。
これを付けている者はフィルソヴァさんに感知されなくなります。
半信半疑の国連は、人質を取られたあなたたちが来ると踏んだイタリアにこれを試験配備しました。
結果はみなさんも知ってのとおりです」
ヴァリオはペンダントを愛おしそうに恍惚の表情で見つめた。
「それから、ついでですが、
フィルソヴァさんの故郷の方々は先ほど全員行方が判明したそうです。
捕らえられた方もいますが、
大半は抵抗したためその場で射殺されたそうですし、
捕まった方たちも神の御許に召されたようです」
「そん、な……」
リラは力が抜け、その場にへたり込む。
「いやあ、それにしてもこれを作るのは苦労しましたよ。
1つ作るのにかなりの労力と時間を要します。
今までに全部で12個ほど作りましたが、
もうこれっきりにしたいものですね」
ザリルは後方の兵士も同じものを装備していることに気が付く。
このペンダントを装備している者のみで編成し、ここに攻めてきたのだ。
阿賀野はこの状況をなんとかするべく、
どう脱出するか考えていたが行き詰まっていた。
(藍那の能力で逃げたいところだが、
ザリルさんが足をやられて動けない……)
考えられる手段は盾を一瞬だけ解除し、
ダリルの能力で攻撃した後、
すぐに盾を貼りなおす一撃離脱の戦法だったが、
現在ヴァリオの後方に2人ずつが3方向からと、
真横から2人がこちらを狙っているため、
どこまで防御しきれるかが未知数であり、危険な賭けであった。
「ところで、どうしてわざわざこんな丁寧に私が説明をしていると思いますか?」
ヴァリオは調子を変えて唐突に尋ねた。
ザリルは後ろを振り返った。
すると、先ほど裏口から侵入し、
建物もろとも爆破されたはずの兵士がこちらに銃を向けながら立っていた。
「これは消耗戦です。
すでに後続の部隊がこちらへ向かっています。
あなたたちはこのまま盾を貼り続けることはできますが、
それは永遠ではありません。
やがて消耗し盾を維持できなくなります。
そうなったときがあなたたちの最期です」
次の瞬間、阿賀野たちはヴァリオが発現させた重火器によって取り囲まれた。
「もちろん、盾を解除してこちらに攻撃することもできます。
ただし、その瞬間、四方八方から攻撃を受けます。
どうぞお好きな方を選んでください」
ヴァリオはにっこりと微笑んだ。ザリルは唇をかみしめた。
「高嶺、お前の能力で俺たち全員を完全迷彩にすることは可能か?」
ザリルがこっそり尋ねるも。
藍那は首を横に振った。
「この人数は無理よ……」
そこへヴァリオが割って入る。
「たとえこの場から逃げおおせたとしても、
それは召集権によるものでしょう。
その場合はもちろん私も付いていきます。
どこに逃げようとも私は必ず付いていきます!
そして、最後の一人になるまで倒れることはないでしょう!!」
ザリルは自分の持ち物を確認した。
(スモークは数発あるが、後方の2人はサーモグラフィらしきものをかけていた。
目をくらませるのは不可能だ。それなら……)
ザリルはダリルの肩に手を置いた。
「ダリル、聞いてくれ」




