死
エドガルドのいる部屋を目指して、一行は移動を開始した。
道中で何度か会敵したが、
アレスの鬼神のごとき活躍で、
誰一人被弾しなかった。
しかし、彼の体力は確実に消耗していった。
「ここです」
アレスたちは鉄格子の扉の前で止まった。
「中に兵士が2人います」
リラの報告を受ける前に、アレスは扉を盾で切断し侵入していた。
そして、兵士が銃を構えるより速く盾で包囲し、敵を仕留めていた。
「エド、無事か?」
磔にされていたエドガルドは呼びかけられると力なく顔を上げ、
アレスの顔を見るとところどころに傷の痕があるやつれた笑顔を見せた。
アレスはそのまま盾で拘束具を切断し、エドガルドを解放した。
解放された瞬間、エドガルドはよろめいて倒れそうになったが、
アレスが肩を貸しなんとか支えた。
「へへっ、すまねえ」
「気にすんな、早くここから脱出しよう」
アレスもまた力なく笑ったが。すぐにその表情は崩れる。
「アレスさん!
私たちの存在が敵に察知されました!
もうすぐ20人ほどがここに攻めてきます」
リラは半ば震えながら叫んだためか、アレスの表情がまたこわばる。
「ダリルさん、能力は使えますか?」
「あと2,3発程度なら」
阿賀野の質問にダリルは険しい表情をしながら答え、銃を構えた。
「各方向から攻めてきます!
孤児院のみなさんは一度この部屋に入ってください!」
リラがアルダたちに一度避難を呼びかけた。
それと入れ替わるようにダリルと阿賀野とアレスが部屋の外に出た。
「アレスと僕の能力で押さえます。
ダリルさんは万が一漏らした場合に銃で対処をお願いします!
……アビリティ・ライズ!」
アレスは無言で頷き、阿賀野の提案通りに能力を発動させた。
部屋の左右の通路とアレスたちがやってきた正面の道に盾を発現させた。
すると、間もなく各方向に4~5人程度の兵士が見えた。
「奴らだ!撃てぇ!!」
兵士たちは銃を放ったが、すべてアレスの盾に塞がれていた。
アレスはそのまま盾を兵士たちに近づけていき、廊下の端まで吹き飛ばした。
「今だ!走れ!!」
アレスの掛け声に続き、尋問室内にいた者全員が走り出した。
エドガルドはカルロに肩を借りて進んだ。
最初の角を左に曲がったとき、リラが叫んだ。
「正面から4人と後ろから6人来ます!」
「後ろは俺がやる」
アレスは立ち止まって後ろを向き、盾を発現させ道を塞いだ。
一方、前方のダリルは銃で応戦していた。
「あらかじめ敵が来るとわかっているならどうということはない」
銃を連射し、前方の兵士にすべて沈黙させていた。
しかし、敵が減ったのも束の間であった。
「また来ます、次の十字路の前と右から!」
リラは切羽詰まった様子で付け足した。
「ああ……左からも来ます!」
アレスが前方に躍り出た。
「左右は俺と芳樹でやる!」
しかし、その瞬間だった。
アレスが発現させた後ろの盾がボロボロになって崩れ去った。
アレスはとうに限界を迎えていたのだ。
そして、道を塞がれていた兵士たちが解き放たれた。
彼らはすぐに発砲し、銃弾の雨がアルダたちに降り注いだ。
ダリルは前方に一斉掃射をしている。
アレスは息を切らしながら阿賀野とともに左右に盾を発現させている。
そして、リラは間近に地獄の光景を見た。
アルダたち孤児院のメンバーで後ろにいたエドガルド、カルロ、アルダが体中に銃弾を浴びた。
その前にいた、ローザ、ミレーナも何発か被弾した。
後ろにいた3人はまるで踊っているかのように体を跳ね、
血しぶきと吐血交じりの悲鳴を上げながら一瞬で絶命していった。
その前の2人も腕や腹部に被弾し、その場に倒れた。
残されたジャンピエロ、ジーモは声にならない絶叫を上げた。
前方の敵を殲滅したダリルは、
発砲音が聞こえ振り返るとすぐさま状況を理解する。
能力を発動し、兵士が続けて発砲した弾ごと消し飛ばした。
アレスと阿賀野が左右の敵を盾で遠くに押し飛ばして振り返ると、
まず最初に放心状態でその場に座り込んでいるリラが目に入った。
後方からする発砲音はダリルのものだと思い込んでいた。
しかし、リラの元に駆け付けると阿賀野はその場に立ち尽くし、
アレスは泣き叫んだ。
倒れていたローザは半身だけ起き上がり、
何かを口にしたが声が出なかった。
そして、その言葉を言い終えると、床に伏した。
ダリルは不規則な呼吸をかろうじてしているミレーナの傍に近づき、
様子を見たが無言で立ち上がり、首を横に振った。
「僕が治します」
「もう、遅い」
阿賀野の提案をダリルはゆっくりと否定した。
「お前たちは行け」
ジャンピエロはローザとミレーナの傍に寄り、顔を上げずに告げた。
「ふざけるなジャン」
ジーモが怒号を飛ばした。
だが、ジャンピエロはジーモたちに儚げな笑顔を見せた。
「ミレーナを一人で置いていけない」
「なら俺も残る!!」
「駄目だ。お前は……お前とアレスだけは生き延びろ」
ジーモがジャンピエロを殴ろうとしたときに、別の叫び声が聞こえた。
「音がしたのは向こうの方だ!!!きっと奴らがいるぞ!!」
だんだんと足音が聞こえてくる。
ジャンピエロはジーモを押し飛ばした。
「早く行け、ここは俺が時間稼ぎをする」
止めようとするアレスの腕をジーモが掴んだ。
アレスは振りほどこうとしたが、力が強く振りほどけなかった。
「なんでだよ!!!」
アレスが泣きながらジーモの顔を見ると、
ジーモも涙を流しながら首を横に振った。
アレスは振り返らずに前を走り出した。
ダリルがそれに続き、リラが立ち尽くしていた阿賀野の手を引いてそれに続く。
ジーモも無我夢中でそれに付いて行った。
「この人数なら……僕の能力強化で移動速度を速めることができます」
阿賀野は顔をしかめながら言った。
誰の返事もなかったので何も言わず能力を発動した。
阿賀野たちの走る速度が上がっていく。
リラも会敵する前に報告し、ダリルが銃で迎え撃つ。
ダリルで抑えきれないところはアレスがカバーする。
誰も必要以上のことは何も話さなかった。
しかし、軍は次の態勢に移った。
施設内にサイレン音とともにアナウンスが流れる。
「施設内にて交戦中。
警戒レベル最大。
全シャッターを閉鎖します」
「階段が見えている!急げ!!」
ダリルが叫び、
阿賀野たちは今まさに降りているシャッターの下を走り抜けていく。
しかし、階段一つ手前のシャッターで行く手を阻まれた。
「俺が破壊する」
アレスが盾を発現させ、縁でシャッターを切り刻んだ。
だが、シャッターは分厚く、切れ込みが入っただけであった。
「俺がやる」
「待ってください!」
ダリルが能力を使おうとするが、リラが止めた。
「今ここを出ていっては駄目です。
敵が大量に迫って来ています!」
「問題ない。すべて俺がなんとかする」
「でもさっきは能力が……」
アレスが限界を超えていることをリラは案じていたが、
止めるための言葉が見つからなかった。
ここでアレスをなだめたのはダリルであった。
「アレス、ここからはできるだけ能力を使うな。
お前もかなり消耗しているんだろう」
「大丈夫だ」
ダリルはアレスの肩を掴んだ。
「俺の能力もここに来るまでに何発も使った。
もう2,3発程度しか使えない。
お前の能力は生命線だ。
無理していざというときに使えないのでは、
それこそ終わりなんだよ」
そして、掴んだ手を離した。
「わかったな?」
「じゃあどうやってここから脱出するんだよ!」
一瞬沈黙が生まれたが、阿賀野が切り出した。
「僕の能力も強くなったようなんだ……」
アレスたちははっとして阿賀野を見る。
阿賀野はリラに尋ねる。
「ここの下に敵はいる?」
リラは目を閉じ能力を用いて状況を確認した。
「この位置の下の階にはいません」
「ここから下って行けば地下水道に出れるかな?」
ダリルもアレスも消耗しており、あまり能力を使用できないため、
阿賀野の意図がリラには理解できなかったが、そのまま確認した。
「この建物の一番下の階に降りれば、
地下水道の付近ではあります。だけど……」
下の階に行く手段があるとすれば、
ダリルが穴を空けて道を作ることであったが、
消耗しており、地下水道に到達するまでの道を作れない。
ダリルは黙って聞いている。
「僕の能力は強化した能力をコピーできるようになったんだ」
ダリルは目を見開いた。
「もちろん、オリジナルには程遠い威力です。
だけど、こうやればある程度は再現できます」
そう言って阿賀野はしゃがみ込んで床を見た。
「アビリティ・ライズ」
そして、阿賀野は左手首を右手で押さえ、目を見開く。
床に穴が空き、下の階へと続いた。
阿賀野は胸を押さえ、咳き込んだ。
(かなり出力は抑えたのに……
これが、今までダリルさんが能力を使う度に感じていた苦しみ……)
息を整えると、補足した。
「もう一つ、出力を高める方法はあるけど、それは今は言えない」
寂しげな表情でそう言うと、阿賀野は下に降りた。
ダリルたちも何も言わずにそれに続いた。




