救出へ
阿賀野たちは、前に来たときと同じように、
郊外に移動したうえで、周りを警戒しながら孤児院を目指した。
街に暴動はなく、むしろ不気味なほど静まり返っていた。
道中での戦闘も覚悟していたが、何事もなく孤児院までたどり着いた。
孤児院に着き、リラの能力で周囲の安全を確かめると、
アレスはいの一番に孤児院のドアを開いた。
「無事かお前ら!?」
中に入ってみたが、ダイニングルームには誰もいなかった。
次にアレスは奥の部屋へと入っていった。
阿賀野たちは初めてここに来たときと同じように、ダイニングルームで待っていた。
数分後、アレスがやや沈んだ様子で戻ってきた。
「ここには誰もいない」
どうやら彼は置手紙を見つけたようでそれを阿賀野たちに見せてきた。
今では異国の文字も理解できるようになっていた。
その置手紙は孤児院の子供が書いたもので、
孤児院の者はみな軍に連れて行かれ、
子供たちはアルダたちとは別の場所に連れて行かれ、
散り散りにほかの孤児院に入れられることになったということが書いてあった。
さらに、軍の施設と思われる地図も同封されていた。
「手紙は一度開けた後があった。
おそらく、軍の奴らがこの地図を入れたんだろう」
「つまり、私たちを誘っているんですね」
完全な罠であった。
しかし、それは覚悟の上でここまでやってきたのだ。
道標がある以上そこに進むしかない。
「だけど、これで一つわかったね」
「ああ」
阿賀野とダリルは互いに頷いた。
「アルダたちは生きている」
2人は声を揃えて言った。
「これは明確な人質だ。
ならば少なくとも俺たちが行くまでは殺されることはない」
アレスはひとまず安堵したが、別の懸念が出てしまった。
「俺たちはあいつらを助け出し、無傷で帰れるんだろうか」
みな険しい表情になった。
「でも、やるしかない」
阿賀野は力を込めて言った。
「ああ、わかってる」
アレスは拳を握りしめた。
ダリルは地図を指差し、アレスに尋ねた。
「この場所まではどのくらいかかる?」
「車で1時間はかかるな」
「車か……」
阿賀野は移動手段を検討した。
公共機関はあまりにも危険だが、それ以外では車か徒歩しかない。
徒歩で移動可能な範囲であれば問題なかったが、
どうやらそんな距離ではないようだ。
「車がないと厳しいね。何かアテはないの?」
「ジーモが前に車を買っていたな。
あるかわからないがジーモの家に行ってみるか?」
「それしかなさそうだな」
ダリルも同意した。リラも無言で頷いた。
孤児院からジーモの家までは徒歩で10分強といったところであった。
そこで、ジーモの家に侵入し車の鍵を拝借しダリルの運転で出発したアレスたちは、
アルダたち孤児院の仲間が捕まっていると思われる施設を目指して出発した。
それから阿賀野たちは基地から徒歩30分ほどの場所に車を停車させ、
そこからは徒歩で周りの状況を確認しながら基地に向かい、
今しがたリラの能力の射程範囲に入ったところであった。
車での移動中にラジオでニュースを聞いていたが、
ただただ混乱したイタリアの様子が伝わってきただけで具体的な情報は得られなかった。
「どうだ、リラ?」
基地内部のおおまかな状況を把握するため、
阿賀野とともに能力を発動したリラにアレスたちが質問をする。
「かなりの人が装備をして警戒しています。
やはりどこかの施設ではなく、基地でしょうか。
孤児院のみなさんは4階に集められているようです。」
リラの声が、阿賀野たちが一度身を隠すため入っている寂れたビルのガレージ内で小さく反響した。
「みんな無事か?」
リラはより目を固く閉じ、意識を集中させる。
「一人ずつ呼び出されて尋問を受けているようです。
命に別状はなさそうですが、ケガはしているようです……」
リラは祈るように感知を続けている。
アレスは険しい表情で彼女を見ている。
アレスはこれ以上は質問しても個人的な感情をただ動かすことにしかならないと悟り、ダリルに託した。
ダリルはリラに追加で質問し、
基地内の情報を確認したうえで、侵入する手段を考案し始めた。
20分後、阿賀野たちの作戦が固まり、そ
れぞれが行動を開始することとなった。
基地にてアルダたちは、学校の教室2部屋分ほどある大きな部屋に集められ閉じ込められていた。
その部屋の四隅にはそれぞれ銃を持った兵士が3人ずつ配置されていた。
アルダたちは抵抗したが、すぐに取り押さえられ、
銃を突き付けられながらここまで運ばれてきていた。
ジーモなどの男連中は何発か殴られた痕があり、
カルロに至っては肩を撃ち抜かれていた。
アルダたちが表立った抵抗を止めたのは、カルロが撃たれたことが大きかった。
今はおとなしくはしているが、
決してアレスのことについて口を割ろうとはしなかった。
そのため、しびれを切らした軍が今度は一人一人別室に呼び、
尋問を始めることになった。
最初に連れて行かれたのはエドガルドであった。
「何度でも言うが俺たちは決して仲間を売らねえ」
別室にて磔にされたエドガルドは鋭い目で兵士を睨んだ。
すでに顔にはいくつかの痣ができている。
エドガルドの尋問が始まって、30分ほどが経過していた。
「エドガルド君、私たちは人類の未来のために戦っているんだよ」
尋問をしている男がなだめるように語りかけた。
男は深いしわの入った50代ほどの男で、顔に大きな傷が縦に一本入っていた。
「じきに国連軍の総司令も来る。
今や全世界が一つになっているのだよ」
男は手を後ろで組みながら尋問室内をゆっくりと歩き回った。
「だが、君一人に聞いても何も答えてくれないようだね」
男はにこやかに告げた。
「ならばエドガルド君のお友達に聞いてみようか」
エドガルドが顔を上げた。
男は勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
「やめろ!!あいつらには手を出すな!!!」
エドガルドが叫んだ。
「君に聞いても答えてくれないんだ。
仕方ないだろう?私だって立場ってものがある。
国連軍の総司令が来る前にはある程度の情報は仕入れておきたいのだよ」
「くそっ!!!!」
エドガルドは暴れようとしたが、拘束されており思うように動けない。
そこへ、別の兵士が部屋に急ぎ足で入ってきた。
「失礼します、ゼノーニ中尉」
「なんだ」
「大至急の報告があります」
「外で聞こう。お前たち、こいつにもう少し質問をしてみろ」
ゼノーニは尋問室内の兵士に一度預けると、
報告に来た隊員とともに部屋を出た。
「それで、なんだね」
「それが、この基地の壁が突如消失しました」
ゼノーニは眉をひそめた。
「消失だと?画像はあるか?」
兵士はタブレットで画像を見せた。
画像には基地の壁の一部がぽっかり抜けたように消失している状態が写っていた。
クレーターのようになっており、半径20㎡ほどはあった。
ゼノーニは駆け足でクレーターが見える方の窓へ向かった。
尋問室から出て角を曲がり突き当りにあった窓を見ると、写真と同じ光景が広がっていた。
「外から音は聞こえなかった。爆弾ではないのか?」
「不明です。現在警戒を強めながら現場検証を実施するところです」
「現在の警戒レベルは?」
「ワンランク上げて巡回人数を増やそうとしているところです」
「今すぐ最高レベルまで上げろ!奴らはもう攻めてきている!」
ゼノーニは指令室へ急いだ。
一方、阿賀野たちはリラの能力などを用いて、
廃ビルの屋上から基地の様子を窺っていた。
付近のビルからダリルの能力を阿賀野の能力を用いて制御したうえで基地を攻撃し、
その後もう一度人気のない廃ビルへ戻ってきたのであった。
「ダリルの作戦通りだ。基地内は大混乱しているな」
アレスは双眼鏡を覗きながら呟いた。
「ではそろそろ次のフェイズへ移行する」
「あいよ」
ダリルが告げるとみなまた移動を始めた。
廃ビルを出てすぐにダリルがリラに尋ねた。
「あのビルはどうだ」
「階段を使えば大丈夫そうです。周りに軍の人は少ないです」
ダリルが指さしたビルに向かって行った。
10分後、阿賀野たちはそのビルの基地が見える程度の高層階に辿り着いていた。
「あんだけ階段を昇ったのに疲れねえ!」
アレスが少し高揚気味に呟いた。
「阿賀野の能力の賜物だな。ではこのままやるぞ」
「アビリティ・ライズ」
ダリルの呼びかけに答え、阿賀野はダリルの能力を強化した。
ダリルは右手で左手首を強く抑え、基地のまだ残っている壁を凝視した。
次の瞬間、その壁が消し飛んだ。
そのまま続けて、露になった反対側の壁も消し飛ばした。
こうして、基地の壁をすべて消失させた。
終わった後、ダリルはその場に倒れ込んだ。
体中に大粒の汗が噴き出している。
「ダリルさん、大丈夫ですか!?」
阿賀野が介抱しようとしたが、
ダリルは手で制して自分で立ち上がった。
「次が本命だ……行くぞ……」
ダリルは顔の汗を手で拭い歩き出した。
阿賀野たちも黙って着いて行った。
「非常配備態勢。非常配備態勢。各員は持ち場に着いてください」
基地内をサイレンとともにアナウンスが流れる。
アルダたちの部屋にさらに何人かの兵士が押し寄せた。
「追加の警備部隊です」
最初に入ってきた兵士が敬礼をした後、それに続いてさらに数人の兵士が室内に加わった。
「何が起こっているんだ?」
「まさか、アレスたちが来たの……?」
アルダたちは辺りを見回し、耳を澄ました。
こわばった兵士の表情と、慌ただしい様子が伝わってきた。
ジーモはどうにかして脱出を試みようとしたが、
警備が増えたためより困難になったことが実感できただけであった。
一方、阿賀野たちは地下水道を進んでいた。
先ほどの廃ビルを後にし、マンホールから地下に入ったのであった。
この地下水道から基地内部に侵入するため、
ダリルが用意したランタンを手に基地の方角に向かっている。
「この辺りか」
ダリルは壁の前で止まった。
リラが壁に歩み寄り、手を当てた。
「この向こうの方が地下倉庫です」
今まで使用する機会の多かったリラの能力は進化し、
建物の構造を把握することが可能になっていた。
ダリルは右手で左手首を押さえた。
壁に穴が空いた。
それを何度か繰り返し、基地内の倉庫に到達した。
「ここからは用心して進むぞ。
特に、フィルソヴァには常に能力で感知してもらうことになる。
万が一会敵した場合には容赦するなよ」
先を歩くダリルは一度後ろを振り返り、阿賀野たちに告げた。
その額には大粒の汗が浮き出ていた。
「まあ、攻撃できる能力があるのは俺だけなんだがな」
珍しいダリルの冗談に思わずみなは心が少しだけ軽くなった。
「では、行くぞ」
ダリルは倉庫の扉をゆっくりと開けた。




