侵入
「まずは正確な敵の配置を把握したい。フィルソヴァ、阿賀野、頼んだ」
ダリル達はリラが索敵した情報を元に、
軍に見つからないであろうギリギリの距離まで接近し、木々の影に身を潜めていた。
リラと阿賀野は、車から降りてダリルたちとは反対側で待機していた。
万が一能力を使って存在や位置が把握されたときには、囮となって別行動するためである。
リラは能力の使用による影響がどの程度あるのかがわからず緊張していたが、
一呼吸置き阿賀野と目を合わせて頷き、共に能力を発動した。
「アビリティ・ライズ」
リラも同時に目を閉じた。
そして、再び頭の中に村の脅威、ひいては軍の兵士たちの位置が浮かぶ。
能力の発動により多少の違和感を覚えたようであったが、特に行動は起きなかった。
軍に動きがないことを確認すると、無線でダリルに敵の位置などの具体的な情報を伝えた。
「戦闘部隊だな。
おそらく、少し離れた場所に支援部隊もいるだろうが、
ひとまずはここを制圧するだけで済みそうだな。行こう」
「ところでどうやって突破するんだ?」
アレスは能力を用いて制圧する場面を想像して、少し気が引けていた。
しかし、ダリルは無言で拳を鳴らした。
「おいおい、マジかよ」
「こちらの姿は見えないうえに、相手の位置情報という最大の武器がある。問題ない」
「さすが元傭兵は違うわね」
藍那が感心したように言ったが、ダリルは無表情で続けた。
「何を言っている。
やり方なら以前教えただろう。
お前たちにもやってもらうぞ」
「うえっ、マジか……」
アレスと藍那は顔を青くした。
手始めに、ダリル達は村の外側の見張り役を個別に無力化していった。
これらの兵士は2~3人で行動しているため、迷彩化した状態で背後から忍び寄り、
締め落とした後に手足を縛ることは簡単にできた。
アレスと藍那も兵士を締め落とすはずであったが、
羽交い締めにするのが精一杯であり、
実際に兵士の意識を失わせたのはダリルであった。
「お前たちも持っておけ。使い方は覚えているか?」
ダリルは兵士から奪った拳銃を2人に渡した。
「確か安全装置はこうやって外すのよね?」
藍那はおそるおそる拳銃を手に取り動かした。
「そうだ。だが今は外す必要はない。それよりこれを見ろ」
ダリルは2人に兵士の来ていた服にあるエンブレムを見せた。
「こいつは国連軍のものだ」
「やはり国連が絡んでたんだな」
「ああ。かなり行動が早い」
その後もダリル達は順調に敵を手早く無力化していった。
村の外側の兵士を全員無力した後、阿賀野たちと合流した。
「あとは村の連中がいるらしい集会所とその外にいる部隊だけのはずだ」
ダリルはリラの方を見て、彼女が頷くのを確認した。
「これまではなんとか無傷で相手を無力化できたが、
ここからはその保証はできない。いいな?」
阿賀野たちはただ黙って頷いた。
5分ほど歩くと集会所が見えた。
周りには6人ほどの兵士が配置されていた。
「さすがにこの人数を一度に無力化するのは無理だ。
お前たちは兵士を締め落とせないだろう?」
「つまり、この銃を使うってこと?」
藍那は顔をこわばらせて尋ねる。
アレスは先ほどポケットに入れた拳銃の感触を恐る恐る確かめた。
「いや、音がすると中にいる連中にも見つかってしまい厄介なことになる」
阿賀野はこれから彼が言う内容を悟った。
「だから、俺の能力で静かに行方不明になってもらう」
アレス達は絶句した。
ダリルの能力はモノを破壊するのではなく、
一瞬で消し飛ばせるように進化していた。
今は苦しまずに逝かせてやれるだろうと彼なりの冗談を付け足そうとしたが、
リラの悲痛な表情を見て押し黙った。
「やはりそれしかないのですか……」
リラは顔を俯いた。
敵とはいえ殺めることには抵抗があるのは、
とりわけ彼女くらいの年齢の少女には当然のことであり、過酷な現実である。
「だが、今の俺では制御ができない。
かなり広範囲を消し飛ばしてしまう。
阿賀野、俺の能力を強化してコントロール可能にできるか?」
「やってみます」
阿賀野は短く答えると、彼の肩に手を置いた。
「アビリティ・ライズ」
ダリルは自分の力が以前より明確に感じられた。
「これならいけそうだな。やるぞ」
リラは目を閉じて祈った。
藍那は悲しい表情をして消されゆく兵士たちを見た。
アレスは険しい表情で兵士たちを見た。
ダリルは左手首を強く握りしめ目を見開く。
次の瞬間、集会所の外にいた兵士たちがすべて跡形もなく消え去った。
「終わった。内部に突入するぞ」
少し息を切らしながら告げたダリルにみな無言で着いて行った。
風が阿賀野たちを通り越して、
兵士のいた側の草木を揺らしながら吹き抜けていった。




