情報収集へ
阿賀野たちが村を出るため車に乗ろうとしたところ、声をかけられた。
「あんたたち、行くのかい?」
振り返ると、そこには村人たちが集まっていた。
「リラを守ってくれてありがとう」
予想外の行動と言動に驚きを隠せなかったが、そのまま聞いている。
「俺たちはあんたらに感謝してるんだ。
今度はあんたらともゆっくり話がしたい。
だから、帰ってきたら今度こそ歓迎会をさせてくれ」
「ありがとう」
ダリルは短く礼を言うと、みなを車に乗せ、アクセルを踏んだ。
「この村の名物用意しとくからねえ!」
気前のよさそうな中年の女性が手を振りながら大声で叫んだ。
(この先どうしたらいいのかまだ決心はつかない。
だけど、やっぱりこのまま誰かが犠牲になるのは間違っている……!
このまま絶望して立ち止まってはだめだ)
阿賀野の冷え切って灰になっていた心に再び火が灯された。
空は青く、とても爽やかな昼下がりであった。
阿賀野たちの乗った車は少し不安定なエンジン音を出しながらも街へ向かっていった。
助手席にはリラが座り、案内をすることになっているが、ほぼ一本道である。
移動時間も有効活用すべく、ダリルは街に着いてからのことを話し始めた。
「まずは、情報収集にあたっては当然テレビ、ラジオ、新聞を使う。
街でテレビやラジオが聞けるところを探したい。
何か心当たりはないか?」
ダリルが荷物に入れていたラジオは壊れていることが発覚したため、
どうしても街まで出る必要があった。
リラは街に降りることは少なかったが、
わずかな記憶を頼りに求められているものを探そうとする。
「確か、街の北の方に小さな家電屋さんがありました。
小さな街なのでそこしかなかったはずです。
この道をまっすぐ街の中心に向かって行くと、広場に着きます。
そこから大通りを北に向かって行くとあったはずです」
「そんなのいちいち聞かなくたって、
そこらへんの店をかたっぱしから回ったり、
人に聞けばいいじゃない」
藍那は口をはさんだ。
「あまり不用意に街を出歩くのも避けたい。
俺たちの存在がどの程度他人に悟られるのかわからないからな。
必要最低限の情報を集めたらすぐに帰るぞ。
それに……」
「あのとき、僕たちの顔は見られています。
もう世界中に広まっているかもしれません」
阿賀野が口を開いた。
まだ心の傷は完全には癒えていないが、直観と思考力は以前の精彩さを取り戻していた。
「そ、それもそうね……」
藍那は軽口のつもりだったが、
自らの発言が多少軽率だったと思い反省した。
「じゃあ藍那の能力を使って手早くさっさと終わらせるか?」
アレスは提案をしたが、ダリルはそれを却下する。
「いや、これからはあまり能力を使わない方がいいかもしれない」
「使えば使うほど強くなるなら、むしろ使ったほうがいいんじゃないのか?」
「ああ、そういうメリットもある。だが、俺はデメリットの方が気になっている」
「それって、ガイドが言ってた、力が強くなるほど他人に悟られやすくなるってやつ?」
藍那はおそるおそる尋ねる。
「その通りだ。今後は嫌でも能力を使う機会は増えるだろう。
だが、一番いいのは戦わずに済むことだ。
そのためには、少しでも索敵されにくくする必要がある」
(そうだ。これからどうするかは置いておいて、まずは戦わなくて済むようにしなきゃ)
阿賀野も大きく頷いた。
「でも、世界中の人たちに私たちの顔は知れ渡っているかもしれないんですよね……?」
リラは不安そうに尋ねた。
当然、ダリルはそのことも織り込んだうえでの話であった。
「その通りだ。
だから、特に高嶺の能力については必要に応じて使う場合もある。
基本的に単独行動はせずに街では全員で行動し、何かあったらすぐに逃げる」
ダリルは淡々と今後懸念されるリスクを考慮し、その対応策を挙げた。
「だが、ここまではあくまでも俺個人の立案だ。
お前たちはどう考えているんだ?」
数秒の沈黙の後、アレスが意見を発した。
「今回については、藍那の能力を使うべき場面なんじゃないのか?
手早く情報を集めたら、すぐに帰る。
これでいいと思うぜ」
「でも、この人数で迷彩化したまま街中を移動するのは難しいわね。
姿が見えないとけっこう人にぶつかっちゃうんだから」
これは、召集される前に一人で逃げていた藍那の確かな経験則であった。
「では、街に行く人ともしものときのために、車で待機する人とで別れたらどうでしょうか」
リラは律儀に小さく手を上げながら発言した。
「芳樹、お前の能力で藍那の力を強化しながら情報収集するのはどうだ?
強化したら人に触れられないようにもできるんじゃないのか?」
アレスは名案とばかりに指を鳴らしながら言った。
「試してみる価値はあるな」
ダリルもアレスの案に乗った。
白羽の矢を立てられて少し驚いたが、阿賀野は小さく頷いた。
「わかりました、やってみます」
「んじゃ、よろしくねー」
藍那は軽い口調で言った後、車窓の外の景色をぼんやりと眺め始めた。
「ところで、そろそろ距離的には街へ続く分かれ道が見えてくるはずなんだがわかるか?」
ダリルは前方を見ているが、
傾斜の緩くなってきてほぼ荒れ地の平原となっており、
もはやどれが道なのか判別が難しい状態になっていた。
リラは目を凝らして前方を見る。
さらに200メートルほど進むと前方を指さした。
「きっとあの道です。ほら、看板が見えます!!」
前方にY字の分かれ道の根本に、木製の看板が見える。
ダリルはその前で一度車を停めて、リラに表記を確認してもらった。
看板には最近書かれたような新しい白いペンキで、矢印と文字が書いてあった。
(気のせいかな?なんだか文字がやけに幼いような……)
阿賀野はどことなく違和感を覚えたが、
他国の文字のためそう見えただけだと思うことにした。
「間違いないです。この分かれ道を左に行くと街に着くと書いてあります」
リラの確認が終わると、一行は再び車に乗り、街を目指した。
しかし、この表記が街に住む幼い子供がその悪い兄たちに連れられ、
いたずらをしたものだとわかったのは、少し後のことであった。




