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対話

 対話の当日は雲一つなく、さわやかでとてもいい天気であった。

 対話は国連の指定でホワイトハウスで行われることになっている。


 数日前に一番近い山や森にワープし、

 数日かけて安全に目的地に行くべきか、

 直接ワープして会場に行くべきかなど色々と考慮した結果、

 付近の人目につきにくい場所に前日の日付が変わる前にワープし、

 野宿して一夜を明かして会場に向かうことにした。

 訓練の時間をできるだけ長くとりたかったのと、

 直接会場にワープせずに様子を見ながら会場を目指したかったのと、

 もしものときの脱出用に一日に一度しか使えない召集権を残しておきたかったためである。


 ワープした会場からすこし離れた森を出て市街地に出ると、

 街は騒々しく、あたりを警察や軍隊が大勢おり、

 空にはヘリコプターがいくつも飛んでいた。

 また、レポーターやカメラマンなどメディアの人間も多く集まっていた。

 やはり異様な雰囲気がしていた。

 その中でもひと際目立つのが、

 プラカードを掲げたり大声を上げている団体であった。

「奴らを殺せ!!!」

「対話なんて必要ないぞー!!!」

 彼らは、使徒たちを問答無用で殺害することを要求していた。

 アレスの街でも見た光景だ。

 しかし、その一方で対話して平和的に解決するべきだといういわゆる対話派もいた。

 対話派とみられる集団は、阿賀野たちが途中で通り過ぎた大きな広場で座り込みをしていた。


「まあ大方予想通りだな。先ほどラジオで聞いたニュースと大差ない」

「俺たち、えらく歓迎されちゃってるねえ」


 阿賀野たちはその中を藍那の能力を駆使し、

 あまり目立たないように目的地を目指した。

 藍那の能力は成長を遂げ、自分だけでなく、

 複数人まで迷彩化できるようになっていた。

 さらに、多少の消音をさせることも可能になってきていた。

 また、リラも念のため能力を数十メートル進む度に使用していた。

 リラの能力も成長し、有効範囲は半径100メートルほどに広がっていた。

 もちろん、能力が強まれば強まるほど異形の存在となっていき、

 人間に本能的に察知されてしまうが、

 藍那の能力はそれさえも隠蔽できるようになっていたのである。


 森を出てから一時間ほどで目的地であるビルの入口に到着した。

 周りには大勢のSPやマスコミなどがいた。

 各国の政治家や官僚らしき人物もちらほらと見え、厳重に警護されている。

 阿賀野たちはビルの入口付近からヴァリオの能力で空中に階段を具現化し、

 それを藍那の能力で隠しながらビル目前にある広場の上空15メートルほどの位置に上がった。


「この位置を狙撃可能なスナイパーは48名です。

 アレスさん、もしものときは大丈夫ですか」

「ああ、もし銃声がしたらとりあえず俺の後ろにいてくれ。

 みんな俺からあまり離れるなよ」

「私も防御できるものを発現させます。

 ただし、温存しておきたいのと他の方たちに見えづらくするために、防弾ガラス程度にします。

 一斉掃射されても逃げ出す時間くらいは作れるでしょうが、あまり過信はしないでください」

「そうか。では準備はできたな。

 阿賀野、お前が合図を出せ。

 それで俺たちは動く」


 ダリルが阿賀野に促す。

 阿賀野は一度深呼吸して目を閉じた。

 ケニーの末路が魔の手のように思考に這い寄ってきた。

 だがそこで、麻衣との約束、アレスの仲間たちの団らん、ザリルの笑顔、母の優しさを思い出す。

 そして、手を挙げた。

 同時に藍那は消音を解除し、

 ヴァリオは阿賀野の手にマイクと、

 辺り一帯にスピーカーを発現させる。


「みなさん、お待たせしました。

 僕たち使徒はたった今ここに到着しました」


 あたりからどよめきが上がる。

 みなが声の主を探して周りを見回している。


 阿賀野の迷彩のみ解除される。

 周りから見ると上空に浮いているように見える。

 ふたたびどよめきが上がる。

 マスコミは一斉に大量のフラッシュを浴びせた。


 下の広場のほうで何やら人が走り回っている。

 しばらくすると、何人かのスーツを着た男たちがスピーカーを持ってやってきた。

 そして、一人の男にマイクを手渡した。

「よく来てくれた。歓迎する。

 私は国連事務総長のコーネリアス・マカリスターだ」

 マカリスターにも大量のフラッシュが浴びせられる。

 SPが周りを囲んでいる。

「よろしくお願いします。

 早速ですがどこでお話すればいいでしょうか」

「もちろん案内する。こちらに降りてきてくれ」

 マカリスターは阿賀野に手を振って招く。


 ヴァリオはマカリスターの方に階段を発現させた。

 薄く黄色がかった白い色で、

 神話を描いた絵画によく出てくるようなシンプルで神々しいデザインの階段であった。

 阿賀野以外は迷彩化を解かないまま、みなで階段を途中まで下る。

 どよめきやらフラッシュやらでかなり騒々しかったが、

 阿賀野は不思議と気にならなかった。


 阿賀野がマカリスターの目の前まで降りると、

 マカリスターが握手を求めてきた。

 それに応じる様子を彼らの上部5メートルほどの位置で、

 ダリルたちは周囲に警戒しつつ見守っていた。


「やはり、東洋人のようだが通訳は必要ないようだね」

「はい、必要ありません」


 阿賀野たちがザリルの家を旅立つ頃には、テレパス能力は向上し、

 通訳なしで異国の言語を片言程度ながらも理解できるようになっていた。


「ほかの5人はどうしたのかね」

「すぐに着きます。さっそく会場に向かいましょう」

「そうか。各国の首脳も既に準備をしている。よろしく頼むよ」

 マカリスターは朗らかに告げると阿賀野を建物の中へ案内した。


 周りには大勢のマスコミがいたが、

 阿賀野たちの歩く道から10メートルは遠ざけられており、

 建物の中には入れなかった。

 ダリルたちも足場を作りながら阿賀野の後に着いていく。

 入口に着くと、ダリルの能力で目の前の壁を一瞬で破壊し人が一人通れる程度の穴を空けた。

 ダリルの能力は数秒かけて破壊する能力であったが、

 破壊する速度が格段に向上していた。

 ダリルが道を開け、建物の中に全員で入ると、

 しんがりのヴァリオがダリルの破壊した壁を復元させた。

 ものの数秒の出来事であることと、

 この場にいる全員が阿賀野に意識が集中していたため、

 誰にも気付かれず騒ぎになることもなかった。


「なんとか切り抜けましたね」

 再び脅威の感知を行い、

 先ほどと変化はないことを確認したリラがそっと胸をなでおろす。

 建物の中に入ると、ヴァリオは阿賀野の後ろに付くような位置に行けるよう階段を発現させ、

 みなで阿賀野の後ろに付いた。


 中に入ると閑散としており、外の喧騒が嘘のようであった。

 だが、それがかえって緊張感を高めた。

 阿賀野たちは無言で議会に向かう。

 阿賀野は緊張こそしていたものの、物怖じはしていなかった。

 大きな扉の前に着くとマカリスターは阿賀野を招いた。


「ここだ。中に入ろう」

 重そうなドアが開き、阿賀野は中へ進んだ。

 ここからは隠れる意味もなかったので、ダリルたちも姿を現し中へ進んだ。

 マカリスターとSPはギョッとするが、すぐに平静を装った。


 議会の中に入ると既に大勢の人間が席に着いていた。

 阿賀野たちが中に入ると、ふたたびどよめきが上がった。

 阿賀野たちはマカリスターに連れられて、議会の奥の席に向かっていった。

 マカリスターは自席に着き、マイクに向かった。


「みなさん、静粛に。これから選ばれし6人の方々に挨拶をしてもらう」


 対話の次第や流れについては、阿賀野たちからは特に要望も形式も告げていなかったため、

 国連側か取り仕切ることとなっていた。

 マカリスターは阿賀野たちに自らマイクを手渡しながら小声で自己紹介を促す。

 阿賀野たちは順に自らの名前を告げた。

 そして、最後にヴァリオが自己紹介をした後、再びマイクが阿賀野に手渡された。


「今日はこれからみなさんと人類の今後についてお話させてもらえればと思います。

 よろしくお願いいたします」


 阿賀野はぺこりとお辞儀をした。

 それに倣い、ダリルたちも一礼した。


「ありがとう。こちらこそよろしく」


 マカリスターは阿賀野と握手を交わし、阿賀野たちを用意した席に座らせた。

 マカリスター自身は阿賀野たちとは少し離れた場所に着席した。

 まだ全員が着席しておらず、国連側が想定していた対話の開始時刻には時間があるため、

 少々待ってほしいとのことであった。


 阿賀野たちの席は、国連の全員と向かい合う形となっており、

 一番前の特設された席であった。

 まるでこれから舞台劇でも始めるかのようであった。

 机の上にはペットボトルの水と思しきものが置いてありアレスが危うく手を付けそうになったが、

 ダリルが無言で制止したため誰も口をつけなかった。


「お荷物をお預かりします」

 まるで執事のような佇まいのボーイがやってきたが、これもダリルが断り帰らせた。

「リラ、今のところどういう感じだ?」

 アレスが隣のリラにひそひそと耳打ちした。

 リラの表情はややこわばっているが、視線はそのままにしながら答える。

「スナイパーでしょうか、この部屋に6人います。

 それから、部屋のすぐ外にも30人は兵士がいます」

「配置はどうなっている?アレス一人で防げるか?」

 ダリルもリラに敵の脅威を尋ねた。

 その表情はいつも通りだったが、緊張感が漂っていた。

 リラは先ほどよりもさらに声を殺しながら答える。

「正面で盾を発動させても横に回り込まれて狙われます。

 ヴァリオさんの力も必要です」


「でも銃くらいならすぐに防いでなんとか逃げられそうね」

 藍那は案外軽い調子であった。しかし、阿賀野はすぐに反論する。

「逃げることなんかない。

 素直に思ったことを話せばきっと神さまの気だって変わる」

 阿賀野の表情は真に迫るものがあった。

 藍那はビクッとして喚く。

「当たりひどくない!?」

 リラとアレスはふっと笑う。

 多少は緊張がほぐれたようだ。

「いよいよ運命のときだなァ!」

 ガイドの姿はなかったが、阿賀野たちの脳内に直接語りかけてきていた。

 藍那はむっとして当たる。

「あんたはひっこんでなさい」

「へいへーい」

 ガイドは調子よく答えた。


 そうこうしているうちにまた、入口の扉が開いた。

 またどこかの国の首相がやってきたようだ。

 紫のスーツに赤のネクタイをしていた。

 色黒でひげを生やしており、側近らしき男を連れていた。

 急いで来たらしく、少し息を切らしていたが側近の男はあまり疲れていなさそうであった。

 その色黒の男が着席すると、手を上げてマカリスターの方に合図を送った。


「では、そろそろ始めようか。司会進行はこの私、コーネリアス・マカリスターが務めさせてもらう」

 マカリスターは原稿らしきものを取り出し確認した。

 阿賀野たちの方を向きながら話し始める。

「まずはこのような場を設けることに理解いただいたアガノくんたちに謝意を伝えたい。

 本当にありがとう」

 マカリスターが礼をすると、会場にいた全員が阿賀野たちに拍手を送った。

「さっそく議題に入りたいところだが、その前にいくつか質問をさせてほしい」


 阿賀野たちは無言でうなずく。

「ではまず聞かせてもらおう。

 最初にここについたときに浮いていたが、あれは一体なんなのかね?」


 初めの質問は能力についてであった。

 この類の質問が来ることはある程度想定していたが、

 阿賀野は最初にこの質問が来るとは思いもよらず、

 肩透かしをくらったようであった。

 それでも、努めて冷静な様子を装いながらマイクを手に取る。

 多少の緊張はあるものの問題なさそうであることを確かめた後、努めて冷静に答えた。


「今日はここに神から与えられた能力を使って移動してきました。

 突然広場に現れたのも浮いていたのもそのせいです」

 これはあらかじめダリルたちと決めていた通りの受け答えであった。

 当初阿賀野は想定質問とその回答を用意することを拒んでいたが、

 ダリルやザリルの極めて理論的な説得により折れることとなった。

 阿賀野の回答を受け、また議会場がざわめく。

 マカリスターは表情を崩さずに少し黙考した後に続けて質問をする。


「その能力について、もう少し詳しく教えてくれないか」

 これも想定内の質問であった。

 阿賀野はあらかじめ決めていた通りの内容を冷静に答える。

「それについては、あまり僕たちも詳しいことはわかっていません。

 ただ、今日のように突然移動するワープのようなことはできるようです」


「浮いていたのは?

 こちらに降りて来るときに階段のようなものを降りているように見えたが」

 ここまで細かい質問については想定しておらず、ダリルたちは少し阿賀野の方に目を向けた。

「それはワープの後には地上に降りるための階段が現れるからです。

 ある程度は僕たちの意識したとおりの位置に向かってくれるようです」

 またもや小さなどよめきが室内に広がった。


 想定外の質問にも咄嗟の発想でうまく答えた阿賀野だったが、少し焦りを感じていた。

(どうしよう。

 これじゃダリルさんの言っていた通りの展開になってしまう。

 僕たちは話し合いに来たのに……)


 対話のために用意していたのは回答だけではなく、有事の際の行動もである。

 ダリルは相手に警戒をするべきかの基準の一つとして、

 対話に必要ない内容の質問や話題があることを挙げていた。

 もし、使徒を殲滅するつもりであれば、

 できるだけ情報を得ようとすることが読めているからである。

 とりわけ、阿賀野たちの戦力ひいてはその能力についてだ。

 これらの質問は対話を進めるうえではあまり優先度の低い話題であり、

 それを根掘り葉掘り聞いてこようとするのは、

 対決することへの表れだというダリルの指摘に阿賀野やアレスたちは反論することができなかった。


「ありがとう。では次の質問をさせてくれ」

 これ以上能力について聞かれると、警戒レベルはグレーゾーンどころではない。

 しかし、マカリスターは次の質問に移ったおかげで阿賀野は少し安堵した。


「君たちは神に会ったのかね?」


 これも想定外の質問であった。

 いや、むしろ想定する必要がなかったというべきか。

 これに関しては素直にありのままを話せばよい。

 その回答によって状況がただちに大きく変わることは考えにくいからだ。

 ダリルは阿賀野の方をこっそり見た。

 動揺はなく、心配する必要がなさそうであることを確認した。


「いえ、僕たちはあの日みなさんと一緒に見たきりで一度も神さまには会っていません」

 ガイドのことを話すべきか一瞬迷ったが、

 ダリルがあらかじめ決めていたとおり、

 こちらの情報に関する質問については、

 場合によっては清濁折り混ぜるものの、

 基本的には聞かれたことに対してのみ答えるという方針を守った。


「そうか。個人的には一番気になるところではあったのだがな」

 少し残念そうに感想を述べた。


「では最後の質問だ」

 マカリスターは腕時計を確認しながら告げる。

 阿賀野は手に汗が滲んでいることに気付いた。

 ダリルは表情を変えないままマカリスターに鋭く視線を向けていた。


「今日、君たちは本当に話し合いに来たのだね?」

「はい」

 神妙なまなざしで短くはっきりと、そして力強く答えた。

「そうか。では」


 マカリスターが手を挙げた。

 リラは瞬時に大勢の脅威を感じ取ったため、ダリルに半ば叫びながら伝える。

 会場の入口の方から何人かが銃を阿賀野たちに向ける。

 マカリスターは冷酷な言葉を無表情に告げる。


「人類のために死んでもらおう」


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