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第四章:夢洲の密室

その夜、神谷のもとに一通のメールが届いた。


差出人は不明。件名は「白鷺の羽音」。


本文には、こう書かれていた。


「あなたが探している“白鷺”は、まだ夢洲にいます。

彼は、次の“幽霊会社”を準備中。

会いたければ、7月15日、夢洲第3ゲート裏の仮設事務所へ。

ただし、命の保証はありません。」


神谷は、メールの最後に添付されたPDFを開いた。


そこには、複数の幽霊会社の登記簿と、白川雅彦の署名が並んでいた。


「これは……決定的証拠だ」


だが同時に、神谷は理解していた。


この先に待つのは、国家権力との真正面からの衝突。


そして、自分の命を賭けた戦い。


彼は静かに、夢洲行きの切符を握りしめた。




2025年7月15日、午前3時。


夢洲第3ゲート裏の仮設事務所は、海風に吹かれて静まり返っていた。


神谷遼は、黒いウインドブレーカーに身を包み、足音を殺して近づいた。


仮設事務所の灯りはついていた。


中に人がいる。


神谷は深呼吸し、ドアをノックした。


「……どうぞ」


中から聞こえたのは、低く落ち着いた声だった。


神谷がドアを開けると、そこには一人の男が椅子に腰かけていた。


白川雅彦——“白鷺”。


「やはり来ましたか。あなたのような若者が、最後の砦になるとは皮肉ですね」


「白川雅彦さん。あなたが“万博師”の実行責任者ですね」


白川は微笑んだ。


「“実行責任者”という言葉は好きではありません。

私はただ、国家の“調整役”を務めているだけです」


神谷は、手にしたファイルを机に置いた。


そこには、幽霊会社の登記簿、未払い業者の証言、そして白川の署名がそろっていた。


「これは、あなたが関与した詐欺の証拠です。

これを公表すれば、あなたも、あなたの背後にいる政治家たちも終わりです」


白川は、静かに立ち上がった。


そして、窓の外に広がる万博会場を見つめながら言った。


「君はまだ若い。理想に燃えている。だが、現実を知らない。

この国の巨大プロジェクトは、すべて“帳尻合わせ”でできている。

予算は足りない。納期は守れない。だが、国民には夢を見せなければならない。

だから我々は、“幻”を作る。

君が“詐欺”と呼ぶものは、国家の“演出”だよ」


神谷は、拳を握りしめた。


「その“演出”のせいで、何百人もの中小業者が倒産し、家族が壊れた。

大学を辞めた子ども、家を失った職人、命を絶った人もいる。

それが“国家の演出”なら、僕はその舞台を壊します」


白川は、初めて表情を曇らせた。


「……君は、ここで終わるかもしれない。

このファイルを持ち出せば、君の身に何が起きるか、想像はつくだろう?」


神谷は、静かに答えた。


「それでも、僕は進みます。

この国が“夢”を語るなら、その裏側も、ちゃんと見せるべきです」


その瞬間、事務所の外に複数の足音が響いた。


神谷はファイルを抱え、裏口から走り出た。


背後で、白川の声が聞こえた。


「君がどこまで行けるか、見届けよう。

だが覚えておけ——“白鷺”は、いつでも飛び立てる」

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