第三章:白鷺の影
神谷遼は、夢洲開発推進会議の公式サイトを開き、理事一覧を確認した。
そこに、ひときわ異質な肩書きがあった。
特別顧問:白川雅彦
元国土交通省都市整備局長。退官後、複数の都市開発プロジェクトに関与。
現在は民間コンサル会社「未来都市戦略研究所」代表。
「白鷺……白川……」
神谷は確信した。
“白鷺”は偽名ではない。
白川雅彦——かつて霞が関で“都市開発の黒幕”と呼ばれた男。
その名は、神谷が新人時代に何度も耳にしたことがある。
「彼が、万博師の実行責任者……?」
神谷は、白川が代表を務めるコンサル会社の所在地を訪ねた。
東京・赤坂の高層ビルの一角。受付で名刺を差し出すと、秘書が丁寧に対応した。
「白川は本日、大阪の現場に出張中です。夢洲の視察に同行しております」
夢洲——また、あの島だ。
神谷はその足で再び大阪へ向かった。
その途中、山根から連絡が入った。
「神谷さん、あんたに見せたいもんがある。うちの現場監督が撮ってた写真や。あの“関西未来開発”の連中の顔が写ってる」
神谷は、此花区の事務所に戻り、写真を確認した。
そこには、作業服姿の男たちとともに、スーツ姿の中年男性が写っていた。
その顔に見覚えがあった。
「……これは、白川雅彦だ」
山根が驚いたように言った。
「え? あの人、国の偉いさんちゃうんか? なんで現場に……?」
神谷は、写真の背景に写るパネルに目を凝らした。
「関西未来開発」のロゴとともに、見慣れたマークがあった。
【2025大阪・関西万博】
未来社会の実験場
「これは……国が“お墨付き”を与えた偽装会社だ」
神谷の中で、点と点がつながった。
白川は、国の肩書きを利用して“関西未来開発”を立ち上げ、三次受け業者を信用させ、工事を完了させた後、会社を解散。
未払いのまま、すべてを“倒産”という形で消し去った。
その背後には、国交省OBのネットワークと、政治家との癒着があった。