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三題噺もどき4

子供

作者: 狐彪

三題噺もどき―ろっぴゃくななじゅうなな。



※今日の休憩のお供はモンブランでした※

 




 ぽつぽつと、雨が降り出した。

 並んで立つ墓石に、小さくシミを作り出していく。

 予報ではもう少し先だと言っていたが……仕方がない。傘なんてものは持っていないし、足元も普通のスニーカーを履いて来てしまったので、濡れると面倒だ。

 もう少し遊んでやりたかったが、今日は帰るとしよう。

「……」

 隣を見ると、どこか寂し気に見上げる子供の顔がある。寝転がったままの姿勢で顔だけこちらを見上げているから、少々恐ろしい格好になっている。首が痛くないのかそれは。

 その子供は、数秒前まで楽しそうに足を振りながら、色鉛筆で紙に色々描いていたはずなのだが。元から、察しのいい子だったのだろう。生前も、そうやって親の顔色をうかがいながら生きていたのだろうか。

「……」

 子供の扱いには慣れていないから、こういう時にどういったらいいのか分からない。

 本人は喋ることも出来ないから、実のところ何を考えているのかも分からないし。

 案外寂しがっているように見えて、そうではないかもしれないから。

「……」

 ぽつぽつと、まだ雨は降り続ける。

 これはもう、今日のこの後はずっと降っているのだろうな。

 本格的に梅雨入りしてしまったんだろうか……そのあたりの基準がよく分からないよな。

 何かしらあるのだろうけど。

「……、」

 くん―と、少し裾を引っ張る手がある。

 いつの間に立ち上がったのか、両手に紙と色鉛筆を抱えたまま隣に立っていた。

 私は座っていたから、子供の顔は真横にある。

 少し前の寂しげな表情から一転して、無理をしたような笑顔を張り付けていた。分かっているから帰ってもいいよとでも言うのだろうか。

「……」

 まぁ、帰らないわけにはいかないので、帰路には着くのだけど。

 ふむ。

 何か置き土産でももってこればよかったかな。このまま離れるのも少々心苦しい。

 かといって、ここには頻繁には来れないからなぁ。……今日来たのだって、先日の少女のことがあって一応、念の為をもって来ただけであって。たまたま子供に誘われたから居座っただけだ。そもそも、長時間いることすらよくない。

 おかげで周囲に変なのがうろつき始めている。どちらにせよ、帰らないといけない。

「……」

 あぁ、そうだ。

 この子供は生前に見たことがあるかもしれないが。

 この墓場にその花は咲かないのだ。ならばそれでも置いていこう。

「……どうぞ」

 公園で見た記憶を基に、小さな桜の枝を作り出す。

 ちょっとした手向けもかねて、子供の手に渡す。

 すこしは表情が柔くなっただろうか。子供らしい、いい顔だ。

「……またくるよ」

 子供の頭のあたりを撫で、立ち去る。

 あまり期待を持たせるのもよくないだろうが……そもそもこの子供がここに居座り続けるのもよくない。成仏というのをさせてやった方がいいに決まっているのだが。まぁ、そこは本人が決めることだし、私にどうこう出来る事でもない。

「……」

 ついでに周辺に湧き出していた変なのを一蹴しながら、帰路につく。

 長時間と言っても、そんなにいなかったつもりだが案外沸くものだな。まぁ、墓場という場所が場所だから湧きやすいんだろうけど。先日見つけたあの道よりはマシか。

「……」

 すこし強くなった雨足から逃げるように足を早める。

 あまり濡れると怒るやつが家には居るので、極力濡れないように。

 この時期はさすがに雨具でも持ち歩いた方がいいのかな……そうすればあまりにも強くならない限りは居座れるだろう。

 でもなぁ、手がふさがるのも嫌でなぁ……何とも思うようにいかないものだ。

「……」

 急いだおかげで、多少の濡れで済んだ。

 エントランスに入り、軽く頭を振る。

 ほんの少しだけ濡れた頭から、水滴が落ちる。

「……」

 今度は晴れている時にでも行くとしよう。

 何かお菓子でも持って行ってやるかな。





「……子供って何を好むんだろうな」

「……少なくともモンブランは食べないですよね」

「まぁ、好き嫌いがあるだろうからな」

「クッキーなんかが無難なんじゃないですか」

「あぁ、そうだな」

「……どころで、子供って何の話ですか」

「……聞かなかったことにしてくれ」









 お題:桜・色鉛筆・モンブラン

墓場の子供の話

→「出会い」https://ncode.syosetu.com/n9462ka/

→「春彼岸」https://ncode.syosetu.com/n4660kg/

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