一人ぼっち
いつか起こりうる、最悪の未来を。
僕は一人ぼっちになってしまった。
母さんは、僕を守ろうとして、僕を逃がしてくれた。でも、僕が隠れている間に、知らない人に連れていかれてしまった。父さんは、母さんと僕を守ろうとして殺されてしまった。おじいちゃんとおばあちゃんは、病気になって死んでしまった。
友達も、友達の家族もみんな、病気になって死んでしまった。“流行り病”という病気らしい。前に、父さんと、隣のおじさんがそんな話をしていた。“流行り病”は、気温が上がったせいで、広まってしまったらしい。薬もないし、治す方法も分からないから、その病気になると、みんな死んでしまうらしい。“メンエキ”がないから、すぐに死んでしまうんだと、父さんが教えてくれた。
でも、僕と、僕の父さんと母さんは、生きていた。流行り病には、かからなかった。周りの人が、みんな死んでしまったから、僕たちは三人だけで、一生懸命生きていた。
僕と母さんは、山で木の実を拾って、父さんは狩りをして、時々だけど、お肉を食べさせてくれた。小さいお肉でも、おいしいから、うれしかった。
僕たちは、木で組み立てて、葉っぱで屋根を作った家に、三人で住んでいた。やわらかい葉っぱをたくさんしいて、ベッドを作った。毎日夜になると、父さんが僕の右側、母さんが左側で寝た。あったかくて、気持ちよかった。
僕たち家族は、毎日、死んでしまった人のために、お墓を作った。たくさんの人がいたのに、みんな死んでしまって、三人になってしまったから、大変だった。父さんと母さんが協力して、みんなを穴に埋める。僕の仕事は、その上に置いてあげる飾りを集めることだった。お花があればいいんだけれど、“オセン”のせいで、見つからない。お花は、父さんが小さいときに、ほとんど枯れてしまったらしい。僕も、本物のお花は見たことがない。
お墓の日は、嫌だった。父さんと母さんが、悲しい顔をするから。穴を掘りながら泣いている母さんを、何度も見た。
最初に知らない人が来たとき、父さんと母さんはすごく喜んだ。けど、二人はすぐに嫌がるようになった。それがどうしてなのか、僕にはよく分からなかった。
僕たち家族はそれから、毎日引っ越しをするようになった。お墓を作ることもなくなって、色んなところを歩き回った。
見たこともない物や建物が、毎日見ることが出来て、楽しかったけれど、やっぱり大変だった。母さんと父さんは、お墓を作っているときよりも、辛そうな顔をしていた。どうしてこんな風に歩き回らないといけないのかを、何度も母さんに聞いてみたけれど、いつも母さんは何も教えてくれなかった。とにかく今は逃げないといけないのよ、と言うだけだった。
父さんと母さんとはぐれて、僕が一人ぼっちになって、もう一週間くらい経つ。
雨が冷たくて、寒い。身体中がブルブル震えて、歯がガチガチ鳴る。大きな木があったから、その下で、雨宿りをし始めて、どれくらい経つのか分からない。土が湿っていて、冷たい。雨が降るなんて、久しぶりだ。何だか、いやな予感がする。
雨の音しか聞こえない。ざぁざぁと、大きな音がする。怖い。知らない人がやって来たらどうしよう。
膝を抱えて、思いっきり小さく、体を縮める。こうしてると、寒さが少しましになる気がしたから。
足音だ。小さいし、雨の音で聞こえづらいけど、聞こえる。きっと知らない人たちが、僕を見つけに来たんだ。どうしよう。逃げなくちゃ。父さんと母さんが、逃げろって言ってた。でも、どうしたらいいんだろう。こんなにも震えていたら、走ることなんて出来なくて、すぐに転んでしまいそうだ。怖いよ。でも逃げなくちゃ。逃げなくちゃ。
すぐ近くで、足音が止まった。今だ、逃げよう。
一気に飛び出した。寒さなんて忘れていた。でも、今は怖さのせいで足が震えて、もつれそうだった。
後ろから、男の人が大きな声で何か言ったのが聞こえた。聞いたこともない、知らない言葉だった。怖いよ。父さん、母さん、助けてよ。涙が出てきて、前がよく見えない。でも、ひたすら走ろう。逃げなきゃ。
「くそ、気付かれたか」
「F-五二班、目標をCゾーン六七で発見。逃げられた。D班、E班、そっちに行ったぞ。逃げ足が速い。司令官、麻酔銃の使用許可を。………了解。こちらも引き続き捜索を続ける。各班、見つけ次第、麻酔銃を使って直ちに捕獲しろ」
「あんな小さな子供を撃つのは気が引けるな…」
「仕方ないさ。ウィルスの研究に彼が必要なんだ。彼の父親も母親も、抗体は持っていたが、完全なものではなかった。完全な抗体を持つのは彼しかいない。生き残った8億の人類の生命を救うには、彼の生体データを研究して、ワクチンを作るしかないんだ。一人の犠牲で、全てが救われるなら、安いもんだろ」
「俺たちも、もういつまで生きられるか分からないしな…でも、研究が終わったら…彼はどうなるんだ?」
「そこまでは知らないさ。研究所とは無縁だからな。とにかく、彼を追うぞ」
〔完〕
いわゆるパンデミックを想定した物語です。
あるとき発生した感染率の高い致死ウィルスにより、地球上の人口は激減した。
ワクチンは、免疫のある人間の遺伝子上にある抗体を研究してからでないと作り出せない。
その遺伝子を持つ人間は、全人口の約〇.七パーセントに過ぎない。
何とかして免疫を持つ人間を探し出せ!
と、こんなところでしょうか。
もし、あなたがその免疫を持つ人間だったならば、どうしますか?




