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追い出した者たち


 こんなはずじゃなかった。

 あんなダンジョンの深層で、別れを切り出すつもりじゃなかったのに。

 キルケは我慢ならなかった。まさかあんな場面でシンリを切るなんて。

 本当ならもっと落ち着いた場所で、互いに冷静に話し合って別れられたはずなのに。

 もっと穏便な、平和的な別れがあったはずなのに実現できなかった。

 でも、それでも、こんな最悪な別れでも、心のどこかでほっとしてる自分がいる。

 これで危機に陥る回数が減るなるならって、納得している自分がいた。

 もうシンリの不運に振り回されるのは嫌。


「さ、三人だけだと、流石に疲れる……」


「しっかりしろ、ハル。もう後任は決めてある。年上の経験豊富な奴だ。あいつが抜けて開いた穴くらいすぐに埋められる。深層ももうすぐ抜けられるんだ、もう一頑張りできるだろ」


「う、うん」


 シンリはもういない。

 危機管理は私たちで分担しなくちゃならない。

 ダンジョンの暗がりに、曲がり角の向こうに、通って来た道に、いつ魔物が現れるとも知れない状況下で警戒の糸を張り巡らせなきゃいけない。

 一歩を刻むたびに、呼吸をするたびに、神経が削られていくのがわかる。

 でも、それも今だけのこと。

 ダンジョンを出て明日になれば新しいパーティーとして動き出せる。

 それはきっと上手くいくはず。


「で、でも、本当によかったのかな。深層に置き去りにして」


「……大丈夫よ、あいつにはスキルがあるし。上手く逃げられるわ」


「そうだ。それにあの場で抜けるって言い出したのはあいつのほうだ。仮になにがあったとしても俺たちの責任じゃない」


「そう、自己責任よ」


 これはシンリも望んだこと。

 お互いの合意があってあの場で別れた。

 だから、私たちは悪くない。


「そうなの、かな。でも、やっぱり」


「なら、あの疫病神とずっと一緒にパーティーをやれるか? 俺には無理だ」


「ハル。話し合ったでしょ? 実際、あたしたち三人でダンジョンに挑んだ時は危険も少なかったじゃない。すくなくとも今日みたいに魔物の大群に追い回されることはなかった」


「それはいつもより難易度を落としたダンジョンだったからじゃ」


「ハル。あいつについて行きたいなら止めはしないぞ」


「ハル。馬鹿な考えは止めて。これでいい、これが正しいの。しようのないことだった、そうでしょ」


「う、うん……」


 私たちは正当な評価と判断を下した、そうに決まってる。

 今はまだ人手不足が響いているだけで、四人になればもっと上に行けるはず。

 間違ってない。そう、間違ってなんかない。

 ただちょっと別れ方が上手く行かなかっただけ。

 私たちに落ち度なんてない。


「ほら、話してる間に深層を抜けたぞ。楽勝だぜ、な?」


「えぇ、そう。あとは楽なものよ」


 後は来た道を戻るだけでいい。

 途中のトラップはすべて作動済みだし、あとは魔物にだけ気を付けておけば家に帰れる。

 私たちの足は自然と速くなり、石畳みの迷路を解く。


「あとすこし。もう少しで地上に――」


 ダンジョンの暗がりから現れたそれに私たちは思わず足が止まる。

 石積の壁にもたれ掛かった冒険者の死体。

 左腕には多数の注射痕。

 あの死体と再び巡り会ってしまった。

 この場にいる誰もがその死体にシンリを重ねたに違いない。

 もしかしたら、って。


「……行くぞ」


「……えぇ」


 そんなはずはない。きっと上手くやる。

 私たちは自分にそう言い聞かせながら、死体を見なかったことにした。

 目を背け、嫌な考えを振り払い、地上へと向かう。

 あとすこし、あとすこしでこの忌々しいダンジョンから脱出できる。

 そうして出口に辿り着いた時、地上から差し込む光が希望に思えた。

 この光が私たちのパーティーを明るく照らしてくれる。

 そんなことを思いながら私たちはダンジョンを後にした。

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