道連れ
「なんだ、そのスキルは!」
あの日、あの時以降に俺の身になにが起こったのか、キルケは知らない。
深層の魔物相手に命懸けで戦って勝ち取った力が俺にはある。
飛来する血液の剣を、槍を、矢を、鎌鼬ですべて撃ち落とし、背中の翼を羽ばたいて急加速。
一息に距離を詰めて懐へと踏み込む。
「なんなんだよ! お前は!」
攻撃動作に移ろうとした直後、血の得物が頭上から降る。
寸前の所で躱して風のようにすり抜け、キルケの背後へ。
顔に手を翳して仮面を変更。
一角獣の仮面を被り、角の槍で一撃を見舞う。
「そいつも知らねぇぞ!」
しかし、届かない。
傷口から溢れた血液が背中へと回り込み、硬化して盾となる。
それを打ち砕くも背後を取った有利はその時にはもう消えていた。
槍撃を畳みかけるが、キルケのスキルは傷口が多いほど手数が増す。
スキル発動の際に起こった自傷によって、傷口は多数。
単純な接近戦では手数の差が如実に表れて不利だ。
「なら」
再び仮面を変更。
一角獣から犬の仮面へ。
「また変わりやがっただと!」
全身に炎の毛皮を纏い、伸ばした右手から火炎を放つ。
「チィッ! コロコロスキルを変えやがって!」
放った火炎を、キルケは血液の盾でガードする。
けれど、じりじりと端が焦げて灰になっている。
長くは持たない。
「諦めてよ、キルケ! これ以上はキミの体がもたない!」
「はっ! 俺は絶好調だ!」
キルケは更に自傷を加え、更に血液を体外へと放出する。
腕を伝い、指先に触れ、振り抜かれた血の軌跡は三日月の刃となって火炎を破る。
その破滅的な戦い方に焦りを抱きながら攻撃を躱し、睨み合う。
「自分の状態がわかってる?」
衣服はすでに真っ赤に染まり、数多の傷口からは血の触手がうねる。
息も絶え絶え、顔面は蒼白、手足の震えはもう隠しようもないほど。
それでもキルケは平然とした表情で笑っている。
「あぁ、お前よりはな」
「なら、どうしてっ」
「気に入らねぇんだよ。さっきから使ってるそのスキル、全部深層の魔物のもんだ。違うか?」
「そう、だけど」
「俺は深層に挑戦することすら出来なかったのによ」
自傷は続き、背中からも血が噴き出す。
「見せつけやがって! さぞ、愉快だろうな! テメェを追い出した奴が不幸のどん底に突き落とされてよ!」
「そんなつもり――」
「俺はもう無理だ。人を殺した。体も薬でボロボロだ。俺の人生がここで終わりだってんなら、お前を道連れにしてやる」
「させない」
「やってみろ」
説得を最後まで諦めたくはなかった。
けど、もうこれ以上、言葉を交わすことに意味がないように思う。
結局、最後までキルケとはわかり合えなかった。
俺はどこか甘えていたんだ。
最後には望んだ結末が手に入るんだと、これまでみたいに上手く行くんだと、高をくくっていた。
そうじゃない。
キルケは俺の思い通りにはならない。
でも、それでも、かつては大切な仲間だったキルケを死なせたくないんだ。
「シンリ!」
「キルケ!」
俺たちは互いに地面を蹴った。
きっとこれが最後の攻防になる。
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