到着
「シンリさん」
「クク」
急な話にもかかわらず、ククは公園に来てくれた。
知らない面子を前に面を喰らっていた様子だけど。
「ごめん、急に呼び出して」
「いえ、いいんです。それで私はなにを?」
「あぁ、実は――」
俺たちはありのままの事実をククに話した。
これから頼むことは危険を伴うかも知れない。
まずは現状をククに知って貰わないと。
「――だから、なんとしてでも捕まえたいんだ。キルケの居場所を突き止められるのはククしかいない」
匂いによる追跡。
以前、俺の住所を突き止めたように、ククならそれが出来る。
でも、キルケはククにとって見ず知らずの人間で、殺人犯だ。
助ける義理もなければ、関わる必要もない。
けれど、それでもククは数秒ほど目を伏せて答えてくれた。
「わかりました。やります」
「い、いいの?」
「はい。それでシンリさんの役に立てるなら」
「ありがとう、クク」
これでキルケを探しに行ける。
「誰かキルケの持ち物とか持ってない? ハンカチでもなんでもいい」
「それなら僕が持ってる。使いかけの包帯だ。この前、切らした時にもらったんだ。これで匂いを辿れそうか?」
「はい、大丈夫です」
「なら、直ぐに行こう。ランザ、イリーナ、ハルは後から追い付いて。三人ともスキルは高速移動に向いてないから、俺たちで先にいくよ」
「俺たちでって、シンリのスキルもでしょ?」
「あの時とは事情が違うんだ」
蜥蜴の仮面を被って見せ、目配せをした。
それに答えてククも獣化し、俺たちは公園から近隣の建物の屋根へと跳び上がる。
以前の俺では考えられない動きに、三人とも目を丸くして呆気に取られていた。
「クク、匂いは辿れてる?」
「はい。必ず見付け出して見せます」
「頼りにしてるよ」
風に靡く二叉の尾を追い掛けて街を横断する。
キルケとは最初から馬が合わなかった。
友情より悪意のほうが勝るくらいに、俺もキルケのことはよく思ってない。
あのことがあった以前からだ。以後はもっと酷くなった。
でも、それでも、こんな結末は望んでない。
薬物の過剰摂取で昏睡状態も、死も、御免だ。
刑務所で面談ならいつでも出来るけど、死んでしまったら元も子もない。
手遅れになる前にキルケを止める。
薬物で人が壊れるのはもうみたくない。
「この近くです」
立ち止まったのは寂れた建物の上。
赤錆びた屋根が並ぶ魔鋼製鉄所。
使われなくなって久しいのか、人の気配はなくしんと静まり返っている。
人の目から逃れるなら、ここは打って付けだ。
「どの建物にいる?」
「目の前にある一番大きな建物。そこで匂いが留まってます。まだ中に」
「そうか。ありがとう、助かった。ククは来た道を引き返してランザたちをここまで案内して。急ぎすぎて振り切っちゃった」
三人にわかるのは方角だけ。
こっちに駆けつけているのはたしかだろうけど、迎えが必要だ。
「わかりました。皆さんを連れてすぐに戻って来ますから、待機していてください」
「あぁ、逃げないように見てる」
頷き合ってククを皆のもとに返す。
この場に一人きりになった。
「クク、ごめん。俺って堪え性がないみたいだ」
一刻も早く。
建物の屋根から下りて、俺は一人キルケの潜伏場所に足を踏み入れた。
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