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崩壊


 ランザが抜けるのはほぼ確定だ。

 新しくメンバーを募るにしても連携不足は確実。

 また表層で彷徨い、深層にはたどり着けない。

 もっとドーピングドラッグがいる。

 今度は俺だけじゃなくイリーナやハルの分もだ。

 そうでもしないと一生、深層になんて挑戦できない。

 無意識に震える手で通信石を握り締め、薬の売人に連絡を取った。


「来てもらったところ悪いが、状況は更に悪化しててな」


 人気のない暗い路地。

 奴は会うなりそう言ってきた。


「また値上げか」


「あぁ、今回は五十万だ。原材料の群生地が纏めて焼け野原になっちまってな。在庫が底を尽きた」


「在庫が確保できるまでどのくらいかかる」


「見当もつかない。新しく原材料を確保するにしても、商品を作るのにも時間がかかる。当分はこの値段、いや今後もっと釣り上がるだろうな」


「……それじゃ困る。なんとかしてくれ」


「無理だな。というか、長く付き合うつもりはないんじゃなかったのか? これで何本目だ?」


「うるせぇ……」


「そろそろ周りにも隠し通せなくなってくる頃だ。気付いてるか? 顔色悪いぞ、お前」


「黙ってそいつを俺に寄越せ。テメェの仕事をしろ」


「威勢がよくていいな。だが、立場を弁えろ」


「あ?」


「俺は別にお前に売らなくったってなんの問題もないんだ。客はほかにもいる、掃いて捨てるくらいな。俺の気分次第で商品が手に入るか否かが決まるんだ、口の利き方に気を付けろ」


 こんな奴に。

 こんな奴に。


「気分を害した、わかったら詫びを入れろ。嫌ならこれでさよならだ」


 感情が奥底に沈んでいくような感覚がした。

 代わりに現れたのは自分でも驚くほど邪悪な衝動。

 思考も、意識も、体も、それに乗っ取られて指先が急激に冷えていく。

 凍り付いた指先が目指したのは腰に刺したままの剣だった。

 握り締めたらもう、止まらなかった。


「お前、なにを――」


 衝動の赴くままに剣を抜いた。

 肉を割いて骨を断ち鮮血が舞ういつもの感覚。

 違うのは目の前に横たわった肉塊の種類だけ。

 人を、斬った。


「は――ははっ! なんだよ、馬鹿正直に金なんて払わなくてよかったんじゃねぇかよ。あーあ、最初からこうすりゃよかったんだ」


 死体からドーピングドラッグを漁り、その場から立ち去る。

 五本もあった。

 これだけあれば。

 これだけあれば――なんだ?

 俺は今なにをしてる?

 背後から人の悲鳴が響いて俺を追い越していった。


§


「どういうことか説明してくれ!」


「あぁ、そのつもりだ。だが直接会って話したい」


「わかった、今どこだ? 直ぐに行く」


 通信を切ると、すぐに二人と目が合う。

 通信の内容が衝撃的過ぎて二人の存在がすっかり消し飛んでいた。

 そうだ、これからダンジョンに挑戦するんだった。

 けど、流石に今日は行けそうにない。


「ごめん二人とも、急用が出来た」


 財布から金を取り出してテーブルに置き、すぐに席を立つ。


「本当にごめん。後で埋め合わせはするから。それじゃ」


「あ、はい」


「なんなのー? 珍しくない? あんな感じの先生」


「はい、私も初めて見ました」


 喫茶店を出て全速力で駆ける。

 路地に入ると直ぐに蜥蜴の仮面を被り、左右の壁を蹴って屋根の上まで跳び上がる。

 そこから先は屋根から屋根へと飛び移りながら目的地までの最短距離をいく。


「なにしでかしたんだよ、キルケ」


 こんな形で名前を聞きたくはなかった。

 最悪の気分だ。

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