指名手配
俺たちを襲った二人組はやはりドーピングドラッグの関係者だった。
警察の取り調べに音を上げてすべてしゃべったらしい。
詳細は聞かされていないけれど、お手柄だと褒められた。
嫌がらせは成功に終わり、おまけで二人も犯罪者を捕まえられたなんて、正直出来すぎだよね。
お陰でその日の夜は気持ちよく眠ることができた。
「ねぇねぇ、先生。あたしってかなり出来る子でしょ?」
それから数日ほどたったある日の喫茶店。
ノアはテーブルに手を突いて身を乗り出し、そう訪ねてきた。
「どうしたの? 急に」
「こーたーえーてー」
「そりゃ出来る子だよ、学生とは思えないくらいにね」
ルーキーが見たら自信を無くすくらいには出来る子だ。
ククとも甲乙付けがたいくらい。
「そうでしょう、そうでしょうとも」
「これ今なんの時間?」
「それじゃあさ」
前のめりを止めて席に着き、珍しく畏まった様子で視線が合う。
「あたしも先生のパーティーに入れて?」
「……あれ、入ってなかったっけ?」
「へ?」
「いや、待ってよ。えーっと……ホントだ、そう言う話はしてなかったね。ウェントゥスとか他の魔物とも色々戦って来たから、すっかりパーティーメンバーのつもりでいたよ」
「えー!?」
ノアはまた前のめりになって、手をついて拍子にグラスが小さく跳ねる。
散った飛沫が結露した雫に少しだけ混ざった。
「お店の中ですよ。他のお客さんに迷惑になります」
ノアが鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしているとククが合流した。
「だ、だって」
「なんの話をしていたんですか?」
「あぁ、ノアがパーティーに入りたいって」
「……入ってませんでしたっけ」
「ククちゃんまで!」
どうやらそのつもりじゃなかったのは当の本人だけみたいだった。
「信じられなーい! あたしなりに勇気を振り絞ったのにー! 断られたらどうしようって不安だったのにー!」
「ノアさんでもそんな風に不安がったりするんですね」
「当たり前でしょー。あたしまだ十代だもん。感情が不安定な年頃だもん」
とてもそうだとは思えないほどの自由奔放さ加減だったけど。
でも、確かにノアはまだ学生だ。
並以上の戦闘力を持っていて優秀過ぎるあまり忘れそうになる。
悩みもするし、不安にもなって当然だ。
まぁ、それは子供に限った話じゃないけど。
「悪かったよ、ノア。じゃあ、新ためてよろしく頼むよ。パーティーメンバー」
「よろしくお願いします。ノアさん」
「ふふん。そこまで言われちゃしようがないなー」
「すぐ調子に乗る」
「それもあたしの魅力でしょー?」
こうしてノアが正式にパーティーに加わった。
俺たちからしたら今更なことだけど、こういうことははっきりとさせておいたほうがいい。
嫌がらせに協力するための一時的な加入ではなく、きちんとした仲間だ。
そう胸を張って言えるようになったんだから。
「歓迎会はいつ?」
「それ自分から言う? まぁ、するけど。そう言えばククの時もしてないから、二人同時にか……あ、この前の冒険者ポイントの件! その商品ってことで! はい、決定!」
「あ! ずるい!」
「うまくやられてしまいましたね。けど、それならもちろん」
「あ、そっか。先生の奢りじゃん! やったー!」
「まぁ……しようがない。飲みましょう」
「いえーい!」
ククとノアがハイタッチを交わす。
大丈夫、蓄えはあるし、当日は財布を太らせておかないと。
「どこのお店にしよっかー? ククちゃんおすすめとかある?」
「それなら少し前にオープンした――」
二人が会場を話し合っている間に、ポケットの通信石が震動する。
それを耳元に持っていき通信に応えると、すぐに声が響く。
「シンリか!? ヤバいことになった!」
「ヤバいこと? とにかく落ちつけ、なにがあった?」
「キルケが指名手配された」
思わず自分の耳を疑った。
嘘であってほしい。
聞いた言葉を直ぐには信じられなかった。
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