表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/37

仮面の力


「どうしてこんなものが?」


 手を伸ばし、指先で触れるとたしかに実体がある。

 不意に現れた謎の仮面、普通なら気味悪がって直ぐに捨ててしまいそうだけど。

 何故だか今はそんな気がしない。

 寧ろ、不思議と被って見たいと思うくらいだ。

 手に取るともう止められない。

 両手で顔を覆うように、蜥蜴の仮面を付ける。

 瞬間、体中を未知の感覚が駆け巡った。


「なっ、なんだ、これ!?」


 何か得体の知れないものが体の内側で乱反射している。

 降れば音がなるオモチャになって気分だ。

 けれど、その感覚も数秒と経たずに終わり、体に馴染むように消え去った。

 後に残されたのは顔を覆う奇妙な蜥蜴の仮面のみ。


「いったいなにがどうなって……あれ?」


 気がつく。

 先ほどまで感じていた痛みがなくなっていることに。

 頬で、肩で、四肢で、脈打っていた傷が綺麗さっぱりなくなっている。

 残っているのは乾燥してひび割れた血だけで、その下には痕すら残っていない。

 急激な治癒。

 これには見覚えがあった。


「まさか、これって……」


 リザードマンの特筆すべき再生能力。

 この蜥蜴の仮面の出自を考えれば自ずと答えは出る。


「リザードマンの力を宿してる?」


 結論に辿り着いた刹那、またしてもスキルが警鐘を鳴らす。

 振り返った先にいたのはもう一体のリザードマン。

 握り締められた金属片が投擲された直後だった。

 視界を覆う鈍色の弾幕を前に取った回避行動はすべてを完璧に躱して見せる。


「わお、今の動きなに!?」


 やけに体が軽くて自分の想像よりも良い動きが出来る。

 けど、今はそれを気にしてる余裕はない。

 更に投擲される金属片をも躱してリザードマンの間合いへと踏み込む。

 両手を添えた一撃を見舞われるも、今度はそれを片手の一振りで弾いて見せる。

 怯んで後退ったところへ強力な一撃を見舞い、その首を刎ねた。


「間違いない。身体能力も上がってる」


 ただ仮面を被るだけでリザードマンの能力を手に入れられる。


「セカンドスキル。まさか本当に発現するなんて……でも、ちょっと遅かったかな」


 もう少し早く発現してくれていればもしかしたら、なんて。

 今とは違う未来を想像して、すぐにそれを振り払うように首を振る。


「らしくないな。未練なんてないはずだろ」


 たらればの話をしてもしようがない。

 道は違えた、もう交わることはないんだ。

 今はこの道を前に向かって進まなきゃ。


「この仮面を被っている間はスキルもうるさくない」


 ここで言うスキルはファーストのほう。

 とにかく、それだけ自身の戦闘面が強化され、脅威となる対象が減ったということ。


「これなら一人でも脱出できるかも。いいね、希望が見えて来た!」


 二体のリザードマンの死体を置いて来た道を戻る。

 深層から脱出するために向かうべき方角は大方の見当が付く。

 冒険者に必須の方向感覚はこの日のために鍛え上げたと行っても過言じゃない。

 自分を信じて道を選び、地上へと足を進めていく。

 これ本当にちゃんと地上に向かってるのかな? なんて疑心暗鬼にも、ほんのちょっとだけ陥りつつも進んでいると、通路の奥から異音が反響してくる。

 自然界では発生し得ない類いの甲高い音が、不規則なリズムで耳に届く。


「戦闘音……助かった!」


 この先に冒険者がいるはず。

 事情を話せば地上まで連れていてもらえる。

 なんなら探索の手伝いをしたっていい。

 とにかく人に会えたのは僥倖だ。

 足は自然と大きく動き、通路を駆け抜ける。

 辿り着いたのは広く空けた空間。足下はいつの間にか草木が生い茂り、側には見上げるほどの木々の群れ、鬱蒼としていて視界は悪く、戦闘音だけがそれらをすり抜けてくる。


「あっちだ!」


 草木を掻き分けて、土を蹴散らして、念のために剣も抜いて戦闘音がするほうへ。

 戦闘の最中なら加勢して、終わっていたらお願いをしよう。

 そう決めて音源の元に辿り着く。

 結果から言って、戦闘は終わっていた。

 荒ぶる火炎が冒険者を包み、装備を焼き払い、肌を焦がす。

 冒険者が敗北する様を目の当たりにした刹那、俺は駆けだしていた。


「こっちだ!」


 火炎が冒険者の命を燃やし尽くす前に大声を張り上げて気を逸らす。

 目論見通り、火炎は途中で掻き消え、魔物の双眸がこちらを睨む。

 鋭い牙と爪を持ち、炎の毛並みと火の瞳を持つ犬。

 ヘルハウンド。

 森に居ながら植物が燃えないのは対象を取捨選択しているからだという。

よければブックマークと評価をしていただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 一人称視点なのに、内心が逐一「」で書かれているのが小説の表現として奇妙。 それとも、異常なまでの独り言大好き人間なのだろうか?敵地で騒音を出して先手を取らせるマヌケという事になるので…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ