制空権
飛翔したウェントゥスに制空権を取られ、花畑に影が這う。
頭上への攻撃は容易ではなく、上空から降り注ぐのは鎌鼬の雨。
形勢は一気に傾いて不利となる。
ウェントゥスは俺たちが死ぬか逃げるまで地上には下りてこない。
「集合!」
「わーい、あつまれー!」
「到着! しました」
側に二人が揃ったのを確認して、頭上に光盾を展開。
雨の如く降り注ぐ鎌鼬を弾き、一先ずの安全を確保する。
「さてさて、ここまでは作戦通りでいい感じー」
「ここからも作戦通りに行こう。まぁ、大したものじゃないけど」
「そんなことありません。私やノアさんでは立てられない作戦です。もっと自信を持ってください」
「ありがと、じゃあ自信満々で行こうか」
光盾から二人が抜け、ノアが先に仕掛ける。
「ビリビリどっかーん!」
稲妻が落雷を喚ぶ。
上空に鎮座するウェントゥスの更に向こう側、天井スレスレに出現する雷球たち。
それらは轟音を響かせ、天井と地面を一条の光で結ぶ。
いくらウェントゥスでもこの落雷の最中を片手間で飛行するのは不可能。
降り注いでいた鎌鼬は止み、待ってましたとばかりにククが跳ねる。
いくらスキルで獣化しているとはいえ、その跳躍力にも限界があるのは当然。
跳ねたククの剣は、ウェントゥスに届かない。
なら、空中に足場を用意すればいい。
「キャットタワーだ!」
光盾を大量展開。
宙に個体されたそれを足場に、ククが空中を駆ける。
光盾の足場はそのままウェントゥスの飛行妨害にもなる一石二鳥の構え。
轟く落雷、空中を駆けるクク、配置された光盾。
こうなってしまえば空中も手狭だ。
ククの拳がウェントゥスを捉え、光盾に叩き付けるとその勢いのまま蹴りを見舞う。
大きいのが二つ入ったところで、追い打ちを掛けるように落雷が降る。
稲妻に焼かれて光に包まれたウェントゥスは、両翼を羽ばたくこともなく真っ逆さま。
その嘴で地面を穿つかに思われたが、次の瞬間には息を吹き返す。
ククも光盾もない地面スレスレを滑空し、狙いは俺に定められた。
落雷を華麗に躱して迫り来るウェントゥスを前に、こちらも勝負を付けにいく。
「盾の使い道は一つじゃない」
光盾を展開。
ただし、横にではなく縦に。
防御ではなく、攻撃のために。
光の盾は薄く研ぎ澄まされた剣となる。
突如として現れた、視界を左右にわかったそれに、ウェントゥスは為す術もない。
真正面から突っ込み、光盾によって真っ二つに引き裂かれた。
二分された死体が、俺の頭上を通り過ぎていく。
俺たちの勝ちだ。
「ひゅー! 先生、やるー!」
「お疲れ様です。お見事でした、スキルをあんな風に使うなんて」
「思いつきが上手く行っただけだよ。二人とも怪我は?」
「んーと、擦り傷がちょこっとだけ」
「私も大きな怪我はありません」
「よかった。ダンジョンを出たら蜥蜴の仮面を貸すよ」
「ありがとうございます」
「貸す?」
またまたノアが小首を傾げたところで二分されたウェントゥスの亡骸から輝きが登る。
形になったそれを手繰り寄せ、新しく鳥の仮面を手に入れた。
「さて、と。じゃあ、花畑に火を放とうか」
「言ってることやばー」
「ノアさんが言います? そのセリフ」
一度、通路まで退散し、花畑に火をつける。
あっという間に炎は燃え広がり、燃える花弁が舞い上がっては落ちることなく尽きていく。犬の仮面を外して見た景色はどこか破滅的な魅力があって魅入られそうになる。
まぁ、だからと言って放火魔になんてならないけどね。
「これすこしは気が晴れたかな」
「そうですね。ここに咲いていた分だけは製造を阻止できましたから」
「あたしはまだまだだけどねー」
燃える花畑を眺めながらノアは言う。
「ねぇねぇ、二人とも。もうちょっとあたしに付き合ってよ。まだ花畑の在処に心当たりがあるんだよねー。どう? うんって言ってくれたら嬉しいんだけどなー」
俺とククは顔を見合わせる。
答えは決まっていた。
「うん」
「あはは! そう来なくっちゃ!」
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