不意打ち
通路を進み、広く空けた空間に出ると、そこには一面の花畑が広がっていた。
以前、ユニコーンと戦った湖畔と同様、天井には光る鉱石がちりばめられている。
そのお陰もあって花は綺麗に咲き誇り、写真でもとって切り抜いておきたいくらいだ。
けれど、この花のせいでディランが死に、コリンが病院送りとなった。
確実に焼き払わなければならない。
「いた、ウェントゥスだ」
翡翠色の羽根に覆われた一羽の魔鳥。
花冠のような巣に鎮座し、周囲を常に警戒している。
巣の隣りには当面の食糧であろう大量の魔物の死体が転がっていた。
ウェントゥスは母親のみが子育てを行う魔物だ。
たしか雄の個体数が極端に少ないのが原因だとかなんとかって話だったはず。
人にも魔物にも色んな事情がある。
俺たちは俺たちの事情で仕事に取りかからせてもらおう。
「準備は?」
「オッケー!」
「私も大丈夫です。いつでも始められます」
「よし、じゃあ各自作戦通りに。と行きたい所だけど」
その前に一つやることがある。
「ウェントゥスは風の流れで相手の動きを読むって話だから不意打ちは効果的じゃないけど」
一角獣の仮面を被り、右手に角の槍を顕現させる。
「一応、試してから始めよっか」
握り締め、駆け、勢いを付けて投擲。
角の槍は回転しながら矢の如く放たれ、ウェントゥスを急襲する。
けれど、やはり不意打ちは効果が薄かった。
角の槍は獲物を貫く寸前で嘴に咥えられてしまう。
「やっぱりダメみたい。行こう!」
「突撃ー!」
花畑を踏み荒らし、花弁を散らしながら接近。
角の槍を投げ捨てたウェントゥスは翡翠色の大翼を広げて見せた。
当初の予想通り、突風でこちらを吹き飛ばすつもりだ。
「クク、ノア、頼んだよ!」
「任せてください」
「お茶の子さいさーい!」
作戦続行。
ククとノアは二手に分かれてスキルを発動。
全速力で駆け、ウェントゥスを左右から挟み撃ちにする。
こうなってしまえば狙いはどちらかにしか付けられない。
「どっち狙ってもいーよー!」
ウェントゥスが翼を振るった先は、ノアだった。
稲光と轟音が気を引いた様子。
翼で煽られて吹く突風。それには数多の鎌鼬が含まれている。
まともに食らえば吹き飛ばされた先で斬り刻まれてしまう。
そうなる前に、俺は被っていた仮面を一角獣から甲羅へと変更する。
「ノア!」
「はいはーい!」
甲羅の仮面がもつ能力は光盾。
光の壁を立てて安全圏を確保、ノアはそこへと滑り込む。
周囲の花の地面が斬り刻まれる中、光盾の後ろだけが無傷でいられる。
「あれれー? いくら魅力的でも、あたしに見取れてていーの?」
光盾に守られているノアに躍起になるウェントゥス。
その背後で二叉の尻尾が揺れる。
今更気配を感じ取ってももう遅い。
鋭く重い蹴りの一撃がその首を捉えて吹き飛ばす。
羽根を散らして花畑を転がったウェントゥスは、即座に体勢を立て直して両翼を薙ぐ。
巻き起こされた突風とククの間に割って入り、光盾で鎌鼬を遮断。
ククの着地点を確保した。
「ありがとうございます、助かりました」
「どう致しまして。だけど、流石にタフだね」
「折ったと思ったのですが……」
ウェントゥスはまだピンピンしている。
それどころか巣から退かされたことで更に元気になってるみたいだ。
邪魔者を排除して直ぐに卵を温めなければ、そんな気迫が伝わってくる。
ここからのウェントゥスに行動制限はない。攻撃もより苛烈になってくるはず。
「やあ、お邪魔してるよ。ちょっとものは相談なんだけど、お宅のカーペット燃やしてもいいかな?」
返事は咆哮になって帰ってきた。
「良いって」
「絶対に言ってませんよ。魔物の言葉はわかりませんけど、確実です」
「あはは! 顔面にパンチされちゃうよー」
「それは勘弁」
ウェントゥスは両翼を羽ばたいて風を地面に叩き付けて飛翔する。
ここからが本番だ。
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