サポート
「わーお、深層ってこんな感じなんだー。あたしはじめてー」
「普通は学生が来られるような場所じゃないからね」
「やーん、あたし普通じゃなくなっちゃったー。あはは!」
深層に入ればノアもすこしは大人しくなるかと思ったけど違ったみたい。
緊張と恐れで体が硬直するよりは余程いいけど。
「おっと」
直感が働いて、足が止まる。
そんな俺にノアは小首を傾げ、ククは察して剣を抜く。
「どこから来ますか?」
「正面から。何体かいるかも。ノアも構えてくれ」
「なるほど、敵襲か。りょうかーい」
ノアも腰の剣を抜いたところで通路の奥から魔物が現れる。
リザードマンの群れだ。
すでに仮面を持っているからと言って、油断していい相手じゃない。
どんな魔物が相手でも舐めて掛かるのは三流冒険者、ましてや深層なら尚更だ。
「やあ、蜥蜴くんたち。キミたちと前にした約束だけど、ごめんね。まだハエも蝶々も捕まえられてないんだ。二人はどう?」
「生憎と」
「あたしもー」
「だ、そうだよ。悪いね、今回もお引き取り願おうか」
縦長の瞳孔をした瞳が見開かれ、鋭利な牙の並んだ口腔から咆哮が響く。
それを開戦の合図としてリザードマンたちが一斉に地面を蹴る。
「リザードマンの対処法知ってる人」
「再生能力が高いので急所を狙って一撃で仕留めます」
「大正解! ククに十ポイント」
「あーん、出遅れちゃった!」
迫り来るリザードマンに応戦するため、こちらも攻撃を仕掛けにいく。
獣化し、雷を纏う二人の背中を追う形で前進。
本当は先陣を切りたいところだけど今回は数が多い。
俺は一歩引いたところで戦局を見極め、二人のフォローに回ったほうがパーティーとしていい動きが出来そう。
「ククちゃんにポイントリードされたし、あたしが一番乗りー!」
「なんのポイントですか? これ」
「冒険者ポイント?」
「とうの本人が曖昧じゃないですか」
なんて話しているうちに稲妻がリザードマンの群れに突っ込む。
電光を纏った剣が残光を引いて馳せ、蜥蜴頭が宙を舞う。
「いいね、ちゃんと急所を一撃。ノアに十ポイント」
「やったー! 同点、同点!」
「もう何がなんだか。でも、負けるのは普通に癪なので頑張ります」
二叉の尻尾が揺れて、ククも参戦。
その身体能力を生かした剣撃で心臓を二枚抜きにした。
「これで逆転ですよ」
「なにをー! ククちゃんやるねー! あたし負けないよー!」
次々とリザードマンたちが斃れていく中で、持ち前の再生力を持って生き残った個体がいる。彼らは瞬く間に傷を再生させると仲間の仇を討たんと好機を待つ。
背を向けた瞬間、一息に。
それが生き残ったリザードマンの狙いだろう。
そこを潰すのが俺の役目だ。
「俺のこと忘れてた?」
二人が派手に暴れるほど、注目を集めるほど、俺の姿は見えにくくなる。
不意打ちなんてさせない。
蜥蜴の仮面を被り、蜥蜴を背後から一突きにして心臓を破る。
これを二人分頑張らなきゃだけど、苦労の甲斐あってリザードマンの群れはみるみる打ちに数を減らした。
「終わったー! これにてしゅーりょー! 気になる二人の得点はー?」
「二人ともよく頑張りました。同点ってことで」
「えー!? あたしのほうが絶対ポイント多いよー」
「なに言ってるんですか。私のほうが多いに決まってます」
「あれ? なんか思ったより白熱してた? もしかして」
ただの思いつきで深いことはなにも考えてなかったんだけど。
強いて言えばやる気に繋がればと思ってたくらいで。
「むーん、まぁいっか! それで賞品は?」
「しょうひん?」
「勝者には賞品が付き物でしょ? なにかな、なにかなー」
「えーっと」
「シンリさん」
「はい」
「期待してます」
「そんなククまで」
思いつきが思わぬ出費に繋がりそうだ。
なにもなしじゃ二人とも納得しなさそうな雰囲気。
まぁ、しようがない。言い出した俺が悪い。
何を賞品にするかは追々考えるとして。
「この先が例の花畑?」
「そのはずだよーん」
なんだかんだで、目標地点にまで辿り着く。
この先にウェントゥスがいる。
「考えたんだけど、花畑を毒で汚染するのはどう?」
「うーん、良い案だけど。万が一、毒の環境に適応しちゃったらもっと強力な薬物が出来ちゃうかも。確率はかなり低いけどねー」
「万全を期すにはやっぱり焼くしかないか」
「戦うほかありませんね」
この時期のウェントゥスは卵を温めているから意地でも巣から離れない。
鬼の居ぬ間にってことも無理筋だ。
覚悟を決めて進むしかない。
よければブックマークと評価をしていただけると嬉しいです。




