懸念点
「えーっと、ノア? 俺はもう引率の先生を退職したんだけど」
「うん、知ってるよー、でも先生も気になるでしょ? コリンくんをあんな風にしたドーピングドラッグの原材料」
「原材料?」
「そう! えーっと……あった! じゃーん。これなーんだ?」
取り出されたのは何らかの液体が入った小瓶。
「香水じゃないよね。ってことはまさか!?」
「大せーかい! ドーピングドラッグでーす」
「どうやってそんなものを……」
「あはは、学校に戻ってすぐコリンくんの持ち物が回収される前にこっしょり」
「犯罪だよ」
「見逃して?」
「ダメ」
ノアからドーピングドラッグを奪う。
「あーん」
「面倒を見たよしみで警察には突き出さないであげる。これは俺が責任をもって処分するから、いいね」
「いいよ-、もう分析も解析も完了してるし」
「なんだって?」
「原材料さえあれば量産可能ってことー」
語尾に星マークがついてそうなくらい、軽くとんでもないことを言う。
手元のドーピングドラッグに目を落とすと、小瓶に半分くらいの量しかない。
元々、このくらいだと思っていたけど、これ減ってたのか。
「ノア?」
「だいじょーぶ。悪いことはしないよ。先生に失望されたくないしー」
「もうかなりしてるけど」
「やだー、取り戻してー!」
「それはこの後の言動に掛かってる」
割とマジで。
「本当に悪いことするつもりはないんだってー。あたしはただ嫌がらせがしたいだけ」
「嫌がらせ? 誰に」
「ドーピングドラッグを作った人たちに」
ノアは捕らえ所のない性格をしている。
不真面目でマイペース、毒気のある言葉も平気で使し、思ってもないことを言う。
けれど、今回に限って彼女の言っていることは本心だ。
その目がそう言っている。
「ドーピングドラッグの原材料はね、ダンジョンの深層に咲く花なの。だからね、先生。あたしのお願いって言うのはその花畑を焼き払って欲しいってこと」
「ノア」
「もちろんわかってるよ。全部なんて無理だってこと、だから嫌がらせするの。コリンくんのためにもね。あはは! あたしって仲間思い-!」
最後にはいつもの調子に戻ったけれど、ノアの言葉に偽りはない。
クラスメイトであり、同じ班の仲間がドーピングドラッグのせいで意識不明になった。
言わばその原材料となる花は仲間の仇だ。
そしてそれは俺にとって旧友の仇でもある。
「わかった。ノアの願い聞いてあげるよ」
「あはは、先生ならそう言ってくれると思った。あたしの予想通りー」
「ただし、前と同じだよ。俺の指示には従うこと」
「アイアイサー!」
本当にわかってるのか不安だな。
でも、その原材料になる花の見分けがつくのはノアだけだし、連れて行かないわけにもいかない。間違えて別の花を燃やしたら、それはただの環境破壊になってしまう。ノアを伴ってダンジョンに挑むのは必須。
だけど、深層か。
ククと二人で脱出したことはあるけれど、それっきりだ。
今回は三人とはいえ、行って戻る必要がある分難易度が高い。
パーティーとして挑むのはまだ先のことだと思っていたんだけれどね。
「あ、そうだ。勝手に決めちゃったけどククにも了承を得ないと」
「私がどうかしたんですか?」
「わっ!? いたの?」
「はい。ついさっき到着しました。それで」
ククの視線が俺からノアに移る。
当の本人は暢気に手を振っていた。
「どうしてノアさんが?」
「それはね――」
また一からククに説明をする。
「なるほど、わかりました。そう言うことであれば私も異存はありません。深層というのがすこし不安ですけど」
「あ、そうだ。不安と言えば懸念点が一つありまーす」
「これ以上どんなことを言うつもりなの? ノア」
「実はその花畑、魔物の巣になってるんでしたー、あはは」
深層の魔物の巣。
これはまた大変なことになりそうだ。
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