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ベテラン


「シンリ先生、無事か! 援軍に来た――ぞ?」


「えっと、もしかしてもう終わった?」


「はい、まぁ」


 先に逃がしたククたちに追い掛けようとした矢先、他の引率の先生たちがやってくる。

 手に剣を握り締め、盾を構え、押っ取り刀で駆けつけてくれたみたいだ。

 先生たちにも受け持ちの生徒がいたのに。

 時すでに遅しだけど、助けに来てくれたことはとてもありがたかった。


「クク……生徒たちから話を?」


「あぁ、偶然あってな。あんたを助けてくれって頼まれたんだ。安心してくれ、全員無事だ」


「そうですか。はぁ……よかった……」


 引率の先生としての責務をきちんと果たせた。

 ククたちにも感謝しないとな。


「しかし、はっはっはー! とんだ笑い話だ。助けに来たのにもう終わってたとはな」


「いや、しかし驚いたな。相手はファランクスだったんだろう? よく一人で。いや、ホント凄いな」


「ねぇ、今のパーティーに満足してる? もしよかったら私のパーティーと一緒に仕事してみない?」


「おいおい、こんなところで勧誘はよせ。とにかく、無事だったんだ。早いところを地上まで送り届けるぞ」


 ご厚意に甘えて地上まで送り届けてもらうことに。

 他の引率の先生はベテラン揃いで歳も一回り以上違う。

 倍にしても届かない人も少なくない。

 なんだかこうしていると学生時代に戻ったような感覚がして懐かしい気分になれた。

 久しく忘れていた頼れる大人に守ってもらえる感覚。

 こんなに安心できるものなんだ。

 俺もククたちにそんな安心感を与えられていたらいいんだけど。


「――シンリさん!」


 ダンジョンから無事に脱出すると、待っていてくれたククの体当たりを喰らう。

 戦闘服を握り締められ、胸に頭突きのおまけ付き。

 ぜんぜん痛くないし、勢いだけ。

 体は震えていた。


「よかった……本当によかった」


「俺が負けると思ってた?」


「そんなことはないです。ないですけど」


「心配かけたね」


「……はい」


 どうやら俺はまだまだみたいだ。

 ベテランの先生方みたくなれるのはまだ先みたい。

 俺も精進しないと。


「はいはーい、いちゃいちゃタイムしゅーりょー」


「い、いちゃいちゃなんてしてません!」


「そうか? 人前で随分大胆だと関心したもんだけどな」


「してませんってば!」


 からかわれて元気が出たのはククの震えが止まる。

 こう言う時、仲間がいると心強い。


「ノア、ガルド。二人とも無事でよかったよ」


「おう」


「ふふーん、当然!」


 当然だけど、この場には一人足りない。


「コリンはどうなった?」


「さっきまで医療テントにいたよー。もう病院送りになったけど。あとはお医者様にお任せー」


「そっか」


 コリンがなぜ薬物に手を出したのか。

 その理由を赤の他人が断定することはできない。

 人間生きていれば困難なことばかりだ。

 学業、恋愛、友情、将来、あらゆる出来事に襲われる。

 理由として挙げるにはどれも十分過ぎた。

 だからと言ってコリンの行動を認めるわけにはいかないけど。


「先生も戻って来たことだし帰っていいか? 俺。生徒全員が出てくんのを律儀に待ってる必要もねぇだろ」


「ダメです。先ほどダリル先生が事情を聞きたいと言ってましたから」


「マジかよ。面倒くせぇ、それに三人も四人もいらなくないか?」


「そーだ、そーだ! 帰らせろー!」


「わ、私に言われても困ります」


「ダリル先生が……」


「どうかしたのー? シンリ先生」


「いや、別に」


 ディランのこともある。

 今この場で一番事情が聞きたいのはダリル先生に違いない。

 起こってはならないことが起こってしまった。

 まだ学校に在籍していて、毎日顔を合わせ、言葉を交わした幼い生徒が犠牲になった。

 もう意識が戻らないかも知れない、死ぬかも知れない。

 ダリル先生の心中を察するにあまりある。


「お前ら、ちょっと来い」


「はい」


 心なしか年老いたように見えるダリル先生に呼ばれてテントの下へ。

 コリン、ちゃんと目を覚ますといいけど。

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