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石の巨人


 当初の予定通り、俺たちの班はダンジョンの方々を巡る。

 巻き起こる危険は直感で予知し、対処できそうなら見守り、ダメそうなら回避を徹底して課外授業を進めていく。その甲斐あってみんな大した怪我もなく順調に資源は集まっている。

 ただ問題があるとすればやはり。


「よう、先生。ちょっと不味くねぇか?」


「奇遇だね。俺もそう思ってたところ」


 コリンの様子が可笑しい。

 冷や汗を掻き、貧乏揺すりが止まらず、極端に音に敏感で、血色が悪い。

 戦闘を終えるたびに症状は酷くなっていく一方。

 にも関わらず戦闘面では不調を一切感じさせないでいる。

 動きのキレなら他の三人を上回るほどだ。

 嫌な可能性が脳裏を過ぎる。


「あたしが聞いたげよっかー? お注射何本打ったのー? って」


「……確かめてみよう」


 残酷なようだけど、ククに頼んでコリンの気を引いて貰っている。

 俺はその場にそっと近づいて、コリンの左手を取った。


「え?」


 反応すら許すことなく、即座に戦闘服の袖を捲り上げる。

 そこにはやはりあった。

 あって欲しくはなかったけれど。

 注射痕が幾つもある。


「こ、これはッ!」


 すぐに手を振り払ったコリンは隠すように袖を戻すがもう遅い。

 俺を含めて全員がその身に刻みつけられた証拠を見た。

 コリンはドーピングドラッグで身体能力を底上げしている。


「言い逃れは出来ねぇな、こりゃ」


「ちがっ、違うんだ!」


「あーあ。コリンくん、そう言うことする人だったんだー」


「お、俺はただ……ククさん!」


 救いを求めるようにコリンはククを見つめる。

 けれど、ククは何も答えずただ視線を逸らした。


「そんな――あぐッ!? あぁあああ!」


 響いた奇声が俺たちを身構えさせる。

 コリンは突然苦しみ出し、周囲の岩石が渦を巻く。

 それは歪に、デタラメに組み上がり、人のようなものを形成する。

 見上げるほどの石巨人が目の前に立つ。


「スキルが暴走してやがる。これも薬物のせいか?」


「かもねー。どうする? シンリ先生」


「どうするもこうするも助けるしかないでしょ」


 あれ? 引率の先生ってこんなに大変だったっけ?


「来ます!」


 出来の悪い腕のようなものが振り下ろされ、一斉に回避行動を取る。


「とにかくコリンを引きずり出さないと! 一生石の中にいるなんて可愛そうだ!」


「引きずりだすったってどうやって!」


「見てわからない? 岩を攻撃するの!」


「あっはっはー、わっかりやすーい!」


「二人ともわかってるとは思いますけど、コリンくんに当たらないように注意してください」


「それはコリンくんの機嫌次第かなー」


 各自、別れてスキルを発動。

 複数の光剣が石巨人の片腕を貫いて落とし、轟いた雷撃がもう片方を落とす。

 痛手を負わせたが足りない。

 失った両腕を修復しようと、ダンジョンの壁が引っぺがされる。

 しかし、宙を舞う岩石の最中を駆けたククが顔面を吹き飛ばしたことで体勢が大きく崩れ、元々の作りがデタラメだったこともあって腰の辺りから折れる。


「チャンス!」


 下半身を残して仰向けに倒れた石巨人の上に乗り、一角獣の仮面を被る。

 右手に顕現した角の槍を振りかざし、優しい光りが石巨人を包む。


「ダメか」


 だが、スキルの暴走は止まらない。

 薬物は病気でもなければ毒とも見做されない。浄化は不可能。

 本格的にこの石巨人からコリンを引きずり出すしかなくなった。


「しようがない。こうなったら荒療治だ」


 顔に手を翳し、仮面を変更。

 一角獣から蛇へ。

 両手から滴り落ちる濁った色の毒液。

 それを大量に浴びせ掛け、歪に繋がった岩石の隙間から侵入させる。


「うおっ!? なんだこれ、毒か!?」


「ウェネーヌムの毒です! 毒耐性のポーションもないので絶対に触れないで!」


「そんなの浴びせて大丈夫なのー? スキルの暴走はー……一応、収まってきたけど」


「大丈夫です。絶対に」


 浸透した毒が岩石を侵食して脆くする。

 スキルの暴走も収まったところで毒を解除。

 脆くなった岩石を砂に変えながらコリンを探す。


「どこ? 速く見付けないと、宝探しは得意でしょ、俺!」


「シンリさん! ここにいます!」


「よく見付けた、クク!」


 ククの元に駆け寄って砂に埋もれたコリンの側へ。

 薬物と毒の影響でかなり疲弊してるけど、まだ息はある。

 直ぐに仮面を一角獣に変更。ウェネーヌムの毒を浄化した。


「はぁ……これで大丈夫なはず。だけど、直ぐにダンジョンから連れ出さないと」


「途中リタイアか。まぁ、しようがねぇか」


「命には代えられないもんねー……あーあ、後でちゃんと埋め合わせしてもらわないとー」


「とりあえず治癒のポーションを飲ませました。すぐに移動しましょう」


「よし、それじゃあ――」


 直感が告げる。


「冗談でしょ」


 新たな危機の到来を。


「ガルド! コリンを担いで! なにか来る!」


「マジかよ、くそッ」


 腕を首の後ろに通してガルドはコリンを担ぐ。

 その瞬間、ダンジョンの壁を突き破って魔物が現れた。

 それは城のように堅牢な甲羅を持つ亀。


「ファランクス!」


 本来、ダンジョンの表層にはいないはず。

 石の巨人が暴れたせいで深層の魔物を引き寄せてしまった。

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