班行動
「ねぇねぇシンリ先生。ククちゃんとはどーいう関係?」
「どういう関係とは?」
「なーんか怪しいんだよねー。初対面じゃないのは明らかだし。あのクールなククちゃんが珍しい顔してたし。ねぇねぇ、なにかあるんでしょー? 教えてよー」
「好奇心は猫をも殺すって言葉知らない?」
「猫はあたしじゃなくてククちゃんだもーん」
はぐらかせそうにない。
またちらりとククを見ると、諦めたように頷いた。
「まぁ、必死に隠すほどでもないか。実はパーティーを組んでるんだ、二人で」
「そーなの? なーんだ、期待してたのと違ーう。もっと人に言えない関係だと思ってたのにー」
「世間様にバレて困るようなことは何一つしてません」
「縁故採用ってことか? おいおい、そんなのが引率で大丈夫かよ」
「縁あっての採用ではあるかな、卒業生だし。でも、安心して。ちゃんと実力も買われてるから」
丁度良く、直感が魔物の存在を教えてくれる。
「ストップ。みんな戦闘準備」
「あ? 魔物の気配なんてどこにも――」
「ガルド、一歩下がって」
意外にも素直にガルドは下がり、先ほどまで立っていた位置に異変が起こる。
石畳みの地面を砕いて伸びた泥の手。
虚空を掴んだそれは指を開いて、手の平にある瞳でこちらを睨む。
「マッドフィンガーだ! 凄ーい、あたし全然わかんなかったのに!」
「……言われなかったら地中に引き釣り込まれてたな」
「反省はあと、まだまだ来るよ」
不意打ちが失敗に終わり、マッドフィンガーは仲間を呼んだ。
次々に地中から這い出てくる泥の手の数々。
ざっと十数体はいて、まだまだ数が増えていく。
「さぁ、握手会の開催だ。ちゃんと神対応してあげてね」
「はっ、神対応ね」
「あはは! いいよー、とびっきりのファンサしてあげちゃう!」
「張り切るのはいいですけど、事前に決めた役割を忘れないようにしてくださいね」
「わかってるよー、ククちゃんは心配性だなぁ」
「だと良いんですけど」
「おい、コリン。大丈夫なんだろうな」
「うん、行けるよ。俺のことは気にしないで」
「そうか? ならいいけどよ」
やはり若干、体調が悪そうなコリンだけど問題はないかな。
マッドフィンガーは不意打ちが怖いだけで正面からやり合うなら弱い魔物だ。
攻撃も打撃のみで致命傷になり難く、長く伸びた腕を断てば一撃で仕留められる。
「よーし! じゃあ、行っくよー!」
「斬り込むのは俺の仕事だ。一番乗りは貰ったぜ!」
先陣を切ったガルドの周囲に光が集う。
スキル【光剣】は剣を生み出す能力。
彼の周囲に複数の光りの剣が現れ、それを振り回すことでマッドフィンガーを斬り刻んでいく。
「あーん! あたしの出番がなくなっちゃうー! あたしもあたしもー!」
後に続くノアは蒼白い稲妻を纏う。
スキル【雷】は稲妻を操る能力。
稲光を纏い、敵の最中を駆け抜け、稲妻が泥を砂に還していく。
「はぁ、事前に決めたことがなにも……しようがないですね」
自由奔放な二人に合わせてスキルを発動したククはサポートに回る。
二人が取り漏らしたマッドフィンガーを刈り取り、猫のようにしなやかな動きで戦場を駆ける。
「できる。俺にならできるはず。大丈夫、大丈夫だ……」
三人に出遅れる形でコリンがスキルを発動する。
スキル【岩石】は自身に石の鎧を纏わせる能力。
拳に纏えば強烈な一撃となり、全身に纏えば強固な守りとなる。
出遅れたものの、コリンはそれを取り戻すように岩石の拳を苛烈に振るう。
「わーお、調子よさそうじゃん、コリンくん。あれ? でも、あんなに動けてたっけ?」
「隠れて修業でもしてたんだろ。負けてらんねぇな」
大量に出現したマッドフィンガーは瞬く間に殲滅された。
「いえーい、ファンサ完了!」
「上出来だ、これだけ動けるならダンジョンの表層は問題ないよ。ただ」
剣を抜いてノアたちの足下に投げる。
投擲した刃は地面に突き刺さり、不意を打とうとした最後のマッドフィンガーを貫く。
「ちょっと詰めが甘いかな」
「チッ、締まらねぇな」
「もっと精進しないと、ですね」
剣を引き抜くと輝きが煙のように立ち上り、仮面となって現れる。
泥の仮面。また一つ、新しい能力を手に入れた。
「なーに? それ」
「俺のスキルだよ。斃した魔物の能力を使えるんだ」
「わーお、今日一のびっくり!」
「おいおい、そんなスキルありかよ」
「ククちゃんは知ってたの?」
「えぇ、まぁ」
「いいな、いいな、ちょっと仮面調べさせてー!」
「はいはい。そう言うのはダンジョンから無事に帰れたら」
「ぶー……しようがない。約束だよ!」
ひとまず最初の戦闘は上手く行った。
このまま何事もなく終わってくれるといいけど。
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