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課外授業


 折れた石柱、崩れた家屋、割れた石畳み。

 見慣れた光景の中を年若い集団が緊張した面持ちで進む。

 今日は課外授業当日、まだ経験の浅い学生が冒険者の本場に挑む日。


「よし、全員いるな」


 生徒は複数の班に分けられ、一班につき一人の引率が付く。

 俺の受け持ちはククをはじめとした男女四人組。


「わくわくするね。たーのーしーみー」


 一人はノアという名の女子生徒。

 彼女の素行は良いとは言えず、クク曰くサボり魔だとか。

 戦闘服をかなり着崩しているし、性格はかなりマイペース。

 ただやる時はやるそうで、ダンジョンの中で身勝手な行動はしないと思われる。

 素行が悪いと言えばもう一人。


「くぁー……待ち時間長ぇよ。さっさと入らせろってんだ」


 ガルドと言う名の不良少年。

 戦闘服は派手に改造され、耳にはピアスが幾つも付いている。

 冒険者にとって装飾品は非推奨。魔物の爪やダンジョンの凹凸に引っかかり易く、簡単に怪我に繋がってしまうのが理由だけど、彼はお構いなしな様子。

 血の気が多いようで、最近でも喧嘩をして危うく課外授業に出られなくなるところだったらしい。

 最後は俺もすこしだけ知っている男子生徒、コリン。


「ん? コリンくんどったの? 顔色悪くなーい?」


「い、いや。そんなことないよ。ちょっと緊張してるだけ」


「おいおい、そんなんで大丈夫かよ。命懸かってんだぞ、命が」


「わかってるよ。心配いらないから」


 ガルドよりもすこし小柄で、背丈はノアと同じくらい。

 性格は真面目で成績も良いほう。

 気になってククに彼の印象を聞いてみたけど、特にないらしかった。

 この事実は俺の胸の内にしまっておくことにして。


「じゃあ、改めて軽く自己紹介。現役ぴちぴち冒険者のシンリだ。よろしく」


「いえーい、ぴちぴちー!」


「いえーい。ってことでダンジョンの中に入ったら必ず俺の指示に従うこと。今夜眠るベッドを棺桶にしたくないならね。わかった?」


「わーってるよ。俺も馬鹿じゃねぇから指示には従う。納得できる指示にはな」


「ありがと。なにか質問は? よし、なら行こう」


「いざ、出棺-!」


「出発!」


 大事なことなのでちゃんと訂正しつつダンジョンへ。

 班に二人も問題児がいる。この二人には常に注意が必要だ。

 ダリル先生にも目を離すなって言われてるし。

 癒やしはククとコリンだけだ。


「引率、上手くできそうですか?」


「今のところはね、今後はちょっとわからないけど」


「頑張ってください。私もサポートしますから……その、シンリ先生」


「おっと、そう呼ばれるのは予想外かも」


「だ、だって今この場では引率の先生ですから」


「なるほどなるほど、悪くない響きだね。シンリ先生! 額に入れて飾りたい気分」


「も、もう! からかわないでください」


「ごめんごめん」


 ふとコリンが会話に参加していないことに気がつく。

 無口なほうではないと聞いているから、やっぱり体調不良かな。


「コリン。平気?」


「え? あ、はい。大丈夫です。問題ないです」


「そう? なにかあれば言ってね。安全第一だから」


「はい……そうします」


 本人が大丈夫というからには大丈夫なんだろうけど、本調子ではなさそう。

 コリンにも気を配るとして、あぁ大変だ、俺が三人欲しい。

 けど、頑張ったって分裂も分身もできないし、やるしかないか。

 先生ってこんなに大変なの? 世の教師全員尊敬しちゃう。


「さぁて、気合い入れないと」


 前の班に続く形で俺たちもダンジョンに突入する。

 ダンジョンは広いので他の班と接触するのは最初のみ。

 それ以降は各々が別々の方向へと散っていく。

 俺たちの班の目標は一定量の資源回収と、なるべくダンジョンの方々に足を運ぶこと。

 そして全員揃って帰還することだ。


「なぁ、シンリ先生よ。あんた深層って言ったことあんのか?」


「あるよ」


「どんなところなんだ?」


「こことは比べものにならないくらい危険なところかな。魔物の強さも段違い。正直、この即席パーティーじゃあ直ぐに涙目敗走しちゃうね」


「そんなにかよ……」


「卒業しても直ぐには深層を目指さない方がいいよ。一人で突撃したりなんて以ての外だからね」


「そんな無謀なことする奴がいんのかよ」


 ちらりとククを見ると視線を逸らされた。

 色々と切羽詰まった事情があるとはいえ、ククも無茶をしたもんだ。

 今こうして笑い話にできるってきっと幸せなことだよね。


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