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「あ、見て見て。そこに何かある!」


 浄化した毒沼の底にあたる部分に赤い煌めきを見る。

 足を踏み入れると毒の影響で脆くなった表層が簡単に砂になってしまう。

 足を滑らせないように慎重に底まで進むと、それは地中に埋蔵されていた鉱石の一種だった。

 透明感のある紅色の石。

 毒に晒されてもその輝きは失われてはいない。

 手で触れてみると簡単に取り外せた。


「綺麗」


「気に入った? じゃあはい」


「え?」


 鉱石をククに渡す。


「いいんですか?」


「いいよ。ククに似合う」


「あ、ありがとうございます。嬉しいです、そう言ってもらえて」


 喜んでもらえてなにより。

 足下を慎重に確かめながら底から先に脱出。

 ククの手を引いて石畳みの地面に帰還する。


「この調子で浄化していけばまだ他にも資源が見付かるかもね」


 ユニコーンの角を掲げ、毒を浄化しながら先へと進む。

 俺の予想は的中し、毒沼を取り除くたびに資源が顔を覗かせた。

 毒対策を万全にしても毒沼に浸かろうとは普通考えない。

 手付かずの沼底は資源の宝庫だった。


「ドブ攫いなんて言葉があるけど、こう言うのなら大歓迎!」


 腰に巻き付けた雑嚢鞄にはまだ余裕がある。

 まだまだ帰り時じゃないかな。


「楽しそうですね、本当に」


「まぁね。折角、ダンジョンに入れるんだから楽しまなきゃ。ククは違うの?」


「私が冒険者になったのはお金が必要だからで、特に楽しもうと思ったことはないです」


「そっか。俺からしたらちょっと勿体ない気がするけどね」


 でも、そうか。

 母親の治療費に自分の学費と生活費、その他もろもろ。

 金回りは火の車だって言ってたし、かなり苦労してるんだよね。

 借金とかもあるのかも知れないし、楽しんでいる余裕なんてないのかも。


「なら、もしかして十分に金を稼いだら冒険者辞めちゃうとか?」


「……考えたこともありませんでしたけど。でも、母が元気になって金銭面の不安が無くなれば冒険者を続ける理由はないのかも知れません」


 ククが冒険者を辞めちゃったらまた一人か。

 まぁ明日明後日の話ではないとわかっているけど、また孤独になるのは寂しいものがある。ククが決めたことなら引き留めるわけにもいかないしね。


「シンリさんはどうして冒険者を続けているんですか?」


「俺? 俺は――」


 直感が危険を告げ、咄嗟に一角獣の仮面を被る。

 その正体は通路の奥から凄まじい速度で迫り来る毒の汚染。

 右手に顕現した角の槍が優しい光を放ち、自身とククを中心に周囲を守る。

 ユニコーンの能力で浄化できる範囲外はすべて毒に汚染された。


「こんな速度で……いったいなにが」


「さてね。けど、今にわかるんじゃない?」


 通路の奥から何かが来る。

 何か大きなモノが擦れるような音が響き、姿を見せたのはこの汚染区域のヌシ。


「ウェネーヌム」


 毒蛇の魔物だ。

 巨体を揺らし、濃い紫色の鱗を摺り合わせ、こちらににじり寄ってくる。

 こちらが応戦の構えを取ると、ウェネーヌムは喉の奥から嘔吐するように毒液を吐き出した。


「ちょっとエチケット袋持ってないの? マナーでしょ」


 迫り来る毒液の波。

 だけど、ユニコーンの能力の前では無意味。

 浄化範囲に入った途端、綺麗サッパリ消え去った。


「あとで掃除するほうの身にもなってほしいもんだね。ま、言っても伝わらないだろうけど」


 自慢の毒液が聞かないと見るや、ウェネーヌムは自らの眷属を呼ぶ。

 自らが汚染した箇所から何匹もの毒蛇が這い出してくる。

 ウェネーヌムほどじゃないけど、それでも軽く二メートル以上あって太い。

 出来ればウェネーヌムの相手に集中したいけど、この数じゃそうも言ってられないか。


「シンリさん。取り巻きは私がなんとかします」


「クク」


 そうだ、今は一人じゃないんだった。


「わかった、ならウェネーヌムは俺がきっちり斃すよ」


「お願いします」


 そう返事をしたククは自らのスキルを発動する。

 それは人体変化の一種。

 頭部からは獣耳が生え、腰から伸びた尾は二つ。

 ククのスキル【猫又】は獣の力を得る能力だ。

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