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病人である時分には、病人という明確たる立ち位置を獲得し、俺は幾らか安堵し、そこに居残ろうという気概が生まれる。病が治ろうとしていることに気づいた時、果てしない不安に襲われるのはその為だ。俺は平生のふわついた浮遊感という不安感を無自覚に恐れ、異常に遷移することで、自分が他者の影ではなく、しっかりとそこに根差した存在であることを確認したい欲求を内在しているのだ。しかしながら、甚だ矛盾めいたことだが、自分が他人と同様、正常な状態であることに対しても一種の憧れが無いわけではない。つまり、数多の他人のように、俺も正常な人間として存在していることに憧れているのだ。しかし、俺の生まれ持った性質ー他人の顔色から自分の存在を確認する性質ーが正常であることを拒む。普通の人間に対してゆっくりと目を向け、その行動を真摯に観測する者などいないからだ。つまるところ、俺は他の誰かにとって特別で、ある意味で異常と言えなくもない、明晰な立ち位置を獲得しなければ、異常への憧れから身を滅ぼす結末を避けられないのだ。
果てしない焦り・雲の上には常に空が存在することへの恐怖




