2
俺は縦書きの文庫本にボールドで書かれる会話文の一説に頬を赤らめるような人間だ。のっぺりとした活字の空間に加えられたスパイスが、妙に鼻腔に残って俺を苛々とさせるのだ。
スパイスが悪いのではない。むしろ整然とした風景は悪だ。整列した文字列は心をぐるぐると掻き混ぜ、焦燥をもたらす。比喩ではなく、俺は胸を揺らして呼吸し、背中を冷たいものが伝うのだ。
しかし太字は良くない。これ見よがしに設定されたスパイスは寧ろ整然を際立たせる。百貨店に重ねられた本の上に鎮座するレモンや、コンビニエンスストアに置かれたステーキ肉、コンクリート街の案山子のように、平生と異なった様相が平生を強く自覚させるのだ。俺は視界の端に色濃く書かれたボールドに急かされ、嘔吐する。
喉を伝う粘性は酸味のある異臭をもって、胸に居残る。痛みが与える不安感はその場凌ぎの薬になるが、慢性的な痛みは寧ろ俺を不安にする。心臓が明日へ急ぐ。しかし明日は来ない。訪れるのは今日と同じ一日だ。
外をカラスが飛んでいる。電線がビルの合間を縫っている。日は未だ昇らない。窓に映る男は不精な髪を掻き上げ、嘔吐感に口角を上げる。俺は俺の世界で唯一描かれない。最終章に差し掛かり、伏線の回収が必要だろうか。...分からない。分からないが一応それらしいことはやっておこう。
俺は
締まりが悪い。




